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    直弥@

    長編の下書き

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    直弥@

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    多分下書きはこれでいい筈

    拾伍 リビングのテーブルに広げられた資料に中原は些か面食らった。
    「こっちが荒覇吐計画の予算の推移。こっちが猟犬。それから軍警の国内治安維持にかかる特別予算についての資料」
    「お、おう」
     次々に並べて行く太宰は最後に一人の男の写真を取り出した。
    「これは?」
    「軍の幹部。直接的な権限は無いけど予算の配分に口が聞く立場ではある」
     太宰の説明に中原は広げられた資料に手を伸ばす。そのやり取りは嘗て太宰がポートマフィアに居た頃の、作戦ミーティングを思い出させた。最も、暫くすれば太宰が必要だと判断しないものに関しては、どんどん省略され最悪、現場で直接指示を出されたり、終わった後に何があったのかを知らされるなど、苦々しい思い出もついて回るが。
    「荒覇吐計画の予算なんてよく見つけ出したな」
     国家の威信をかけた案件だけあって初期のころの予算の金額は、見事に積まれている。
    「巧妙に偽装はされているし、一部、国家機密として一般公開はされていないけど、これだけの金額が動いているからね。全てを隠すわけにはいかないということだよ」
     税金の使用に関しては明瞭な会計報告が義務付けられている、ということか。
     そこに記載がされているのは、大幅に予算が削減されている荒覇吐計画と、それに比例して特殊制圧作戦群・甲分隊、通称猟犬の予算が増えている。
    「簡単な話だ。一から人口異能生命体を造ったところで、今の技術では成功率は低く、かつ成長し使えるようになるまで、かなりの時間が要する。それに対し、異能者の人体強化であればそこの時間も手間もかからない。それに」
     特殊制圧作戦群の資料を手に太宰は淡々と続けた。
    「月に一度のメンテナンスが発生し、それを怠ると死に直結する。無論、本人達の同意の上に行われているとはいえ、自分の命を人質に取られているようなもの。裏切りの抑止力にもなるし、よしんば裏切ったところで処刑するまでもなく裏切り者には死が訪れるシステムだ」
     将来的に本当に国に忠誠を誓うようになるかわからない人口異能生命体よりもよほど手っ取り早く、使える異能力者を抱えることができるのだ。どちらを優先とするかは火を見るより明らか。
    「大きく予算が減って居るのは。ああ」
     六年前と十二年前。
     つまりは第一実験場と第二実験場が破壊された時だ。そのどちらにも関わっている中原は、喜んでいいのか微妙な心持ちになる。が、直ぐにそのどちらも原因がヴェルレエヌであったことに思い至り、責任は全て彼にあると結論をつけた。
    「資料を見ると第三実験場、というよりも資料保管のための研究所があったみたいだね。国としてもこれだけの予算を掛けた研究をそのまま終わらせる訳にもいかない、というところかな。実験データや凍結卵子の保管を目的とした荒覇吐計画の残滓だ」
      第一実験場と第二実験場の使用がなくなった事によるプロジェクトの縮小が原因だろう。巨大な実験場が失われたことで維持管理費が大きく削減されたこと。また、十五年前の件で唯一の成功体が消えたことにより実験は一時的に頓挫し、その後の研究費が削られたというのもあるだろう。 更に言えば六年前には研究の中枢であったNの死亡したことにより、研究そのものが停止に追い込まれ、大幅に削減されたのは理解しやすい。その後も徐々に減らされており代わりというように猟犬の方へ予算が回されていることを考えると、国は荒覇吐計画はこれ以上の進捗は期待できないとの判断だろう。少なくとも、新しくプロジェクトを立ち上げていることは確認できない。
    「これ以上計画は期待されていないと国は判断しているだろうね」
    「だろうな」
     予算の収支報告をざっと見ただけでも、それはわかる。
    「で、この軍のおっさんは?」
    「軍の予算に口出しできる、と言っただろう」
     太宰は続ける。
    「第三実験場に何度か赴いている。それだけなら只の視察として処理しても問題ないんだろうけど」
    「問題あるのか」
    「彼が第三実験場に頻繁に訪れる様になった時期から、連続殺人事件が起ってる」
    「そりゃあ、分かりやすいこった」
     太宰がまとめた男の資料に目を通して中原は軽く息を零す様に嗤うと煙草に手を伸ばした。
    「出来の良い息子が異能犯罪者によって死亡、なあ。随分と安上がりな正義感だ」
     このヨコハマでどれだけの人間が同様の被害にあっているのか。加害者となることも少なくない中原は笑うしかない。そもそも、その事情を踏まえての産国抗争だろうに。
    「はい」
     ついでにと言うように太宰は、音声データを取り出す。
    「いやあ。彼について調べてたら異能特務課にも顔を出していてねえ。安吾が頭を悩ませていたよ」
    「なんだってそんなところに」
     言いながら音声データを聞いて、中原は顔色を変えた。

    異能特務課に「異能犯罪者を取り締まる組織」を作ることを提案
    内容は荒覇吐計画の再興
    中原中也以外の荒覇吐の持ち主はいないために机上の空論と跳ね返すももう一人の荒覇吐がいると告げられる
    「Nの研究協力者にTという女性研究員がいた」
    「研究の主体が第二実験場へ移ったあと、破棄される二年前に子どもを連れていた」
    「聞けは「自分の子」だと言い、Nが自分が父親だと告げた時に否定していたために父親は不明」
    「研究の施設の使用状況から第二実験場へ移行した後に、1人分の人口子宮が使用されていた形跡があるが、研究体は見つかっていない」
    「Tと接触して研究体の存在を確認。実際に部隊設立に向けての実力があるかの試用は行った」
    「異能特務課も実働部隊があれば他の省庁からウォッチャーなどと揶揄されることもない」
    「もともと国に取って有益な異能力者を確保するための研究であるのだから、治安維持管理に携わるのは悪いことではない」
    「生命倫理というのであれば猟犬が実働している時点でこの話には結論が着く」
    「Nが異能生命体に関して重力に耐えられるように遺伝子操作をしているのであれば、その遺伝子を使用するのが一番である。現在、研究施設で保管されているのは、遺伝子疾患が見受けられるものであり、現在、活動している唯一の個体も疾患を持っている。そこで、失われた荒覇吐である中原中也の遺伝子を使用し、クローンを作ることも視野に入れ、今後は予算や研究のスケジュールも立て直す予定だ」

     ご高説、というべきなのだろうか。内容が内容だけに太宰がこのデータをどこでどうやって入手したのかは問い詰めることはしない。単純な盗聴以外にも指向性光速派盗聴なんてものもあるのだ。やろうと思えばいくらでも入手する手段はあるだろう。
    「あー」
     丁度一本。 煙草を吸い終えると中原は深いため息を吐いた。
    「どおりで最近、女が無意味に寄ってくるわけだ」
    「おや。このタイミングでモテ期の到来かい」
    「接待やらハニトラやらとは違うのは解ってたけど、原因はこれか」
     髪をかき回して、その手に絡んだ一本の髪を眺めて中原は何とも言い難い顔だ。
    「髪の毛一本からでもクローンは作れるからな」
    「それで、今動いてる個体ってのがあれか」
     先日対峙した少年を思い出す。
    「それで」
     太宰が資料を広げて中原に問う。
    「君はどうしたい」
    「そうだな」
     新しい煙草に火をつけて暫しの思案に耽る。一本吸い終えると、目を閉じて間を開けた後に深いため息。
    「すべての実験結果を破棄するしかねえだろうな」
    「すべて、かい」
    「すべてだ」
     揺るがないその意思を感じて太宰は広げた資料をまとめると、次の資料を取り出す。
    「第三実験場は山の中腹に軍の療養所を模して設置されている。この辺は、ヴェルレエヌさんが引っ張ってくれた情報だよ」
    「んで、内部は?」
    「重力使いを内包するだけあるね「。対異能障壁が標準装備。それと研究所の爆破システムなんて素敵なものが装備されている。これは有事の際に、研究のデータが外部に漏れることを防ぐためだろうね」
    「壁内部に起爆装置が組み込まれ、ホストコンピュータで起動する。パスワードを入力。起動後、メインコンピュータの部屋と卵子保管室が最初に壊れる。」
    「止められるのか。」
    「止められないね。プログラムが独立してる。起動したら研究所全体が花火に包まれるわけだ」
     軽く告げる太宰に、中原は鳥観図を手に取った。
    「こんなもんまで手に入れてんのか」
    「いやあうん」
     視線を逸らす太宰に、眉を動かすことで先を促す。
    「いろいろと探っているのが花袋さんにばれてねえ。そこから国木田君を通して乱歩さんへ」
    「お、おう」
    「がっつり叱られてしまったよ」
     ポートマフィア時代を思い起こし、太宰を叱れる人間がいる時点で武装探偵社の人材の優秀さが解るというものだと感心する。
    「そこでごり押しして花袋さんにちょっと無理してもらっちゃった」
    「ごり押しかよ」
    「いくら私でも乱歩さん相手に舌戦で勝てはしない、ということだよ」
     そう微苦笑を浮かべる太宰の顔は、それをどこか誇っている様に見えて中原も笑ってしまう。
    「お互い恵まれた職場だな」
    「そうだね」
     中原の言葉に太宰は素直に同意するのだった。
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