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    雨音@ししさめ

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    雨音@ししさめ

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    2023.3.5。「まだ海を見ず」後日談。数年後の2人

    短文 海を見たい、とあなたが言った。
     何処の海かと、私が訊いた。
     そうすれば、あなたはニヤリと笑い、一枚の紙を翳してみせた。
    「ここ」
     そう言って笑うあなたの顔を、いたずらっ子のようだと思った。
    「あなた、これまだ持っていたのか」
     彼の手には、海の写真のポストカード。
     その碧く鮮やかな波間と水平線の写真には、見覚えがあった。
     ひっくり返せば、そこにあるのは私の字。
     時を経た今見てみれば、我ながら愛想も何も無いと改めて思う。
     けれど今あの時に戻っても、私はきっと同じことを書くだろう。
    「片付けしてたら出てきた。あの時、オレも行きたいと思ったんだよ」
     下手な嘘に、気が付かれないような微かに笑う。
     片付けなんてしなくとも⋯⋯あなたのデスクの引き出しの一番上にしまわれていることを、私が知らないとでも想っているのだろうか。
    「ないいだろ、礼二」
     海色の瞳が、私の顔を覗きこむ。至近距離で懐っこく笑う。
     あの頃から関係を変え、互いの呼び名を変えた私たち。けれどあなたは⋯⋯あなたのその目は、変わらない。
    「明日なら、構わん」
    「明日な、リョーカイ。オレが車出すよ」
    「ああ」
     頷いて、頬に触れる。
     くすぐったそうに笑うのに、笑いが漏れる。
    「私は⋯⋯あの海を見た時、あなたを思い出した」
    「オレ」
    「ああ」
     あなたの瞳のようだと。
     遥か続く水平線の写真を見た瞬間、脳内を駆け抜けた碧を、覚えている。
    「そりゃ、どーも」
     不思議そうに首を傾げるあなたは⋯⋯きっと、あの頃の私の想いを知らない。
     共に在る今、それはもはや些細と言えることだ
     けれど。
    「敬一」
    「ん」
     頬を撫でる手をそのままで。
     そっと、形の良い耳に口を近付ける。
     吐息と共に、囁いた。

    「あなたの焼いたステーキが食べたい」


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