キラキラひかる(お題:雨・晴れ間/グルアオ)砂浜をサンダルで踏みしめながらやってきたのは、ハッコウシティ付近にあるビーチ。
天気はちょっと曇っているからか、それとも海で遊ぶには少し早い季節だからか、ここにいるのは私とグルーシャさんの二人だけ。
水色のサンダルを脱ぐと、この日のデートのために買った白のワンピースが水に濡れないよう片手で裾を持ち上げながら、海の中へと一歩ずつ歩みを進めていく。
「ひゃー、冷たい!グルーシャさんもどうですか?」
風で飛ばされないよう 麦わら帽子に手を添えながら振り向くと、怪訝そうな顔のグルーシャさんが少し離れた場所で立っていた。
グレーのポロシャツに薄手で紺色のカジュアルジャケットがよく似合う。
「サムいのわかってるのに行くわけないだろ」
「せっかく来たんですから、海で遊びましょうよー」
「いやだ」
断固拒否の姿勢に私は盛大に膨れた。
私だってこんな時期じゃなくて、ハイシーズンに来たかったですよ。
グルーシャさんと一緒に水着着て、海で日が暮れるまで遊ぶの、夢にまで見るレベルで楽しみだったのになー。
だから夏が来たらと思い切って提案してみれば、まさかの本人NG。
理由を聞いても答えてくれなかったから、それじゃあと二人で海に行くだけでも叶えたいと思って、今回のデート先に選んだ。
お願いしたら、シーズン前なのに正気?って顔されたけど。
「じゃあ、グルーシャさんはここで何するんですか?」
「遊んでるアオイを見てるよ」
「ええ、私だけじゃつまんないんですけど…」
ぶーぶー文句を言っても、彼はどこ吹く風。
ああ、これは絶対に聞いてくれないやつだ。
ため息をついて仕方なく一人で寂しく遊ぼうとした時だった。
空からポツポツと水滴が落ちてくる。
上を見上げると薄く出ていた太陽が完全に雲に覆われていて、今日雨降る予報だったっけとボーっと見ている間に落ちる水量がだんだん増えきた。
慌てて海から出て 脱ぎ捨てたサンダルを持つと、グルーシャさんに手を引かれながら走った。
周りには雨宿りできる場所なんてないのに、どこ行くんだろ…。
とにかく連れて行かれるまま走れば、東一番エリアへ繋がる道の壁で、少し窪んでいる所にたどり着いた。
ここなら、二人くらい 身を寄せ合えばしばらくの間凌そうだった。
避難してから確認したけれど、幸いなことにすぐにグルーシャさんがここに連れてきてくれたから、服がそこまでびちょびちょにならずに済んだ。
「今日は雨降らないって聞いてたんですけど、ついてないですねー」
残念ですと言いながら彼を見たら、何かに気づいたような表情をして、着ていたジャケットを脱ぐと前を隠すようにして私の肩にかけた。
意味がわからず見上げると、なんとも言えない顔で気まずそうに呟いた。
「…透けてるから」
えっと思って胸元を見たら、ワンピースの下に着ていたペチコートが薄らと見えていた。
び、びっくりした。
「あの、これペチコートと言って 下着が透けないようにするためのものなので、大丈夫ですよ」
「それでも下着は下着だろ。ぴったり張りついてる」
「いやだから、見えても大丈夫な下着なんですって」
そう説明したけれど納得はいってない様子で、ため息をつきながらその場であぐらをかくと、彼は太ももの上を軽く叩く。
座れってことかな。
降り出した雨はまだまだ止みそうにないし、本人からのお誘いなんだから遠慮なくお邪魔しよう。
指示された場所に三角座りで潜り込むと、後ろから抱きしめられた。
ざぁーという雨音を聞きながら、静かに二人で待つ。
「ところで、どうして夏に海行っちゃダメなんですか?」
暇だからと、あの提案を断られた理由を聞いてみる。
この前ははぐらかされたけれど、今日はそうなりませんよ。
そんな気持ちを込めていると、観念したようにグルーシャさんは話始めた。
「見られたく、ないから」
「何がです?あ もしかして、怪我されたところが目立つ場所にあったりします?」
「違う、ぼくじゃない。…アオイの方」
私?と聞き返しながら振り向くと、またあのむすっとした表情。
「アオイの水着姿を、ぼく以外に見られたくない」
「何言ってるんですか。こんな子供体型、誰も見ませんよ」
「出会った頃より大人びてるよ」
と言いながら私の腰のあたりを変なタッチで擦り撫で始めたから、そんな悪い手を思いっきりつねった。
痛いと後ろから文句言われたけれど、こんな野外で何してるんですか。
「さっきみたいにあんたは無防備だから、心配なんだ。
変な男達に絡まれたらほいほいついて行きそうだし…」
「行きませんよ。
グルーシャさんの中の私ってどんなイメージなんですか」
「アオイは自分の魅力を理解してないから、色々危ない」
そんなよくわからないことを言われつつ、このままでは堂々巡りになりそうだったから、別案を提案してみる。
「そんなに露出と人目が気になるなら、ダイビングはどうですか?
ビーチでの水着より、両方ともマシですし」
「ウエットスーツは、体のラインがもろに出るからダメ」
いやいやいや、あれもダメ これもダメって…。
「前々から思ってましたけど、そんな何でもかんでも気にしてて疲れませんか?」
「うるっさいな」
ぴしゃりと言われて思わず黙ってしまう。
はーもう、ちょっと分が悪くなるとすぐに怒るんですからー。
むーと膨れていると、今度はグルーシャさんから話しかけ始めた。
「そもそも、なんでぼくとそんなに海に行きたかったの?」
別に海だけじゃないんですけど…。
「グルーシャさんといろんなところに行って、思い出を増やしたいんですよ。
あなたの家でゆっくり過ごすのも素敵ですけど、二人で行った場所の写真を撮って、後でそれを見返しながら楽しく思い出話もできますし。
…どうしても嫌なら、やめますけど」
二人でというのを強調しながらそう言うと右肩に顔をうずめながら強く抱きしめられる。
お、機嫌が直ってきたぞ。
「海以外だと山でも荒野でもいいですし、パルデア十景に行くのもいいですね。
あとは…色違いポケモンを探し回ったりとか。
そうだ、グルーシャさんの手持ち達を色違いで揃えるのはどうでしょう?
代わりにサンドウィッチ食べまくる必要がありますけど」
彼の腕に手を添えながら今後二人でやってみたいことを伝えてみると、横から何それと小さく笑い声が漏れた。
そこから私が考案した各プランの詳細を口頭でプレゼンしていると、隠れていた太陽が顔を出して あたり一面に光が降り注ぐ。
「グルーシャさん、見てください!」
大声で彼を呼びかけ目の前を指差せば、小粒の雨が降っている中太陽の光が反射して、海と一緒に輝いていた。
宝石が散らばっているみたいに、とても美しかった。
「さっきまでついてないなって思ってましたけど、雨が明ける海を見るのもなかなかいいですね。
普通こんな天気で出かけることなんてないから、レアなもの見れました」
すっごく綺麗…と呟くと、耳元から小さな声が聞こえる。
「アオイと一緒にいる間は、いつもこんな感じだよ。
どこにいても、キラキラ輝いてる」
とんでもないことを言われた気がしてグルーシャさんの顔を見ようとしたけれど、体が全く動かない。
…もしかして、渾身の力で羽交い締めにしてます⁉︎
「ちょ、っと力 緩めてくださいよ…!
息が!!」
「ぼくの顔を見ようとするだろ。サム過ぎるから、絶対にダメ」
「みーなーいですからー!本当に苦しっ…!」
女優になりきったつもりで私の出せる最大限の演技力を駆使すると、なんとか力を緩められたから、その隙をついて体ごと後ろに向いて彼の顔を覗き込む。
グルーシャさんは、見たことないほど真っ赤になっていて…ーー
「ふふっ、可愛いですね。耳まで赤い」
そう彼の頬に触れながらにっこり笑顔で告げると、軽く頭を叩かれた。
「ばっかじゃないの」
仮にも彼女に対して、その暴言は酷くないですか?
でもあなたの気持ち、わかりますよ。
私もあなたと一緒なら、行った先で雨が降っていても、こうして素敵な空間になってしまう。
だからこそ、グルーシャさんといろんなところに行きたいんです。
雪山にこもるのもいいけれど、時々そこを飛び出して たくさんの思い出を作りましょう。
もちろん、私とあなたと二人っきりで。
大好きな人との幸せな記憶は、いくらあっても足りないから。
終わり