何度か述べているように、チチの夫である孫悟空は、かのカプセルコーポレーションを束ねるブルマと友人であるため、彼女の誕生日や何かしらのパーティーには孫家に招待をかけてくれる。
チチとて牛魔王の娘なので、主催し招待する側の立場というものを分かっているので最初のころは恐縮しつつも参加し、遠慮なしにご馳走を食べる悟空にひやひやしていたが、ブルマのチチとはママ友であり孫家とは家族ぐるみの付き合いをしていきたいという言葉に心をほどかせてもらい今に至る。
ささやかながらお返しになればとチチは手料理やらジャムなどを作って時折彼女に贈るが、それを本当に嬉しそうに受け取ってくれるものありがたい。
そんなブルマのところで最近またパーティーがあったらしい。
悟空はちょうど破壊神お付きの天使のところで修行中で不在だったため戻ってきたころにはとうにそれは終了していた。
「そっか、ベジータがビルス様んとこの星に来なかったんはそのパーティーがあったからなんか」
「多分そうだべ。しっかりとブルマさのお相手しててかっこよかっただよ」
「…………」
修行から戻ってきてからの入浴を済ませ、その間にチチが用意してくれた肉まんを頬張りながらチチの話を聞いていた悟空が咀嚼を一瞬止める。それには気付かず、チチは淹れた熱い茶を注いだ湯呑を彼の前に置いた。
「ダンスパーティーだったからな、ブルマさの旦那様のベジータさんもいねぇとしまらなかっただよ」
「ふーん、じゃあベジータの奴、ブルマと踊ったんか」
「んだ。あとは悟飯とビーデルさとかな。パンちゃんはおらがその間抱っこしてたけんど、お父さんとお母さんが踊ってるのを見てきゃっきゃしててかわいかっただなぁ」
「ふーん」
「なんだべ悟空さ、不貞腐れて。パンちゃんが大きくなったらきっとおめぇさと踊りたいって言うだよ」
「なんでパンなんだよ」
「なんでって、おめぇさ仲間外れみてぇな気がして寂しくなったんじゃねぇのけ?」
「違ぇよ。そんなんじゃねぇ。…おめぇは?」
「ん?」
「おめぇは、誰かと踊ったんか?」
食べかけていた肉まんを少々強引に胃に送り込み、肉汁がついた指を舐めながら悟空がチチに問う。旨いものを食べたという満足感はそこにはなく、どこか剣呑な眼差しが向けられていることがチチを苦笑させる。
「踊らねぇだよ。だっておらのパートナーは悟空さだぞ。パーティーで踊る相手がいねぇんだからどうしようもねぇべ」
「…………そっか」
「そうだべ」
「えっと、その、残念だったな?」
「そう思うんなら次は出てけれ。踊るのはまぁ置いておくとして、招待してくれるブルマさに悪いだよ」
「おめぇは? …チチは、なんつーか、そのさ」
「おら達の、結婚式の前」
「…………」
「ダンスの練習したのは大切なおらの思い出だべよ」
「……そっか」
「んだ」
「そっか……、へへ」
ふにゃり、と悟空の表情がやわらかく、そして照れくさそうに笑うそれとなる。
ダンスなんて得意じゃないくせに、チチが誰かと踊るのは嫌がる夫。
組手だと嬉々としてやりたがるくせになぁと胸の内で呟きつつも、こんな夫の一面もかわいいと思ってしまうチチであった。