陽「おはよう、梓白。梓白って意外と早起きだよね」
梓白「意外とっていうのはなんか引っかかるけど。まあ目が覚めたら起きてるってだけだよ。...ところで」
陽「うん?」
梓白「君って依頼ない日もそうやって髪セットしてるの?」
陽「依頼がないってだけでオフではないからね。君こそ依頼がなくてもそうやっていつもの服着てるでしょ?」
梓白「依頼がないってだけでオフではないからね。いつでも出られるようにしているだけですよ」
陽「ふふ、ほら、理由は一緒。あ、でも梓白はいつもより胸元開けてないね?」
梓白「あれは仕事中だけだからね。今は準備中でーす」
陽「梓白って仕事終わった途端に前閉めるもんね。どうして?」
梓白「どうしてって言われても...俺はあれが似合うからやってるだけだからねぇ。一種のスイッチみたいなものじゃない?」
陽「ふふ、いつもより前開けるのはオフのときっていうのが一般的だと思うけどなぁ...」
梓白「みんなと一緒だなんてつまらないでしょ。あ、そうだ。たまにはノーセットでその服着てみるのもいいんじゃない?」
陽「えー…なんか気持ち悪いよ」
梓白「そう?需要あると思うけど」
陽「あ、梓白はどの報告書書いてるの?」
梓白「昨日の2番目に行ったやつ」
陽「ああ、あれ。最初のは?」
梓白「書いた」
陽「え!早いね?」
梓白「3番目よろしく」
陽「うん、わかった」
梓白「はぁ…みんなそうだけど突然依頼が入ったり組み合わせが変わったりするでしょ。そうするとこうやって報告書書くのが遅くなっちゃうよねぇ」
陽「…ふふ」
梓白「何?」
陽「梓白が愚痴こぼすなんて珍しいね?」
梓白「愚痴っていうか…記憶が新しいうちに書いておきたいよねって話」
陽「うーん、あ、あとね?他のバディってこんなにまとめて依頼受けないらしいよ?」
梓白「そりゃね。受けたとしても2、3件くらいじゃない?」
陽「もしかして僕たち依頼詰め込みすぎ?」
梓白「どうだろうね。無理な詰め方はしてないじゃない?場所が近いものをまとめて受けてるだけだから」
陽「それはそうだけど」
梓白「そもそも。俺たちに振られる依頼が多い。振られるのは全部戦闘だから仕方ないけど」
陽「そうだね。でもそれだけ頼りにされてるってことじゃない?」
梓白「ま、そうとも言えるね」
陽「…ふふ、ここってヘンな人多いよね」
梓白「え…?それ、君にだけは言われたくないと思うけど」
陽「だってみんな僕の過去を知らなくてもこうして仲良くしてくれるでしょう?…たまに詮索してくる人はいるけど」
梓白「みんな触れられたくない過去の1つや2つあるでしょ。だから君にも触れないんじゃない?」
陽「なら、君にも触れられたくない過去があるの?」
梓白「ないよ。そもそも俺には話すほどの過去なんてないし。ああ、強いていうなら猫だったことがあることくらい?でもそれはここに来たときに既に言ったからね」
陽「うーん…そっか」
梓白「何も秘密を共有すればいいものでもないと思いますよ。俺は」
陽「でも君はいろんな人の秘密を知っているでしょう?」
梓白「知りたくて知ったものでもないよ」
陽「それだけ君はみんなから信頼されているんだよ」
梓白「人気者も考えものだねぇ」
陽「…前の組織でもこんな感じだったの?」
梓白「…」
陽「…ごめん。言いたくなかった?」
梓白「いや、どんなだったかなって思い出してた」
陽「…」
梓白「君の期待しているような面白い話は出てこないよ」
陽「…うん。教えてくれる?」
梓白「俺はね、前いた組織は戦闘班にいた…ってこれは知ってるか」
陽「うん」
梓白「その名の通り毎日のように戦闘していたよ。というかそれくらいしかしていなかったかな」
陽「こうやって仲間と話す時間はないの?」
梓白「俺も一応班の中では偉い方の人だったからね。作戦会議とかで他の幹部と話したり、ときには部下と話したり…仕事上の付き合いはあったよ」
陽「それは梓白にとってどうだったの?」
梓白「別に。どうもしないよ。必要だったからやっていただけ。でも仲が悪いわけではなかったから。そこは唯一良かった事、かな」
陽「樹さんとは話していなかったの?」
梓白「ああ、彼だけは仲がいいと言える人だったな。怪我を治してもらうときについでに雑談していたよ」
陽「休みの日は?」
梓白「それがさ、聞いてよ。あの組織、休みなんて滅多になかったよ。まあ所属していた班の問題だろうけど」
陽「え…そうなの?」
梓白「そ。まあ戦闘なんていつ起こってもおかしくないし。戦闘となると樹のいた医療班だって無関係ではないからさ。ほんと、働く場所は考えた方がいいなって人間になりたてながらも思ったよね」
陽「うーん…じゃあ家にも滅多に帰れなかった?」
梓白「家というか敷地内に寮があってね。みんなそこで暮らしていたんだ」
陽「なんというか…気が休まらなそうだね」
梓白「ふふ、まあ寝に帰っていたようなものだよ」
陽「あ、じゃあこうしてみんなと暮らしているのも梓白にとっては前の組織とあまり変わらない?」
梓白「いいや、全然違うよ。今の方がずっと楽しい。ここは組織としてきちんと成り立たせているけど、変な規則や立場の違いもなくて、みんなで作りあげているって感じがする。…俺はこういうの嫌いじゃないよ」
陽「ふふ、だって嫌いだったら今頃君はここにいないでしょう?」
梓白「ふふ、そうだね。ここは毎日大なり小なり何かしらが起こるから退屈しない」
陽「そう。よかった」
梓白「さて、これでご満足いただけましたか?」
陽「うん、ありがとう。また君のこと、少し知れた気がするよ」
梓白「少し?君はもういろんな俺を知っているでしょ。知らないことの方が多いんじゃない?」
陽「え…そう?君の過去詳しく知ったの、今が初めてだったけど…?」
梓白「そりゃ聞かれてもいないのに過去をべらべらと話すやつはいないでしょうよ」
陽「あ、ああそう…」
梓白「ま、気になることがあるのならいつでも聞きなよ。過去のことでも、今のことでも。未来のことは答えられませんけどね」
陽「ふふ、君だったら未来のことも見えてそうだけどなあ」
梓白「まさか。俺は割となんでもできる方だけどさすがにできないこともありますよ」
陽「それをできることに変えるのが僕の役割でしょう?」
梓白「おや、君も頼もしいこと言うようになったねえ。もちろん君のことは頼りにしていますよ、相棒?」
陽「ふふ。あ、はいこれ。報告書」
梓白「さすが。もう書けたんだ」
陽「もうやること終わり?」
梓白「そうだね。一旦は」
陽「うーん、今日は割と平和っぽいし…することないね?」
梓白「実力最強バディが暇を持て余しているなんて素晴らしいことじゃないか。いつ大物が現れても対処できる」
陽「かと言って何もしないのもなぁ...。あ、たまには模擬戦でもやる?」
梓白「冗談おっしゃい。俺たちが模擬戦やったら誰も止められないよ」
陽「ふふ、そうだね」
梓白「こうやって自分たちの力量を知って大人しくできる俺たちを褒めてほしいものだね」
陽「ふふ…僕やっぱり君とこうして話してる時間も好きだな」
梓白「奇遇だねぇ。俺もそう思っていたところだよ」