秋は実りの季節である。
農業を今の生業としている孫家も忙しい時期となるが、市場に卸せない作物で一層食卓が華やかになるのもこの季節だ。
そしてその中でも。
「今日はお祭りだべよ」
パオズ山自体の恵みを籠に入れて家に戻ってきたチチの言葉に、悟空は破顔して、家族との連絡ツールとして覚えたスマートフォンでのメッセージのやり取りで長男と次男に連絡し、学校に行っているふたりは本日は早く帰る内容を送ってきた。
子供らの帰宅するだろう時間に合わせて、チチが調理を始める。
自分達で育てた秋野菜とパオズ山のキノコの天ぷらが本日のメニューだ。大食漢な家族なので、大量に揚げることになるので賑やかな音がなかなかやまない天ぷら鍋にわくわくする。
まさに、祭りだ。
「いい音だよなぁ」
「んだな、作ってる方もなんかワクワクしてくるだよ。エビとか豚肉のはねぇから地味っちゃ地味だけんど」
「んなことねぇよ、すげぇうめぇからな」
「んだな」
チチは苦笑するが、お世辞抜きに肉や魚系がなくとも満足感の高い秋の天ぷらは食卓に華やかで、何よりも本当においしい。
衣を纏っても鮮やかさの分かるナスやカボチャは甘く油との相性で甘みを増し、キノコ類は衣で食べるまでそれが何か分からないときもあるが、それがまた楽しいし、長男と次男は正体を予想しての当てっこ食べで笑顔になっている。そして、キノコの天ぷらも野菜に負けずに美味い。
熱々にうまみがぎゅっと凝縮されているようで、ごはんが進むし満足感がとてもとても高くなるのだ。
ただ、ひとつ不満としては。
「これ、悟空さ。天ぷらしてるときはあんまり近づくでねぇ」
「……ちぇー」
かわいい妻との接触が少しばかり拒まれてしまうということであろうか。
耳に楽しく、舌を満足させるであろう心躍る空間の中、お預けをくらってしまうが、夜の時間はまだまだある。
「祭りっていったのはチチだもんな」
小さく呟いて、調理する妻の背中を見やる。
祭りとはワクワクするものだ。収穫祭は採れたものに感謝しておいしくいただくのが大切だとチチから教わった。
それならば、それをおいしく調理したチチを愛でることもきっと祭りだと悟空は思うのだ。