公務で宿泊するホテルを決める際に朝食が洋食のホテルと和食のホテルかでお互い譲らない議員と秘書 無惨は朝が弱い。早く寝れば良いのに、酒を飲んだり、映画を見たり、本を読んだり、夜更かし癖がついているのだ。そのせいだろうか。出張先でホテルを探す時に、いかにホテルで快適に過ごすかを追求する癖がある。
まず部屋の広さ。バスルームが広く、景色が良いか。アメニティがどうか。そして、クラブラウンジがついていることが必須であり、ラウンジで酒を飲みながら軽食を取るので、ダラダラと夜更かしをし、翌朝なかなか起きられず、朝食はビュッフェでコーヒーとフルーツを取って終わりである。
片や黒死牟はと言えば、朝がめちゃくちゃ強い。というよりも、ホテルを探す際、フィットネスジムがついていて、大浴場とサウナが欲しいのだ。どうしても旅先では高カロリーで栄養価の偏ったものを食べがちなので、軽く汗を流したいとジムを利用するのだ。勿論、無惨も連れていく。そして朝、ビュッフェでも良いのだが、出来れば和食か洋食か、しっかりと定食スタイルになったものを食べたいのだ。
そう、ホテルを決める時は二人の好みが衝突し、余裕で千日戦争が勃発する。普段仲の良い二人だけに、周囲は最初、何を言い合いしているのか理解できなかったが、今では「あー、宿泊先で揉めてんな」と冷ややかな目で見守っている。
「別にクラブフロアに泊まらなくても良いでしょう。そのホテル、前にも泊まりましたけど、ラウンジのオードブルがめっちゃ不味いって怒ってたじゃないですか」
「旅先のラウンジで酒を飲むというという雰囲気が好きなのだ」
「だったらバーで飲めば良いでしょう」
「違う。バーは一般客も入れる。クラブラウンジはクラブフロアの客しか入れない」
面倒臭い人だな、と黒死牟は大きな溜息を吐く。
「私は今回はこちらを推しますね。ホテルなのに、こんなに本格的な和定食が出るんですよ!」
ででんと写真を見せると、ご飯は御櫃で提供され、その上、炭火で干物を焼いて食べるというスタイルだ。
「朝から御櫃で飯を食うのは、お前くらいだろう。私は朝から米は食わない」
「また、そんな我儘を言う! 和食は美容に良いですよ!」
飯の話となると一歩も引かない黒死牟である。もっと他に無惨と戦わないといけないことがあるだろうと思うが、何故か飯だけは二人とも真剣に言い争うのだ。
何だったら、こっちのホテルでも良いですよ、釜飯タイプで提供されますと黒死牟の朝飯プレゼンは延々と続く。しかし、無惨は、朝はオシャレなビュッフェスタイルが好きなのだ。
「お前、ビュッフェでもめちゃくちゃ飯を食うだろう。朝から山盛りのカレーを食っているだろう」
「そうですね、ホテルのカレーは旨いですからね」
「ビュッフェならお互いに好きなものが食えるから、ちょうど良いだろう」
お、流れが変わったか? と皆が期待する。ビュッフェの朝食の白米も大体国産ブランド米が用意されているので、朝から旨い白米が食べられるのは、どちらも同じである。
しかし、黒死牟は和定食が食べたいのだ。何だったら美味しい和定食の為ならホテルではなく、旅館に泊まっても良いのだ。
このままでは絶対に決まらないので、二人、じゃんけんで決めることにした。
結局、二人、浴衣姿で御櫃の中で輝く白米と、炭火で焼いた干物を朝から食べることとなった。