拾参 ヴェルネエルから渡された情報を元に、太宰は付随する現状を追跡する。
重力使いが起こす殺人事件となれば何かがあって然るべき、とヴェルレエヌが突っ込んで調べて見れば、荒覇吐計画は六年前に研究所の破壊を持って終焉と思っていたがまだ続いていたらしい。
それでもNの死亡により研究の発展ではなく、維持管理が主な継続理由。本当に維持管理のみに主体をおいているらしく予算もだいぶ削減されている。多少の増減はあるが、新しくプロジェクトを立ち上げて動かしているようには見て取れなかった。
それでも十五年前に一つの凍結卵を生育し現在、不都合なく活動していることから、今後、他の保管されている凍結卵を使用し複数の個体を生育する可能うせいもある。最も、現在の予算ではそれはかなり難しい話にはなるので、直近にということではないだろう。
ヴェルレエヌは研究を中心に調べていたらしく、第三実験場と呼ばれる研究所の場所までは特定できたようだ。
それでもその先は不明瞭。
というよりも目的と現在の詳細な情報は入手できず、判断材料も無いということろ。
そこで太宰は経費の流れをみる。
大きく予算配分が変わったのは15年前と6年前。
第一実験場と第二実験場の使用がなくなった事によプロジェクトの縮小が原因だろう。巨大な実験場が失われたことで維持管理費が大きく削減されたこと。また、15年前の件で唯一の成功体が消えたことにより実験は一時的に頓挫し、その後の研究費が削られたというのもあるだろう。
六年前の時に大幅に削減されたのは理解しやすいが、その後も徐々に減らされている。最も、代わりというように猟犬の方へ予算が回されていることを考えると、国は荒覇吐計画を終わりにする判断か。
そう考えながら一つ伸びをする。
荒覇吐計画を終結させるとして、彼の存在はどうなるのだろうか。
考えても仕様も無いことを思いながら、先ほど何時になく硬い口調での国木田の呼び出しに応じるために、探偵社へ向かうのだった。
下宿の一間に敷かれた布団の上で田山は暫し考えて、頭を掻いた。
国木田を通して江戸川から気にするように言われていた電子網内の閲覧ログ。毎回、IDやらなにやらを変えて偽装しているが、田山が意図的に見ていればその足跡の追跡はそう難しいものではない。それでもまあ、その偽装は見事なもので意図して注視していなければなかなか直ぐには気づかないだろう。
詳細こそ聞いて居ないが、あまり深く突っ込んではいけない案件であることはわかっている。
軍関連の研究となれば国家防衛という意味でも最高機密。そんなところを嗅ぎ回るのはそれだけで、軍の情報部に目をつけられて連行からの拷問、自白、処刑までのエスカレータに乗るようなもの。一応は申請すれば閲覧が可能である範囲を浚っているように見えるが、下手をすれば目をつけられる可能性もあるラインだ。
そんな先に何があるのか気にはなるが、さて。
藪をつついて蛇を出すべきか、虎穴に入らずんば虎子を得ずか。
古びた天井を仰いでため息を吐くのだった。