農業をしていると、個人差はあれど虫の類には慣れていく。
パオズ山という人の手が入っているところが少ない場所にいるのもあり、その慣れについては多少強めだとチチは自負している。
「人っころよりでっかいのとかは苦手だけんどな。食われちまうかもだし」
いや、それは普通に誰もが怖いだろうと思われる。
フライパン山で牛魔王の娘として育ったチチはどちらかといえば「お嬢さま」だったが、強くなったと思う。悟空にしては珍しく昔を懐かしむような感じでそう話すと、子供をふたり産んだりなんやかんやあったから強くなったのだと胸を張っていた。
つい、その胸に手をぽふっと置くと、いい笑顔で下からのアッパーを食らった。いい拳である。
「葉っぱ食っちまわれるのは困るけんど、食いにくるってことはそれだけうまい野菜って証拠だしなぁ」
酒やトウガラシなどを混ぜて作った液体を育てている野菜に吹きかける作業に戻りながらチチは言い、ふと見つけたキャベツの葉の中で蛹を見つけ、そっとその葉をむしり畑の別の場所へと置いた。
あたたかな陽射しの中、その背に悟空は美しい蝶の翅を見たような気がした。