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    フィンチ

    @canaria_finch

    🔗🎭を生産したい妄想垢

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    フィンチ

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    10×17の年齢操作現パロ🔗🎭

    #Sonnyban
    sonnyban

    My little darling 朝というには遅い時間。ベットの上でゆっくり伸びをしてから、くぁと大きなあくびをひとつ。ぼんやりとした頭でまだまだ転がっていたいと抵抗する身体を引きずってベランダに出ると、見下ろした先にいた人物にアルバーンの目はぱっちりと開いた。
    「さぁに、おはよ」
     甘い声の呼びかけに反応して視線を寄越したのは、金糸の髪に整った顔立ちの美しい少年。ひらひらと手を振るアルバーンと目が合うと、恥ずかしそうに目線を彷徨わせてから小さく手を振り返してくる。ああ、なんて可愛らしい反応。シャイな少年のそんな仕草に、堪らず口元も緩んでしまう。元々キラキラしたものが好きなアルバーンが、お隣に引っ越してきたこの少年を気に入らない訳がなかった。
     とはいえ、最初からこんなに気安く接していた訳ではない。引っ越しの挨拶をしに来た時の様子だけ見てもあまり積極的に話しかけては怖がらせてしまうかもしれないと思ったほどであるから、しばらくは偶然顔を合わせれば挨拶をする程度の近所付き合いだけだった。それがどうして先ほどのようなやり取りをするような仲になったかというと、きっかけはお隣のご一家が越してきてから一月ほどが経った頃のこと。庭で草むしりをしていたアルバーンの前に、天敵とも言える存在が姿を現したのだ。そう、蜘蛛である。
     気付いた時にはそいつはあまりにも近くに来ており、反射的にあがった悲鳴とは裏腹に身体は全く動かない。そこに駆け付けたのがお隣さんの末息子・サニー少年だった。
     その場でへたり込んでしまい、ろくに喋れもしなかったアルバーンができたことといえば顔を背けて震える指先で天敵の存在のいる位置を指し示すことくらい。すると、サニーはちょっと待っててとだけ言うと少しの間を置いてからその場を離れて行く。いったい何をしているのだろうと気になりつつも確認するのも恐ろしくて視線を向けられないとでいると、すぐに戻ってきてもう追い払ったから大丈夫だとアルバーンを宥めてくれたのだ。恐る恐る視線を巡らせてみたが確かにそいつは見当たらない。そこでようやっと緊張の糸が切れ、ホッとしたアルバーンは思わずサニーに抱き着いた。
     正直なところ、その時に具体的に何を言ったのかアルバーンは覚えていない。とにかくそいつがほんとの本当にダメなことと、助けてくれたことへの感謝を繰り返し口にしていたようなといった程度。けれども言われたことははっきり覚えている。

    『大丈夫、次もおれが助けるよ』

     身長差のため、顔を下から覗き込みながら言われたその言葉に思わず胸がときめいた。そして、今までにないほど間近で見た顔は可愛らしく綺麗ではあったけれど、意思の強さを感じる吸い込まれてしまいそうな瞳にまた別の感情を抱く。あの時から、アルバーンにとってサニーはお気に入りのお隣さんから“特別な男の子”になったのだ。





     個人間で親しくしているのは勿論、家族ぐるみでイベントごとを行うこともしばしばある。花火大会の開催にあわせて庭でバーベキューでもしようと言い出したのは誰だったか。大人達にとっては飲みがメインなのではと思わなくもなかったが、サニーとゆっくり花火見物ができるというのはアルバーンとしても願ったり叶ったり。ところが、その話が出てすぐにサニーの姉が友人達と花火を見に行くという話が耳に入ってきた。てっきり家族揃って参加するものと思っていたアルバーンにとっては寝耳に水。この分ならサニーもというのは十分有り得る。自分も同じように誘われてはいたというのに、早々に断っていたものだからすっかり頭から抜けていた。
     どうしたものか、サニーがいないのなら大人達の中にひとり混ざるのはさすがに気まずい。とはいえ今更友人達にやっぱり行くと言うのも気が引けるし。とりあえずサニーにどうするのか直接確認してから考えよう。うんうんと唸りながらひとまずの結論を出したアルバーンだったが、その心配は結果として杞憂に終わった。
    「え…行かないけど……アルバンは行くの?」
     何気なくを装っての問いかけに返ってきたのは、不思議そうな表情と不安げな問い返し。その答えにホッとして、すぐさま行かないよと笑いかけると小さな安堵の声が耳に届く。そんな反応ひとつとっても可愛くて、アルバーンはきゅんとトキメく胸を押さえながらある提案を口にした。
    「それならさ、花火は僕の部屋でふたりで見ない?父さん達はお酒も飲むだろうからベランダからゆっくり見よ」
     それを聞いたサニーは瞳をまんまるにしてから、俯きがちに小さくうんと頷く。金糸の髪の隙間から見え隠れするほんのりと赤らんだ耳たぶに、落ち着きなく絡める両の指。言葉にしなくても伝わってくる喜びの気配は、胸の内を刺激してやまない。可愛くて、その素直さが嬉しくて。だけど、もっともっと喜ばせることは出来るはずとアルバーンは思案する。
     気分を出す為に、出店で売ってるようなものを用意してみてもいいかもしれない。バーベキューをするなら鉄板も出すだろうから、焼きそばは用意してもらえそう。あとは、カキ氷を食べながらの花火見物とか。何より、サニーにお祭りの雰囲気を楽しんでもらいたいからと相談すれば、大人達は快く協力してくれそうだ。
     当日のことをあれこれ考え始めると、色々と案も浮かんできて心が弾む。そして、そのいくつかを口に出してみると青い瞳が段々と輝きを増していくものだから、その変化がまたアルバーンの心を高揚させた。
    (楽しみだな……サニーも、楽しんでくれるといいな)
     イベントごとは好きだけれど、一番の目的はそれ。楽しんでほしいし、一緒に楽しめるならなお嬉しい。そんな近い未来を思い浮かべ、アルバーンは目を細めて微笑んだ。





     夏休みが始まり、学校が休みになった分自由になる時間は増えたはずだというのにあっという間に日々は過ぎていく。ふたりで寝ぼけ眼でラジオ体操に参加したり、スイカのアイスキャンディーを作ってみたり、プールで遊んだ後には大きなブランケットをかけて昼寝をしてみたり。時にはエアコンの効いた部屋で各々宿題を片付けたりなんてことも。花火大会が開催される今日も、アルバーンはサニーの部屋で順調に夏休みの課題をこなして、おやつにはスイカをごちそうになっていた。
     先の割れたスイカ用のスプーンを使って種を取りながら食べるアルバーンに対し、サニーは大きく口を開けて豪快にかぶりつく。一見すると繊細そうな美少年がそれをするのはなかなかギャップがあるが、そうしてもくもくと食べている姿は可愛くて、何より目の輝きや雰囲気から美味しそうなのが伝わってくるところが特に好きだ。
     夕飯が入らなくなるといけないからと少し小さめに切られたスイカはあっという間になくなり、皿を片付ける為にキッチンへと向かうと浴衣姿のサニーの姉と顔を合わせた。白地に赤い金魚柄の浴衣が可愛らしい。よく似合ってるねとアルバーンが言うと照れくさそうにしながらもありがとうと笑ってくれる。花火大会にはまだ時間もあるようだったが早めに出かけていく彼女を玄関口で見送り、玄関のドアが閉まったところで先ほどから随分と大人しいサニーの様子がふと気になった。どうかしたのだろうか。これといって何か気になるようなことはなかったはずだけれど。不思議に思い声をかけようとするも、今度はバーベキューの準備を始めていたサニーの両親から呼ばれてしまう。どうやら材料を買うのに気を取られて子供達が飲む分のジュースを買うのを忘れてしまったようだ。別に麦茶でもかまわないのだけど…、と思いつつも自分の分だけではないからふたつ返事でおつかいを引き受けると、おれも行くとサニーから声があがったものだから連れ立って近所のコンビニまで行くことになった。
     まだ日が落ちるような時間ではないから陽射しも強く、冷房を効かせた家から一歩外に出るとじわりと汗が滲み始める。道のりはそう遠くないけれど、なるべく日陰を歩くようにしてと。不満そうに麦わら帽子を被ったサニーを宥めながら歩いていくと、10分もしないうちに目的地へと辿り着いた。
     店内に足を踏み入れた瞬間に、冷房による冷たい空気が身体を包み込んできてどちらからともなくほぅと息を吐く。買ってくるよう言われたのは飲み物だけだけれど、せっかくだからアイスやお菓子のコーナーも覗いていこうか。そんなことを思いながらアルバーンが買い物カゴを手に取り、まずは飲み物の確保に向けて歩き出すとそこには見知ったふたり連れ。思わずあげた、あ、という声に反応してまずは浮奇が、それから一拍遅れてファルガーが振り返る。しかしアルバーンが声をあげたのは偶然会ったからではない、その出で立ちにだ。
    「うーき!浴衣着たんだね、すごく似合ってるよ~」
     男性向けの浴衣としてはあまり見ないデザインだが、涼し気な白地に濃紫の絞り染めが施された生地はまるで花が咲いているようにも見え、中性的な浮奇の雰囲気を引き立てつつも黒いペイズリー柄の帯がアクセントとなってスタイリッシュにまとめられている。
    「ふふっ、ありがとう。アルビーは……彼とおつかいかな?」
     素直な賛辞をにこやかに受け取ると、浮奇はちらと視線を向けてから問いかけた。すると、サニーはさっとアルバーンの後ろに隠れてしまう。初対面という訳でもないのだけど、親しい間柄でもない年上の相手を前にした恥ずかしがり屋の少年の反応としてはこんなところだろうか。
    「うん、僕とサニーの分の飲みものを買いにね」
     にっこりと笑って答えたアルバーンだったが、その笑みをすぐに意地の悪いものへと変えて視線をずらす。
    「で、ファルガーはなんで浴衣着てないのさ」
     それまで他人事のように聞いていたファルガーを強引に会話に引き込むが、それに驚くほど浅い付き合いではない。やったなこいつと言わんばかりの表情ですぐに応戦し始める。それは、言葉だけではなく行動でも。
    「着ないんじゃなくて“持ってない”んだ。今まで着たところなんて見たこともないくせに何を言ってるんだぁ?アルバにゃん」
    「あ、ちょ、頭押さえるのやめてってば!縮んだらどうしてくれるんだよ!」
     ケンカとは言えない、あくまでも戯れの域を出ないやり取りを浮奇が呆れた風に仲裁するのもいつもの流れ。
    「ほらふたりとも、店の中で騒がない」
     しかし、今日はそのタイミングでぴたりと頭を押さえ付ける手の感触が消える。おや、と思いアルバーンが顔を上げると、そこには何故かホールドアップ状態のファルガーが。それに、彼の視線の向かう先は自分ではなくそのすぐ後ろ。隠れるような位置にいるものだから表情はよく見えないけれど、サニーと一緒にいるのにいつものノリでふざけ過ぎたかなと反省し、アルバーンは浮奇にごめんなさーいと返事をするとさっとやり取りを切り上げてその場を離れた。
     当初の目的を果たす為、どれにしようかと話しかけながらショーケースの中身を物色し始めるもこれがなかなか難しい。麦茶が作ってあることは知っているから、買って行くのならジュース類。珈琲は好きだけれど、バーベキューをしながら飲むかというとそれは少し違うような気も。サニーに何がいいか聞いてみると、指差したのはオレンジジュースの紙パック。それってうちの冷蔵庫にいつも入ってるやつじゃん。本当に自分の好みで選んでるか…?なんて、怪しく思ってみても本人がそうと言うのなら確かめようもない。出されたものを気に入っただけという可能性もあることだし。
     それから適当に明日以降に食べる分のおやつをいくつかカゴに放り込んで会計に向かったアルバーンだったが、レジ横に置いてあったある商品に目を奪われた。いかにも夏らしさを感じさせる水色の瓶。いいかもしれない。そう思ったのとどちらが早いか、さっと二本の瓶を掴んでカゴの中に加えてから会計を済ませる。帰り際にまだ店内で涼んでいたらしい浮奇とファルガーと目が合い手を振ると、浮奇はその出で立ちに似合いの優雅さで手を振り返してくれたものの、何故か上げかけた手を止めて僅かに顔を引き攣らせていたファルガーの反応はなんだったのか。変なヤツ、と首を傾げながらアルバーンはサニーと連れ立って店を後にした。

    「まったく……あの子の前でアルビーにちょっかいかけるから」
    「そう思うならもう少し早めに止めてくれ」





     買い出しを終え、家に戻って一息吐いたふたりは何か手伝えることはないかとキッチンに顔を出した。庭では父親達がバーベキュー用のコンロの用意をしていたが、それらの道具に馴染みのない子供ふたりが手伝いを申し出たところでかえって邪魔になってしまうだろう。キッチンでどれだけのことが手伝えるかというと、そちらも限られてはいるのだけど。
     メインの肉類や魚介類の下処理をしていた母親達からふたりが頼まれたのは野菜の下準備。ほとんど丸焼きにする為、包丁を使うことはほぼほぼなかったが野菜嫌いのアルバーンとしてはこれを食べることになるのかと思うと非常に気が進まない。玉ねぎにナスにピーマン、トウモロコシ。許せるのなんてジャガイモくらいだ。
     普段ならなんとか回避しようと試みるのだが、コンロの番をするのは50%の確率で両親なものだから肉と一緒に野菜も取り皿に載せられるのは目に見えている。サニーの気遣わし気な視線をひしひしと感じながら、アルバーンはげんなりとした顔で玉ねぎの皮を剥き続けた。
     そしてバーベキューを開始して間もなく、渡された皿に当然のように載せられたのは丸のままのピーマン。タレをたっぷりつけてあるせいか、はたまた調理法のおかげなのかあの苦みは感じずには済んだものの、くたりとした肉厚の食感にどうしたって嫌な記憶が呼び起こされる。苦くない、苦くない、……苦くないはずなのに。何とも言えない表情で噛み続け、ようやっと口の中のものを飲み込みがっくり肩を落としていたアルバーンだったが、サニーの呼びかけで顔を上げると視界に入ったものにパッと目を輝かせた。
    「アルバン、お肉もらってきたからいっしょに食べよう?」
    「さっ、さぁにぃ〜!!!」
    「うわっ、抱きついたら危ないって!」
     勿論、皿を落とさせてしまったり服を汚してしまう訳にはいかないのでちゃんと加減したつもりだったのだが、それでも慌てるサニーの反応にアルバーンの顔はついつい緩んでしまう。優しい、可愛い、良い子!ありがとぉと笑って代わりに皿を持ち、タレに漬けこんだカルビをパクリと頬張ると、先ほどまで残っていた嫌な記憶を全てかき消すようなジューシーな肉汁が口内に広がった。その味にすっかり機嫌を直したアルバーンの隣では、サニーが手掴みしたスペアリブにかぶりつく。はぐはぐと口の端にタレがつくのも気にせずに食べているところを見ると、楽しんでくれてはいるようだ。
     その後も幾度か野菜を食べなければいけない状況に陥ったものの、その度にサニーが肉やシーフードを皿に盛ってきての繰り返し。正直、そうすれば野菜を食べると両親の策にはめられている気がしないでもなかったが、サニーからの応援は純粋なものであったからアルバーンもそこは頑張るしかない。ただ、玉ねぎだけはさすがに丸一個は無理だと言って半分をサニーと分けることに。嫌いなのもあるが、アルバーンの胃の容量は食べ盛りの男子高校生と比較すると少々控えめであったから、せっかく色々と食べるつもりでいたのにと訴えてそこは譲歩してもらえた。
     そうこうしている間に時間は経ち、一通りの目当ての具材は食べて、最後に焼きそばをふたりでつまみ終わった頃にはお腹は十分過ぎるほどに満たされている。大人達も食べるペースはすっかり落ちて、どちらかというとアルコールを入れながら話に花を咲かせているようだ。そろそろかなと判断し、アルバーンが母親に声をかけると片付けはいいからと了解も得られた。
     先に部屋に行って待っていてほしいと伝えると、サニーの瞳が少し戸惑ったように揺れ、僅かな間をおいてからこくりと頷く。そういえば、互いの家を行き来してはいるけれどたいていはリビングで過ごしてばかりで、サニーの部屋にお邪魔したことはあっても招いたことはなかったか。ベランダから顔を出しているところは散々見ているから部屋の位置は分かるだろうが、階段を上がってすぐの目の前の部屋だと教えるとアルバーンはさっとキッチンへと向かった。目当てのものは冷蔵庫の中。コンビニで買ってきた二本のラムネ瓶だ。レジ横に並んだそれを見た瞬間に花火見物のお供はこれだと直感して手に取っていた。
     これを飲んでどんな反応をするだろう。喜んでくれるかな。冷えた瓶の首をまとめて掴み、トントントンとリズミカルに階段を駆け上がっていく。すると視界に入ったのは開いたままの自分の部屋のドア。そこから人工的な光が漏れてくる気配はない。電気くらいつければいいのに。そう思いながら上りきり部屋に入ろうとすると、薄暗い部屋の中で佇んでいるサニーの姿が目に入り思わずその足を止めた。
     僅かに差し込む月明りをバックに振り向く様が、まるでスローモーションのようにアルバーンの目には映る。太陽の下でキラキラと光る金糸も、菫青石アイオライトに似た瞳の煌めきもそこにはない。あるのは月光を受けて普段とは違った輝きを見せるブロンドと、静かな湖面を思わせる神秘的な眼差し。その光景に息を呑み立ち尽くしていると不思議そうに名前を呼ばれ、アルバーンはハッと我に返り口を開いた。
    「アルバン?」」
    「あ、ごめんね、待たせちゃって。今準備するから少し待ってて~」
     軽く笑って動揺を散らしながらラムネ瓶を一旦机に置くと、事前に用意しておいたアウトドアチェアをふたつ引っ張り出してベランダへと設置する。そこまでスペースがある訳ではないから申し訳程度の背もたれがついたシンプルな作りのものだけれど、花火見物の間座っているには十分だろう。はいどうぞと促すと、座りなれていないせいかこわごわとサニーが腰を下ろす。その少し緊張した面持ちは時折見かけるものであったから、いつもと同じだとアルバーンの心臓も少しだけ落ち着きを取り戻した。
     隣に並べたアウトドアチェアに座って、ラムネ瓶を片方手渡すとまじまじと見つめる様子が可愛らしい。開け方が分からないのか色んな角度から見てみる姿につい笑いを零すと、気恥ずかしさを誤魔化すかのように睨まれてしまう。ごめんごめんと謝って、僕と同じようにやってみてとアルバーンが言うとサニーはまだ少し不満そうではあったけれど分かったと頷いた。
     まず、ラムネ瓶のキャップを覆っているフィルムを剥がし、キャップの上に乗っている中央が出っ張った蓋のような部品を取り外す。続いてサニーが同じように真似て外したのを確認すると、アルバーンはよく見ててと言ってその蓋を飲み口に乗せ、掌を使ってグッとそれを押し込んだ。すると瓶の中にきゅぽんっと音を立ててビー玉が落ち、みるみるうちに中の水位が上がっていく。わっと小さく声を上げて目を丸くする姿が微笑ましい。
    「溢れてきちゃうから押さえたままで少し待つんだよ」
     そう口にして、いーち、にーぃ、さーん、しーぃ、ごっと数えてから手を退けると、はい出来たとアルバーンは蓋を外して見せた。このまま口をつけて飲んでしまいたいところだけれど、どうせなら一緒に飲んで味わいたい。神妙な顔で取りかかるサニーを見守っていると、随分と肩に力の入った様子で蓋を押し込んでいく。確かに自分と比べて小さいし、ビー玉が落ちてからもしっかりと押さえておいた方がいいのだけど、あまりにも真剣なその姿についつい顔が緩みそうになる。ダメだダメだ、ここで笑うと今度こそ機嫌を直してくれないかもしれない。そう言い聞かせると、アルバーンは自分の時と同じように5秒数えてからもういいよとサニーに声をかけた。
     それから飲み方のコツもしっかりと伝え、待ちかねたとばかりに飲み口に唇をつけてラムネ瓶を傾けるとしゅわしゅわとした爽やかな甘酸っぱさが喉を通っていく。昼間に比べるとマシとはいえ、夏の夜の蒸し暑さは否めない。だからこそ、そんな中で飲む冷えたラムネはその味も相まって心地よい清涼感をアルバーンに与えた。
    「美味しい?」
    「…うん」
     慣れない飲み方に苦戦中のせいかその答えに笑顔はなかったものの、無理に気に入らないものを口にするような性質でもないと知っているから、それに対して良かったと安堵の呟きが漏れる。そうしたら、残る今日の目的はあとひとつ。そう思うと同時にドンッと遠くの方で音がして、放射状に散らばった尾を引いた星が夜空に大輪の花を描いた。
     金一色の花に、花びらの先の色が変化している花、尾は引かずに光が点のように広がって描く花とその種類は様々。中には割れた玉から柳のように光が落ちてくるものや、ハート型や蝶の形が描かれる変わり種なんてものも。
    (綺麗……やっぱり今日一緒に見れて良かったな。色々出来て楽しかったし。サニーは…、どうだろう?)
     次々と打ち上がる花火を視界の端に捉えながら、アルバーンは隣に座るサニーへと問いかける。
    「ねぇサニー、今日は楽しかった?」
    「うん…、アルバンは―――」
     言葉少なな返事の後、途切れた言葉をそのままにしないようアルバーンはすぐに答えを返した。
    「僕もすっごくすっごーく、楽しかったよ」
     笑いかけると伏目がちになって黙り込むのにはもう慣れっこだ。これはこの子の照れ隠しのようなものだから。でも良かった、楽しんでくれていた。それが分かってアルバーンは更に嬉しくなってしまう。そんな気分の高揚と比例するかのように夜空を彩るショーも終盤を迎え、連続した花火の打ち上げが始まった。たて続けに身体に響いてくる玉の割れる音。空にはこれまでにあがった花火が次々と打ち上がっていく。そのどれもに違った魅力があり、夜空を彩る輝きの数々にアルバーンは思わず目を奪われていた。
     すると、打ち上げ音の中に紛れてしまいそうなサニーの呟きが耳に届く。
    「浴衣」
    「え?」
     空を見上げたまま聞き返すと、返ってきたのは唐突な問いかけ。
    「アルバンは、浴衣着ないの?」
     それを受けて買い出しに出た時のことを思いだす。そういえば、今日は花火大会があるからと知り合いのみならず道行く人も浴衣を着ている人が目立っていた。それを見て抱いたのは綺麗だったり可愛いというデザインや着こなしに対しての感想ばかりで、自分もという発想には至らなかったけれど。
    「んー…夏らしくていいとは思うんだけど、着付けとかのことも考えるとちょっとね」
     そもそも買うところから始めないとだし。軽く笑ってそう返して、それでこの話はおしまいとアルバーンは思っていた。けれど、サニーにとってはそうではなかったようで、思いもよらない問いが重ねられる。
    「じゃあ、おれと一緒なら着てくれる?おれも……浴衣着たら」
     それは非常に魅力的な提案だ。サニーも着るのならとは思ってしまう。次はふたりで浴衣を着て、またこんな風に花火を見られたなら。うん、すごくいいかもしれない。
    「んふふ、そしたら着ちゃうかも」
     いよいよフィナーレを迎えるのか、一際盛り上がりを見せる花火の打ち上げを眺めながらアルバーンは来年のことに思いを馳せる。サニーはいったいどんな浴衣を着るのだろう。お母さんに選んでもらうのか、自分で選ぶのか。可能なら自分も一緒に選べたらなんて。
     だから、サニーが距離を詰めるように身を乗り出してきたことにも気付いてなかった。
    「じゃあ、来年は浴衣を着て一緒に花火を見ようね」
     不意に首筋に触れられたことに驚き、アルバーンの身体が反射的にびくりと跳ねる。そして何事かと振り向いたその瞬間に、唇の端にふにと柔らかな感触が押し付けられた。
     今いったい、何が起こった?きゅっと引き結んだ唇が目に入り、確かめるまでもなく何が触れたのか分かってしまう。その事実についていけずに目を丸くしたアルバーンに対し、パッと距離を取ったサニーの表情は拗ねているような何かを堪えているような複雑なものだったけれど、打ち上がった花火の光に照らされた顔は今までに見たことがないほど真っ赤に染まっていた。
     それを見て、アルバーンの顔にも遅れてじわじわと熱が広がり始める。きっと今、サニーと同じくらい自分の顔は真っ赤になってるに違いない。だってこんなにも顔が熱くて、どうしようもなく逃げ出したい気分なのだから。
     そんな揺らぎを察してか、まだ成長途中の幼い指が無防備に置かれていたアルバーンの手に重ねられる。

    「約束だよ、アルバン」

     Noとは言わせないと言わんばかりの睨みつけるような視線。別に怒ってる訳じゃないことは知っているから怖くはない。怖くはないのだけど、そこから伝わってくるサニーの羞恥はアルバーンにもしっかりと伝染して、絞り出した声は情けないほどか細い響きとなって花火の音にかき消された。
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    フィンチ

    DONEふわっとしたMHパロ、ガノレク🔗×アイノレー🎭の馴れ初め
    仲良くなれるかな? とある村のアイルーキッチンで働き始めたアルバーンには悩みがあった。仕事自体は新入りということもあって覚えることも多く大変ではあるが違り甲斐がある。コック長は厳しくも懐の大きいアイルーであるし、手が足りてないようだと働き口として紹介してれたギルドの職員も何かにつけて気にかけてくれている。それならばいったい何が彼を悩ませているのかというと、その理由は常連客であるハンターの連れているオトモにあった。
    「いらっしゃいニャせ!ご注文おうかがいしますニャ」
    「おっ、今日も元気に注文取りしてるなアルバにゃん」
    「いいからとっとと注文するニャ」
     軽口を叩きながらにっこりと愛想の良い笑みを浮かべてハンターを見上げるアルバーンは、傍らに控えているガルクからの視線にとにかく気付かない振りをする。そう、このガルクはやってくるとずっとアルバーンを見てくるのだ。しかも、目が合っても全く逸らさない。ガルクの言葉など分からないから当然会話も成立しない。初めて気付いた時には驚きつつもにこりと笑いかけてみたのだが何か反応がある訳でもなく、それはそれは気まずい思いをした。だからそれ以来、気付かない振りをして相手の出方を窺っているのだが、今日も変わらずその視線はアルバーンを追っているようだった。
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