ナベリウスの悪魔一族宛に出された書面。そこに記載されていた内容に対し驚いたのはカルエゴだけではなく、一族のもの全てからどう言う事かとの連絡がカルエゴに入った。カルエゴ自身も知らぬ内容のため不明と答えるだけしか出来ず、サリバンの予定からバベルに居るであろうナルニアの元へと急いだ。
13冠会議が終わり出てきたらナルニアの視界にオペラと言い合いをするカルエゴの姿が映る。いつものようにからかい、からかわれと言うやり取りだが、ナルニアにとっては気分の良いものではなかった。
サリバンがオペラの名を呼ぶより早く、ナルニアはカルエゴの元へと歩を進める。ナルニアに気付いたオペラはではとカルエゴへ一言告げサリバンの元へと行く。その姿を見つめるナルニアの視線は冷たい。
ナベリウス兄弟が何を話すのかと興味深く眺めている13冠の視線は気にせず、お疲れ様ですと声を掛けたカルエゴにナルニアは目を細めた。その瞳の奥は優しく、カルエゴはそれまでオペラに向けていた怒気を静めた。
「お迎え?」
「違います。あの書面についてです。どう言う事ですか?あれは」
「そのままだが?」
何の感情もこもっていない様に聞こえるナルニアの言葉に、カルエゴは小さく息をついた。
「当事者である私には何のご連絡もありませんでしたが?」
「?伝えただろう?近付くなと」
ぴくりとカルエゴが反応を見せる。
「あれに関しての問い合わせも全て私に来ているのですが」
「あぁ。私の連絡先を知っているのはお前と叔父上だけだからな」
しれっと答えるナルニアにカルエゴの表情は固まる。他のものがそんな事をしたら殴りかかる位はするだろうなと思いながら、オペラはサリバンの後ろに控え二人を見つめる。
「しかしまぁそれに関しては謝ろう。すまないねカルエゴ」
カルエゴの手をとったナルニアは指先へ口付ける。突然の事に思考そのものを停止させたカルエゴにナルニアは視線だけをバールへ向けた。
「覚えておきなさい。私が膝を折るのはお前にだけだと」
突然何の話をされているのかと疑問符を浮かべたカルエゴに、ナルニアは僅かに腰を屈め止まっていたカルエゴの体を肩に担ぐ。
「お先に失礼します」
「え……あ、兄うっえ?」
突然担がれたまま飛ばれたカルエゴは止める間も、逃れる間もなくナルニアの背から離れていくバベルを見た。
「あーあ連れて行かれちゃったね。カルエゴくん」
「連れて行かれましたね」
「カルエゴくん僕達のなのにね?オペラ」
「そうですよね。サリバン様」
去っていく二人の姿を目蓋の上に手をやり眺める二人と裏腹に、はっと意識をハッキリとさせたアンリが羽を出した。
「すみませんがあれを追うので失礼します」
「追うの?」
「魔関署の仕事がまだで。捕まえなくてはなりませんから。失礼」
勢いよくナルニアを追い飛んだアンリを見送ると、じゃあまたと全員が散り散りとなる。
しばらく飛び続けたナルニアはまだアンリは来ていないかと、背後を伺う。かなり遠くではあるが、確実に追ってきているアンリに仕方がないとカルエゴの腰を強く抱き更に飛ぶ速度をあげる。
「兄上……この方向で飛ばれるのはちょっと……」
「辛い?」
「若干胃が圧迫されていて」
「そうか」
ならばと速度を緩めると、ナルニアはカルエゴを肩から下ろし横抱きへと変える。
「そうではなくてっ自分で飛びますから」
「それはダメだ。お前はアンリに追い付かれる速度で飛びそうだからな」
バレたかとカルエゴはナルニアから視線を外す。最も今この姿を誰かに見られたくないからと言う理由もあるが、出来れば第三者が居る方が冷静に話が出きると思っているのも理由のひとつだった。
「今はアンリが居ないところで話をしたい」
「……それは難しいのでは?」
僅かに速度を落としていたナルニアの後ろへ視線を向ければ、先程よりも近くにアンリの姿が見え始めていた。
「まずいな。カルエゴ。少し我慢してくれるか?」
「え?はっ、ちょっ!」
自分が急ぐ時とは違う感覚に、自ら飛んだ方が絶対楽だとカルエゴはナルニアの服を掴み目蓋を下ろした。