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    紫蘭(シラン)

    @shiran_wx48

    短編の格納スペースです。

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    紫蘭(シラン)

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    おじいちゃん・おばあちゃんになったグルアオです。
    ※二人の子供と孫、そしてomoさんとは別の🔝が少しだけ登場しますので、ご注意ください。

    優しくて、容赦のない人/グルアオ『お気持ちはわかりますが、やはりジム挑戦者をあそこまで叩きのめすのはちょっと…』
    「大人気ない行動をしたのはわかってるけど、あそこまで侮辱されるとぼくだって黙ってられない」

    離れた場所にいるグルーシャさんが、電話口で誰かと揉めている声が聞こえる。
    リビングのソファーで小さな孫を膝の上に乗せて絵本を読んであげていたけれど、珍しく大声で声を荒げている様子だったから、読み聞かせを一時中断してしまう。

    グルーシャさんがあそこまで怒っているなんて…、一体何があったんだろうと非常に気になった。
    すると私の感情を読み取った孫が顔をあげて教えてくれる。

    「おばあちゃん、あのね おじいちゃんはトップチャンピオンにおこられているんだよ。
    おしごとでいけないことしちゃったんだって」
    「えー、そうなの?珍しいね。何しちゃったんだろ」

    何十年もナッペ山ジムにてパルデア最強ジムリーダーとして君臨し、真面目に仕事に励んでいる彼がリーグから注意されるようなことをするなんて珍しいな。
    キッチンから飲み物を持ってきてくれた娘が、ことの顛末を話してくれた。

    「お母さんのこと、いつまでもチャンピオンクラスにしがみつく時代遅れだって。
    さっさとジムバッジ集めて俺が引退させてやるーって大声で言ってたわ」
    「よく知ってるね」
    「お父さんにお弁当届けに行った時に、私もそこにいたから。
    他にも口に出すのも嫌になるくらい酷い言葉で罵ってたし、しかもわざわざそこにいる全員に聞こえるように言ってたんだよ。
    それ聞いた私だって腹立ったんだから、相当だったと思う。
    そこまでの大口叩くもんだからどんなもんかとバトルを見てたけど、お父さんが見事その子の自信とプライドを全部へし折ってくれてね。
    速攻で終わったしすっごく泣いてたけど、気分爽快だったわー」
    「もう、そういうことは言わないの…」

    あまりの言い方に嗜めると、娘はだってーと口を尖らせていた。
    グルーシャさんの仕事は挑戦者の実力を見極めて、未来に向けたバトルの育成者としての役割もあるんだから、感情のままそんなことしちゃったらリーグに怒られるよ。
    今までも正直実力不足の挑戦者が来たとしても、その人のレベルに合わせてちゃんと戦っていたはずだから、多分私とポケモンバトルをする時みたいに今回は本気でやっちゃったんだろうな…。

    はあ…とため息をついたけれど、同時に昔のことを思い出して心の中で笑ってしまった。

    その後娘や孫と一緒におやつを食べたり、ポケモン達と一緒に遊んでいる間も、ずーっとグルーシャさんはトップと言い争いをしていた。
    やっと電話が終わった頃には彼女達は既に帰宅していて、それに気づいた彼はちょっと残念そうな顔で私の隣に座った。

    「はあ、最悪…。せっかくの休みであの子達と過ごせるはずだったのに」
    「聞きましたよ。そんなことしたら怒られるのは当たり前です」

    むすっとした顔で私の方を見てきたけれど、その表情はさっきの娘と全く一緒だった。
    それも含めて笑っていると、ますますグルーシャさんは不機嫌具合を増していく。

    「…何がおかしいの」
    「だって、昔私が同じことをした時は呆れてたのに、今度はグルーシャさんが怒ってるから」
    「あの時アオイがすごく怒っていた気持ちがわかったよ。
    自分の大切な人が悪く言われていると、本当に腹が立つ」

    そう。
    何十年も昔、私がまだグレープアカデミーの学生だった頃、ジムの受付でグルーシャさんの悪口をいう人がいて、怒った私がジム戦の前にぼこぼこに打ち負かしたことがあった。
    大して強くもないのに、顔と話題性だけで最強をリーグに演出されてもらってるヘボジムリーダーって。
    今思い出しても当時感じた怒りが、そのまま蘇ってくるレベルで嫌な気持ちになる。

    確か勝負を終わらせた後、そんな実力でグルーシャさんに勝てるはずないって言ったなぁ。
    その後、騒ぎを聞きつけたグルーシャさんに逆恨みされて私自身に危害を加えられる危険性もあるから こんな危ないことを二度としないでって怒られたし、自分への悪口で私がそこまで怒るのは変だって呆れられた。

    そんなこと言ってた人が、昔の私と同じようなことをしたんだから…こんなの笑わずにはいられませんよ。

    「私のために怒ってくれて、ありがとうございます」

    そうお礼を言ってグルーシャさんの肩に頭を預けると、額に優しくキスをしてくれた。

    「ぼくの奥さんが悪く言われて黙っている夫なんていないよ。
    それにあれだけの大口を叩いてたんだ。本気でアオイを引退に追い込ませる気があるんなら、ちゃんと立ち上がってもう一度挑戦してくるよ」

    指同士を擦り合わせる様にお互い皺くちゃになった手を繋ぎながら、彼は何事もないように言っているのを聞いて、これは全く反省していないな…と確信する。
    また同じことをしでかさないためにも、私は釘を刺すことにした。

    「でも、トップが言ってたことも間違ってないので、ちゃんと反省してくださいね!
    あなたは私の旦那さんである前に、育成者でもあるんですから、そんな大人気ないことして ポケモン勝負を辞めたくなる様なことはしないでください」

    「…わかったよ」

    顔は見えないけれど、少しの沈黙の後 ちゃんと反省した雰囲気を感じられたから今回はこれ以上言わないことにした。
    またリーグを訪れた時にでも、今回の件は私の方からもちゃんとトップに謝りに行こう。

    でも、私を引退させようとするくらい威勢がいい子がいるのもいいな。
    いつかその子と戦える日を夢見て、私はグルーシャさんの肩に擦り寄って目を閉じた。


    終わり
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