長編 弐 本来であれば容疑がかけられている時点で留置場へ入れられるのだろう。しかし、中原が連れてこられたのは、そんな優しいものではなかった。
「簡易的ではありますが、対異能障壁を使用した部屋になります」
真っ白の正方形の部屋は異能特務化が所有している特殊な施設の一画である。簡易ベッドとシャワーブースにトイレ。一応のプライバシーが保たれているのは、ここの目的が拘留だけではなく保護という一面も持っているからだろうか。
「で、どの程度、俺はここで過ごせば良いんだ?」
異能が効かないことを確認しながら壁を叩いてみせた。成程、強度も十分である。
「貴方の疑いが晴れるまで。とは言え、そこまで時間はかからないと思いますが」
モニター越しに話をするのは坂口だ。
「というと?」
中原の問に坂口が手元の資料を捲りながら答える。と言っても、その手にあるものは今回の事件のものではないだろう。
「この事件ですが、短期間で行われております。前回の殺人から既に三日ほど経っておりますので、そう時間はかからずに次の被害が出るかと」
「随分と冷静だな」
中原の言葉に坂口は一瞬、手を止めるが直ぐに動きを続けた。
「被害者が善良な市民であればまた違うのでしょうが。言い方は悪いかもしれませんが、犯罪者ですので多少はという判断ですよ」
その判断をしたのが誰であるのかは突っ込まない。そうは言っても暇つぶしの一つでもほしいところだ。
「まあいいさ。大人しくしててやるよ」
今回、中原が大人しく拘留されるに当たり、一つだけ条件を提示した。
それは、犯人に関わる情報を提供すること。
中原が知っている重力使いは自分を含めて二人である。そのどちらも、出生に難がある。それ故に、犯人が重力を使うのであれば、気になるのはそこだ。もし、本当に唯の異能力者であるならば良し。そうでないならば。
中原は帽子の鍔をなぞると、ベッドの上に放り投げた。