代償 無償の愛など存在しないと理解したのは、ある程度年齢を重ねてからだった。
何かを得るには代償が必要である。その代償が足りなかったから母は居なくなったのだと、独り立ちしてから理解した。
小さな子供が渡せる代償などたかが知れている。だが、それでも苦しむ母のためにできることは何かしらあったはずだ。
今になって思いついても後の祭りだが、あの時こうしていればと後悔ばかりがキィニチの頭を駆け巡る。
だから、キィニチは一生独りで生きていくことを誓った。他人からの愛を受け取るほどの代償を自分が用意できるとは思えないし、あの父親の血が流れているから、もしかしたら同じように暴力を振るってしまうかもしれない。
独りの方が気楽で、依頼をこなしてモラを稼げば生きていくことに困らないと判断した。
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