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    kusare_meganeki

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    kusare_meganeki

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    吸血鬼🛡×一般💣のジェパサン
    書きたいところだけ。

    商人が命をかけて店や商売範囲を守ること。それは、動物が自身の縄張りを守ることによく似ている。
    そこには本来、善悪の区別など存在しない。正しく言えば縄張りに踏み入った方が悪であり、それを守る側は常に善だ。しかしそれは、守る側の言い分でもある。
    「良くここが分かりましたね。僕が持つ隠れ家の中でも、一番分かり辛く、見つけにくいと思っていたのですが……」
    力の入れすぎで痺れた手を軽く振る。さも世間話のように話すサンポは、絞殺に使用した縄を地面に投げ捨てた。
    「もしかして目的は僕ではなく、こっちだったりますか?もしそうだとしたら、申し訳ございません。彼とはどうしても折り合いがつかず……黙らせてしまいました」
    足元に転がる肉塊を蹴り、サンポは肩を竦める。人の形をしたそれは、ぴくりとも動く気配はない。サンポの視線の先に立つ人物もまた、同じように動く気配を見せなかった。
    「もし貴方に、僕の言葉を聞く優しさがあるのなら……少しの間だけそのお耳を貸して頂けません?何、借りた分は損はさせません!聞くも涙、語るも涙の深〜いワケがあるのです……。聞いて頂けますよね、ジェパード戌衛官様?」
    長ったらしい言葉を聞いてもなお、彼は一切反応を示さない。
    サンポの隠れ家、その出入り口に立つジェパードの表情は月明かりが逆光となり、良く見えずにいた。
    「さて、ことの始まりから……」
    そう言って、サンポは息継ぎを一つ。そして軽快に語り出す。
    動物が自身の縄張りを守るため、他種を殺したとする。それは“動物の本能”として結論づけられるだろう。そこに、正悪の判断などあるわけもない。これは、前述した通りだ。
    それは、人間にも当て嵌まるだろうとサンポは思う。自分が1人の人間を手に掛けたのも、正しく縄張りに土足で踏み込まれたからだ。
    足元に転がる死体は、ナターシャの診療所に手を出そうとした男だった。早い話が、人身売買目的になる。開拓者が星核を封印し、この惑星が七百年の時を経て外界と繋がることになった。良いこともあれば、悪いこともある。
    身寄りのない子供は、悪い大人からすれば格好の的だ。それも、下層部という閉鎖空間の中で生まれた子供たちならば、尚更。今なお、政治や金の周りは上層部が握っている。新たな大守護者、ブローニャは奮闘しているが、未だに下層部への差別の目は根強い。どこで知ったか、この男はそれを狙いに来たというわけだ。見るからに、ベロブルグ出身ではない。それらしい服装と、言葉遣いではあったが、サンポの目は誤魔化せない。
    サンポの脳内は、常にベロブルグの情報で埋め尽くされている。謂わば、そこにない人物の情報ほど怪しいものはないのだ。
    ナターシャの努力も、子供たちの薄暗い人生も、それらを越えようとした協力も知らずに、ただ己が私腹を肥やさんとする男をサンポは許すことは出来なかった。
    サンポにとって、ナターシャの診療所は気の良いお得意様。持ちつ持たれつ、互いに手を繋いで協力し合う素敵な商売相手だ。そして、言うなれば商売区域、つまり縄張りの一つになる。そこが、侵されたとなれば黙っていられない。
    「穏便に会話で分かって頂ければ一番だったのですが‪……そうもいかないのであれば、仕方ないですよねぇ?」
    サンポからすれば、これは正当な殺人。しかし、目の前にいるジェパードからすれば、どんな理由であれ殺人は悪だ。
    事情をつらつらと、感情の起伏激しく話しているが、一体どこまで信用してもらえるだろうか。
    今回の件は、特にナターシャには知られたくはない。医者である彼女が殺人を許容するはずもないのは、考えるまでもなく分かることだ。しかし、自身の無実の証明は無理だとしても、殺すまでの正当性の一助に彼女の言葉添えは必須だろう。
    いや、それとも‪──‬この隠れ家もまた、サンポの縄張りだ。そこに踏み入ったジェパードにも、消えてもらう方が早いかもしれない。そこまで考えて、サンポはそれを打ち消した。いやいや、流石にそれは悪手だろう。このモブ以下の男はともかく、彼はベロブルグに必要な存在だ。
    それが、消えたとなれば瞬く間に民や兵士が混乱に陥るのは目に見えている。それは、サンポとしても本意ではなかった。しかし、この状況をどう脱したものか。
    いつもの取引現場を見られたのとは訳が違う。殺人現場をジェパードに目撃されて、明日以降、平穏無事に過ごせる保証は存在しない。
    「あの、ジェパードさん?僕の声、聞こえていますよねぇ?」
    逃げる為の算段を練るために、絶え間なく話していた口を止める。そこでサンポは、ようやくジェパードの異変に気がついた。ずっと、黙ったままの彼はただ荒い呼吸を繰り返すばかりだ。
    「ジェパードさ〜ん?」
    サンポが呼びかけようが、ジェパードは微動だにしない。最早、気絶しているのではと思うほどだ。
    まさか、殺人現場を見てショックを受けた?いや、有り得ない。相手はシルバーメインを束ねる戌衛官だ。死体も、死ぬ様も、誰よりも見慣れているはずの男。今更ただの死体も、その殺害現場も、ジェパードの心を掻き乱す大きな要因にはならないはずだ。
    (なら、なんでこの人は何も喋らずに棒立ちなんですかねぇ……)
    思い返してみれば、ジェパードは一言も発していない。サンポが彼の存在に気がついたのも、僅かな物音がしたからだ。その気配など、一切感じられなかった。
    殺人を行うのに、サンポは出来うる限りの警戒をしていたはずだ。だというのに、まるでジェパードは煙のように隠れ家出入り口に‪──‬ここまで来ると、目の前にいるジェパードが本物かどうかも疑わしい。実は裂界生物が化けた姿だったり‪──‬。
    もしそうならば、どんなに良いだろうか。しかし、そうだと判断するには情報も、証拠も足りていない。都合のいい妄想に逃げるほど、サンポはロマンチストではなかった。
    ただ、いつもと様子が違うの好都合だ。呼吸が荒いのは、体調不良やその他ジェパードにとて良くない事態の証になる。サンポからすれば、大きなスキだ。そこをうまく使えば、記憶は消せないまでも混濁状態に出来るかもしれない。後は、証拠も何もかも魔法の様に消し去ってしまえばいいだけだ。記憶こそは消せないが、これに関しては手慣れているからこそ、今までサンポはシルバーメインに捕まらずに来た。
    (本当にただ無言も不気味ですが……いや、これ以上考えている余地はないですね)
    一気に締め落として、この場からおさらばだ。その為に、サンポは呼吸を整え

    「」
    喉仏を押し込められる。背中から強く叩きつけられ、視界が一瞬爆ぜた。脳がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような感覚、それが混乱であると理解するより前に、サンポは明滅を繰り返す視界の中でそれを見た。
    血を塗り固めたような赤。薄く開いた口から覗く白い歯。そこから垂れる唾液が、サンポの頬を濡らす。
    人間とは思えぬ、しかし美しい容貌にサンポは言葉を失った。
    (ジェパード、じゃ、な……)
    痛いよりも、驚いたよりも、その顔に魅せられる。今も喉が絞め上げられていることなど気にもせず、サンポはその紅い双眼から目を逸らせずにいた。
    「す、まな、い……」
    酸欠に脳が痺れ始め、身体の感覚が狂い出したと同時に目の間の男が言葉を漏らした。首にかかる手から力が抜け、ようやくサンポは苦しさから解放される。
    揺れる紅玉色の瞳の淵に、青が混じっているのを見た。
    「げほ……っ、ぅ、だ、れだ……?」
    押し込まれた喉仏が浮き上がり、痛みと共にサンポは掠れた言葉を吐き出す。荒い呼吸を繰り返しながら、未だ馬乗りの男はサンポの首を緩く掴んでいた。
    サンポの問いに、男は答えない。ただ、正気と狂気を惑うように揺れる瞳は、紅と青が混じり合う。
    見たことのある顔も、その姿も、ジェパードそのものだ。ただ、見慣れたはずの顔に惹かれるこの感覚は一体なんだ。口の端から見える牙も、その瞳も、サンポは知らなかった。
    「貴方は、ジェパードさんです、か?」
    ぼたりと、唾液がサンポの頬を叩く。男はゆっくりと、確かに頷いた。
    「……とりあえず、離れてください。危害を加える気がないのなら」
    まさか、言葉通りに動くとは思っていないがとりあえず言ってみる。だが、サンポの予想に反して男は素直に従った。緩慢な動作で、男はそこから退く。
    あれほどに鋭く、喉を掴んだ割に殺すつもりはないのか‪──‬サンポはゆっくりと身体を起こして、後ずさった。大人しく、犬のようにしゃがむ男から多少距離を取る。
    「本当に、ジェパードさんなんですよね?」
    「ああ……そうだ。今は、大丈夫だから」
    微妙に言葉が繋がっていない。男‪──‬ジェパードの瞳は、今は青かった。
    サンポの背中から後頭部まで、叩きつけられた痛みはまだ消えていない。それほどまでに、強く押し倒されたのだ。気絶しなかった自分を褒めてやりたい。
    とにかく、サンポの目の前にいる男がジェパードであるということは一旦信じることにした。そうしなければ、一切話が進まないからだ。
    「貴方、ここが……いえ。どうしてここに?」
    まずは、状況把握から始めることにした。何故ジェパードがここにいて、どういう状態なのか。目的がサンポでもなく、この死体でもないとするならば、彼の目的とは一体なんなのか。まずは、そこを知らないことにはこの後の対策も立てられない。
    そういうつもりで問いかけた。だが、ジェパードの口から出た言葉に、サンポは初めて理解が及ばない世界を知る。
    「……血の匂いに釣られた。君は信じられないだろうが、僕は、吸血鬼なんだ」



    ランドゥー家は建造者で大守護者の付き人。そして、ベロブルグを守り続ける戌衛官。それが、世間一般の認識だ。
    その中で、彼らは裏に秘密を抱え続けていた‪──‬それが、脈々と続く吸血鬼の一族という真実。人間ではない、枠外の存在。
    彼らは、星神クリフォトから与えられた存護の加護を受けて太陽の光を克服していた。だから、誰も吸血鬼であると知らない。あたかも人間と同じように日中に生き、夜に眠る。誰が、吸血鬼だと気がつくことができるだろう。
    ジェパード曰く、この真実を知っているのは他の建造者は知らない。知っているのは、代々の大守護者だけだと言う。
    「僕らの食事である人間の血液は……罪人をランドゥー家の使用人として雇うことで、賄っている」
    罪を償う期間を、吸血鬼の家で使用人として過ごす。その間、自身の血を彼らに捧げるのだ。罪人達の心境は如何なるものか。
    「僕は、幼少期にメイドの血を飲んで……それを受け付けずに吐いてしまったんだ。それ以降、人間の血を飲むことに抵抗があって……ずっと、犬や猫といった動物の血で空腹を誤魔化してきた」
    「……つまり、常に空腹状態だと?」
    サンポの問いに、ジェパードは頷いた。
    彼の語った全てを、全て信じ切ったわけではない。そんな情報、サンポがこのベロブルグのどこを叩いても出てこなかった。それほどに秘密裏に存在を埋め込み、そして人間に擬態して生きてきたのだ。700年よりずっと前から。この星が、雪に埋もれるよりも以前から。
    そんなこと、頭から爪先まで全てを信じられるわけがない。
    だが、サンポの記憶に色濃く焼き付いているあの牙も、紅い瞳も、まるで人間では無かった。
    混乱する。一体なんなんだ、目の前にいる男は!
    「僕の言うことの全てを信じろとは言えない」
    「当たり前です。信じられるわけがないでしょう、こんなこと!吸血鬼?貴方が?その証拠もないのに、どうやって全て飲み込んで信じますなんて言うんですか」
    反論するサンポだったが、なんとなく自身の脳内の中で点と点が繋がり始めていた。
    不思議だったのだ、脈々とランドゥー家が途絶えることなく続いてきたのか。特に、星核が蝕み始めてからの700年‪の間、外界からの侵略者を相手に死に絶えることなく戌衛官の一族として生きてこられたのか。
    吸血鬼という化け物であるのなら、話は別だ。先ほどの膂力といい、納得が行く。吸血鬼であるからこそ、彼らは血脈絶えること無くその線を繋ぎ続けて来たのだ。その人外の力で、彼らは人間の命を守って来た。戌衛官の名に恥じない姿で。
    (どういう精神状態だ……)
    正しく化け物だ。在り方も、何もかもが。サンポは理解ができない、及ばない。最早、理解をしたくない範疇にすらある。
    「否定するだけじゃ話が進まないので、一応そういう体で……まぁ貴方が空腹の吸血鬼だとして、血の匂いに釣られてきたんですよね。もう我慢すらままならないと」
    「そういう、ことになる」
    ジェパードの返答に、サンポはため息を吐いた。
    この相手を前に、どう逃げようか算段は立てられていない。結局散々彼の話を聞いてきたが、最終的にはこうだ。空腹で、今から食事にありつかん吸血鬼を前にしている。
    サンポを押し倒した際の速度を思い返してみれば、通常の手段で逃げることは不可能だ。そもそも、この殺害現場を見られておいて‪──‬。
    (待て、血の匂い……?)
    ふと、サンポは死体に目を向ける。そこには、絞殺によって首に青白い痕を残した肉塊がいた。殺す際はさっくりと、抵抗もさせずに殺したのだ。無論、擦り傷ひとつもない。
    ならば、目の前の吸血鬼は一体誰の血に反応したのか。
    「……僕から出せる情報は、これだけだ。僕の一族は吸血鬼、これを知るのは大守護者様ただ1人。情報も売り買いしている君からすれば、とんでもない価値のある情報だろう?」
    「……っ!」
    気がついた時には既に、目の前にジェパードがいた。動いた気配すら感じ取れない。微かに、彼の周りにもやのようなものが漂っている。サンポの肩を、骨が軋まん程に力強く掴む。
    「そしてもうひとつ。この殺害現場だ。僕はこれを、見て見ぬ振りをする」
    「は……?」
    凡そ、平和を護る男の発言とは思えなかった。同時に、サンポはジェパードが意図していることを察する。それを示すように、彼の手はサンポの‪左腕に‪──‬そこについている、小さな切り傷に触れた。僅かに血が滲み、そして瘡蓋として固まっているそこを愛おしそうに指の腹で撫でて、ジェパードは目を細める。
    青い瞳は、再び紅く染まり始めていた。
    「ここの全てを黙認し、僕が抱える秘密全てを君に渡した。だから、君の血を、僕にくれ」
    こんなものは、交換条件ですらない。ただの脅しだ。ここでその提案を拒否したとして、目の前の飢えた獣が大人しく引く保証が無い。挙句に、殺人容疑として捕まる。冗談じゃない、こんなものは。
    「……貴方、何言ってるのかご自身で理解してるんですよね?」
    「勿論だ。……僕はもう、自分の中から湧き上がる欲に勝てそうに無いんだ」
    そう言って、ジェパードは荒い呼吸と共にサンポの首筋をじっと見つめた。僅かに見える牙が、唾液でぬらりと鈍く輝く。
    「共犯だ、サンポ。僕は、君の共犯になる」
    その言葉が決定打となった。危機に逃れる今と、今後を天秤に掛けて、サンポは選択した。

    ただ、血を分け与えるだけだ。それだけだと思っていた。首筋に噛みつかれて、痛みに耐えるだけものだと。
    「ぁ、あ、あ……っ」
    脳が蕩かされるような、浮つくような、思考がネオンに晒されて原色が飛び散って、その度にサンポはだらしなく開いた口から声を漏らしていた。ジェパードの牙が深く皮膚の奥を抉り、溢れ出た血を啜る度に、頭が爆ぜるような感覚に襲われる。波のように襲い来る多幸感と、無条件に心が晴れやかに。
    性的快楽とも違うそれの正体を、サンポは知っていた。これは、麻薬だ。麻薬のハッピートリップ。脳髄の奥から作り替えられて、目の前に花畑が散るような。
    幸せだ、何もかもが。痛いこともない、ただ、ただ幸せだけがそこにある。
    もっと、吸ってほしいとすら思ってしまう。本能のままに、サンポはジェパードの頭を抱き抱えていた。その顔が首筋から離れないように、ずっと、血を吸ってほしいと。
    (だめだこれだめだだめだだめだ)
    僅かに残ったサンポの理性が、ずっと警告を発している。分かっているはずなのに、多幸感に縋る本能に勝てない。
    サンポの血を味わい、嚥下するジェパードの吐息を聞くたびに鼓膜が焼けるような、残った理性が焦がされ散っていく。
    「うぁ、あ‪──‬っ」
    じゅるりと、一際強く血を吸われる。サンポは背筋を震わせて、足をピンと伸ばした。脳内が爆弾のように爆ぜて、全身に巡る血液の全てに花が咲く。溶ける、溶けていく。理性も全部。
    ダメだ、溺れちゃダメだ。でも、もう。
    「あ……」
    サンポの両腕から力が抜ける。視界が、原色に埋め尽くされて。
    そのまま、意識が彼方へと蕩けていく。



    「すまない、思っていたよりも多く吸ってしまった」
    多量の血を失ったことで、ぼんやりと天井を見つめるサンポの頭を撫でてジェパードはそう言った。
    「君の血が、思っていた以上に美味しくて」
    ジェパードの膝枕に頭を預けて、サンポは自身の首筋に触れる。そこには、彼に噛みつかれて開いた穴が二つ並んでいるはずだ。
    空腹のジェパードは、サンポの僅かな血の匂いに誘われてきたのだ。メイドの血は飲めず、吐き出した彼が匂いで。それは、遠回しに相性の良さを証明していた。ずっと、彼はご馳走を前に我慢していたのだ。
    「……サンポ、僕は君に謝らなくてはならない」
    「脅して、血を大量に吸っておいて……これ以上何を謝るんですか」
    もう何も謝らなくて良いから、とりあえず家に帰らせてほしい。この場はジェパードが処理するという。彼は、約束を違えない。だから、ここでサンポは誰も殺しておらず、ジェパードが見つけた死体は自殺で片付ける。
    「僕たち吸血鬼の唾液……いや吸血中の唾液には、中毒性がある」
    「ちょっと待て」
    前言撤回、話が変わった。
    「中毒性?あの麻薬を吸ってハッピートリップしたようなあの感覚に、中毒性!?」
    「あ、ああ……その一度捕まえた餌……人間を逃さないための進化というか、そういうものだ。一定期間、吸血による唾液摂取が無い場合、禁断症状が起こる、らしい」
    「…………」
    サンポは言葉を失った。このまま一度きりの吸血行為だと思っていたのに、まさかそんな罠があるとは。
    いや、それよりも重要なことを隠していたジェパードを許せそうに無かった。それと同時、焦って判断を誤った自身にも怒りが湧く。
    「なんでそんな大事なことを最初に話さないんですか!?嘘つき!詐欺師!!」
    「詐欺師に詐欺師と言われたくはない」
    「そこだけ元の貴方にならないでくださいよ!」
    今すぐにでも起き上がり、その頭を引っ叩いてやりたい。だが、麻薬のトリップと血液欠乏による疲弊で指一本動いてくれない。
    「最悪、最悪だ……。これで僕は貴方の都合のいい餌になったってわけですよね。本当に最悪」
    「……最初に言っていたら、君はごねるだろう」
    「当たり前ですよ!貴方は腹を空かすだけですけどね、僕は麻薬断絶にも近いかもしれない禁断症状に苦しむ羽目になるんですよ!?」
    身体は動かないが、口だけはよく回る。ギャンギャンと鳴き散らかしながら、サンポは今後を憂いた。
    どれだけ喚こうと、この先の結末は変わらない。一定の期間で、サンポは目の前の吸血鬼に血を分け与えないといけない。
    いや待て、血を吸われたといえば、そうだ。
    「……このまま、僕は貴方の眷属になんてならないですよね?」
    「眷属にはしてない。今はまだ」
    「まだ!!?」
    「眷属にするのには、色々と必要なんだ。だが、僕が血を吸ったことで今後君にもメリットがある。例えば……君の視力は幾つだ?」
    なぜ、視力を聞かれたのかは分からない。怪訝な表情を隠すこと無く浮かべて、サンポは答えた。
    「両目とも1.0だと思いますが……」
    「それが、3.0程に上がる」
    「は?」
    「僕の視力は元来5.0ほどある。それを、常空腹のために1.5ほどの視力しかない状態だった」
    「????」
    びっくりするほど、理解が追いつかない。脳内が疑問符で埋め尽くされるサンポは、ただジェパードの顔を見つめていた。申し訳なさそうな彼の表情は、まるで怒られている犬のようだ。
    「僕本来の身体能力の一部が、君にも共有されるものと思ってくれていい。効果が出るのは数日後だが」
    「……なるほど」
    「効果は一時的なものだ、永続じゃない。僕が血を吸えば、その都度効果は続く」
    その言葉を聞いて、サンポは考える。それはそれで、割といいのではないだろうか。視力が上がる、身体能力も上がる。今後の商売や仕事で、活かせるはずだ。
    「……ただ、僕の既に万全の状態だということを忘れるなよサンポ。この殺害の共犯者だが、それ以外では僕は戌衛官として君の悪事を許すことはない」
    そういえば、この場には死体があった。自身で殺めたにも関わらず、サンポの頭の中からそのことがすっぽ抜けている。こうしてジェパードに膝枕をされながら、サンポが喚き散らしている側でその肉塊は鎮座していた。なんというか、もうそんなことはどうでもいい。
    ごちゃごちゃと考える頭が、ゆっくりとそのアクセルを緩めていく。考えることに疲れて、サンポは思考を放棄した。
    「君が動けるようになったら、近くまで送る。……また今後も、僕に血をくれるのであれば嬉しい」
    「禁断症状あるって聞いて、首を横に振るのは難しいと思いますが……?」
    ジェパードとサンポを結ぶ間柄。シルバーメイン戌衛官と下層部の商人。兵士と賊。それに、吸血鬼と餌が追加された瞬間だった。
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