美人にはバラの花が似合う。
その言葉の通りか、ブルマは仕事の関係で開いたパーティーではバラの花束をもらうことがとても多いらしい。
そんなわけで、そんなパーティーにブルマが出たあとのカプセルコーポレーションにはあちこちにバラの花が花瓶に活けられているのを見る。
「今回はまた、お部屋の中なのにまるでバラのお庭みたいになってるだべなぁ」
「花を扱う界隈の方で新種が出たらしくて、そのバラが今回集中しちゃったみたいなのよねぇ。活ける以外にもママがお風呂に花びらを入れたり、ポプリにするって使ってくれてるけど、まだこんな感じ。チチさんもよかったらもっていかない?」
「んー、ありがてぇけんど、バラは香りが強いから悟空さがちょっと大変かもしれねぇからご遠慮しますだ」
「ああ、孫君、鼻がいいもんね」
「ベジータさは平気け?」
「もしかしたら最初はきつかったのかもね。でもほらアイツ、あんまそういうの言わないから。っていうか慣れていったのかもね」
むしろブルマが纏う香りを変えると自然な動作で確認している節もある。
「花束はあれかもだけど、小さなブーケ程度でおすそ分けはどうかしら? チチさん、お花好きじゃない」
「んと、それじゃあちょっとだけ、おすそ分けいただきますだ」
「飾るようにと、バラ風呂にする分と用意しましょ。チチさんよく働いてるんだから、バラのお風呂でリラックスしましょっ」
そんなわけでいただいた、ふたつのブーケ。ひとつはリビングに。お風呂用にといただいたものは花びらをむしるのがなんだか気の毒で、入浴の際に浴槽の近くで飾って目で楽しむことにした。
湯気の中にバラの香りが程よく混ざってチチとしては満足なリラックスタイムになった。
夫はちょうどその翌日の昼に戻ってきたので、タイミング的にもよかったとチチが安堵しつつ戻ってきたばかりの夫にまずは風呂と促していると、にゅ、と首を伸ばしてきた悟空がうなじに顔を寄せてきて鼻を鳴らしていた。
「これ、悟空さ。人の匂いを嗅ぐのは失礼だべよ」
「んー、いや、なんか、イイ匂いすっから」
「ブルマさからとても素敵なバラのおすそ分けをいただいたから、その匂いがまだ残ってたんだべな。昨日お風呂に一緒に入ったんだべ」
顔を押しやりながら何げなく言ったつもりだが、言い方を誤ったな、とチチは直感する。
夫の、「雄」としてのスイッチが入ったのを、妻であり「雌」としての感覚が捉えた。
「その風呂、もいっかいして、オラとはいろうぜ」
「え、やだべ」
「なんでだよ」
「カラスの行水な悟空さがそういうとき、やらしいことしたいってことだもの。しかも、毎回ねちっこいから疲れちゃうだ」
「えー」
「第一、バラの花もうねぇだよ」
「あそこにあるじゃねぇか」
「あれは飾る用。お風呂を一緒にしてくれる用じゃあねぇだ」
「ふーん。……じゃあ、それ用のがありゃあいいんだよな?」
「あ」
「ブルマんとこ行ってちょっともらってくる」
言うが早いか、瞬間移動で行ってしまう夫。
友人は彼をたしなめてくれるだろうか、それとも面白がって大量のバラを与えてしまうだろうか。
どちらにしても、チチとしてはなんとなく落ち着かない時間になりそうである。