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    くるしま

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    くるしま

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    原作雑土。
    こちらを書き終えたら支部に何か更新しよう…と思っていたら、全然終わらない罠。

    原作雑土で連載してみる07 黄昏甚兵衛にしても雑渡にしても、この件はすぐに終わると思っていた。あとは相手の忍者の目的を吐かせて、対応すれば終わりだと。
     偽の逢引の誘いに乗り、あっけなく捕まった忍びを相手に、手こずるとも思いにくい。
     そうではなかったと分かったのは、捕らえた忍者が消えてからだ。
     彼を捕らえたのは雑渡たちだった。が、すぐさまその身柄を奪われた。相手方の忍者たちではなく、味方に、だ。
     それは原因となった女の夫、つまりタソガレドキの将だった。間男の取り調べは己でやると、横から割り込んできた。
     普段は温厚な男であっても、妻を寝取られたとなれば話は別のようだ。これまで目をつぶってきた浮気三昧に、積もり積もったものが爆発したのかもしれない。
     当然、忍者たちの反発はあった。が、裏に大事があるとも思えないし、味方同士で揉める程の事では無い。というのが黄昏甚兵衛の判断で、殿からの命令とあれば、従うしか無い。
     男が連れて行かれた先で何があったか、正式に聞かされる事はなかった。ので、こちらで調べた。
     男は痛めつけられ、忍者として再起不能であろう状態にされ、それから解き放たれた。
    「中途半端な処理をするものだ」
     雑渡は呆れた。タソガレドキへの恨みを抱えた忍者を増やしても、益はない。
     更に、その忍が所属する忍者隊が問題だ。これはそもそもタソガレドキとは敵対関係にあったのだが、今回の一件で彼らの恨みがタソガレドキ忍軍、引いては雑渡に向かっている。と、押都が報告してきた。
    「どうして私に来る?」
     男を捕らえたのはタソガレドキ忍軍であるが、痛めつけた訳ではない。拷問する暇もなく、男の身柄を奪われたからだ。
    「もともと我らに恨みがあった事と……どうも此度の件、男にとっては、仕事ではなかったようでして」
    「つまり?」
    「例の奥方に、本気で惚れていたようです」
     雑渡はため息をついた。
    「あんな女に引っかかる忍者がいるのか」
    「いたようですな」
     どうにか生還したその男は、所属する忍部隊の長の息子だったらしい。そこに元々タソガレドキと忍軍へ持っていた恨みが重なり、雑渡へ向けられた。
     恨みだけならまだしも、具体的に狙う計画まである様子だという。
    「やれやれ。子が子なら親も親だな」
     恨みを買うのには慣れている。とはいえ、そのような顛末では愉快にはなれない。とばっちりもいい所だ。
     命を狙われるのは、日常茶飯事とまでは言わないが珍しい事ではない。雑渡は最低限の警戒で済ませるつもりだったが、周りはそこまで楽観的ではなかった。
     しばらくは行動を慎むよう上から下から言われれば、承諾するしかない。
     しばらくは土井に会いにくくなったな。
     ぼんやりと、そう思った。



     そうして雑渡が狙われる事になったが、すぐに何かが起こった訳ではない。
     相手方は、雑渡の、タソガレドキの隙のなさに手を出しかねている様だった。
     当然だ。そう簡単に暗殺できるようなら、雑渡はとっくにこの世にいない。
     諦めた訳ではないだろうが、すぐに襲撃がある訳でもない。膠着状態が続いた。
     そうなると、雑渡は少しずつ、緊張状態から抜けていった。
     組頭は忙しい。情報収集は続けつつも、自由に動けるようになってきた。
     しかし流石に、夜の一人行動は周りにいい顔をされない。
     久しぶりに土井に連絡をつけた時も、待ち合わたのは昼間だった。
     本当に恋仲であったなら、連絡もなく放っておくには長すぎる、という程度には間が空いていた。だが土井とはそういう仲ではない。
    「随分と、お久しぶりですね。ようやく私に飽きたのかと思っていたんですが、違うようで」
     皮肉っぽく言いながらも、土井は怒ってはいなかった。声には、残念そうな響きさえある。
     土井が雑渡との関係を切りたがっているのは、察している。しかし直接言われた訳ではないし、誘えば来るのだ。
     そんな所を面白がっていないと言ったら、嘘になる。
    「なるほど、私は薄情者だと思われているらしい」
    「違うのですか?」
     雑渡はそれには答えず、土井に手を伸ばす。
     土井が雑渡の言葉をただ受け入れる事は滅多にないが、行為は素直に受け入れる。
     心は頑なに閉ざすくせに、土井の身体は必要以上に従順だった。
     身体を重ねたばかりの頃の土井は、とにかく乱暴だった。
     そのうちに気付いた。土井は、乱暴に扱わられるのを好んでいるのではない。
     彼は、相手の好きな行為を察して、それに合わせて動く。最初に雑渡が試すような乱暴な行為をしたから、土井は同じように応えているだけだった。
     意識的にそうしている訳ではなさそうだった。
     合わせなくてもいいと指摘しても、きょとんとして、「好きにやっておりますが?」などと言う。完全に無意識だろう。
     常に相手に合わせる動き、心が伴わない行為への抵抗感のなさ、奉仕に慣れた手つき。
     そう教え込まれていたのだろうと、容易に察せられた。
     土井にとって、誰かと身体を重ねるのは、目的ではなく、手段だったのだろう。
     雑渡は土井の過去について、ほとんど知らない。
     だが身体を重ねていくうちに、彼が忍者としてどういう風に育てられてきたのか、朧げながら分かる気がした。
     雑渡は穏やかに土井を抱くようになった。
     応える土井も、柔らかく雑渡を受け入れた。雑渡の手付きが変わった事には気付いても、それを雑渡の心情が変わったせいだと気付かずに。
     雑渡は己を分かっていた。だから、土井との関係も長引かせるつもりはなかった。
     やけに色恋に鈍いこの男が、雑渡の情に気づく前に、終わらせるつもりでいた。
     終わらせるのは、簡単だ。別れの言葉さえ不要だろう。切るのが簡単すぎて、逆に機を逃し続けている。
     何よりも。
    「忍術学園はそろそろテストだったかな」
    「どうして知っているんですか」
    「テスト勉強が大変だと、伏木蔵くんが言っていたよ」
    「まったく……」
    「乱太郎くんは範囲がわからないと言ってたな」
    「それは伝えたはずなんですがねぇ……!」
     色気のまるでない会話は、とても事後にするようなものではなかったが、雑渡は楽しんでいた。
     忍玉について、気軽に会話できる相手は貴重だ。もちろん土井の口から彼らの情報は出てこないが、雑渡は話したい事を話しているだけだから、問題ない。
    「本当にあなたは、生徒たちの話をするのが好きですね」
    「好きだね」
     土井が呆れた様に、「物好きな人だ」と呟くのが聞こえた。
     あなたと話すのも割と好きだよ、と言ったら、どんな顔をするだろうか。
     少しだけ思ったが、もちろん、口に出しはしなかった。



     敵方の動きは静かだが、止まる事がなかった。
     ひとの警戒心というのは、そう長く続くものではない。膠着状態が長引けば油断も出るし、相手方がそれを狙っているとしたら、面倒だ。
    「本腰を入れるか」
     雑渡が決めて、相手方の領内に偵察に行く事になった。
     雑渡自身が。
     標的の雑渡が自ら行くのは、と難色を示す声もあったが、無視した。雑渡を狙って姿を表す者がいれば、むしろちょうど良い。
     さすがに単身で動きはしない。尊奈門と、それから山本も一緒だ。山本は護衛兼、雑渡が勝手をしないよう見張り役だった。
    「若いのに任せると、組頭に丸め込まれて撒かれますからね」
     何とも信頼のない言葉だが、実際にそれを何度かやったのだから、反論の余地はない。
    「私は何があろうと、組頭から離れませんよ」
     同じく見張り役の尊奈門が横から言う。雑渡にとって尊奈門を撒くのは難しくないが、後からうるさいので避けたい。
     どこぞの家中の一行のようなふりをして、相手の忍者隊の懐を探る。彼らの所属する領地内の内情はあまり芳しくない様子だ。
     何よりも、忍者たちがうまく使われていない。忍者は裏方で動くものであり、使い方次第で有用性は変わる。
     雑渡を狙おうというのは、実力が発揮できない彼らの一つの捌け口かもしれない。そして、雑渡を殺せたなら、実力を示す事になるという考えも、あるのかもしれない。
     そんな事を考えながら、歩いていた時。
    「あっ……!」
     急に立ち止まった尊奈門が、小さく声を上げる。
    「土井半助……!」
     呟いた声に、雑渡と山本は思わずそちらを見る。視線の向こうに、確かに土井がいた。
     露店の店主と話をしている土井は、もちろん忍び装束ではない。そして、一人でもなかった。
     すぐ側に、もう一人の男がいる。山田伝蔵だ。
     先に見つけられたのを幸いというべきか。
     見つけたからには、目的は確認しておいた方がいい。そして、この二人を相手取るなら、そっと調べるよりも、堂々と出た方が早い。
    「尊奈門。おまえは隠れていろ」
    「何故ですか」
    「おまえが行くと、話がややこしくなる」
    「そんな事は」
     言い返そうとする尊奈門を、山本が制する。
    「本当の事だろうが。いいから、大人しくしておけ」
    「はい」
     渋々、尊奈門が頷く。
     雑渡が土井から視線を外さないまま、尊奈門に命じる。
    「我々と別れた後、二人がどちらの方向へ行くかだけ確認しろ。深く追う必要はない」
    「はっ」
     小さく頭を下げて、尊奈門は二人から離れた。
    「何かと縁があるものだな」
     口の中で呟いて、雑渡は特に足音も気配も消す事なく、会話をしている山田と土井に近付いていく。山本は、少し後ろを着いて行った。
    「……では、ここから……ん?」
     近付いていった雑渡に、まず山田が気付いた。
    「こんにちは」
    「え……」
     突然、堂々と目の前に現れた雑渡に、二人は言葉を失った。
    「……これまた、意外な所でお会いするものですな」
     気を取り直して先に口を開いたのは、山田だった。
    「ええ、まったく。お二人とも、どちらへ?」
    「もう帰る所なのですよ。こちらには、通りかかっただけでして」
     雑渡と山田は、久しぶりに出会った旧知のように話し始める。山本は土井に対して軽く頭を下げて、土井も同じように返す。
     雑渡と会話する山田にも、それを横で聞いている土井にも、程度の差はあれ、警戒の色がある。もちろんそれは、お互い様だった。
    「早めに帰りたいと思っておるのですが、通るはずの道で、何やら小競り合いがあったようでして。他の道を探しておったのですよ」
     山田が、この地に用はない、つまり雑渡たちとは無関係で偶然ここにいたのだと強調する。
    「よろしければ、この辺りの道について伺ってもよろしいですかな」
    「無論ですとも。この辺りについては、連れが詳しいので、何なりと」
     雑渡はそう言って、山本に目配せする。
     二人が話し始めると、雑渡は彼らから少しだけ離れた所まで移動して、土井を手招きした。
     土井は眉を寄せて、それでも雑渡に近付いてきた。その素直さに、閨での彼の姿を思い出す。
     土井は雑渡を見た。観察するような目で。
    「あなたとは、意外な場所でよくお会いしますね」
    「まったくだ。縁がある、というのはこういう事か」
    「こちらへはお仕事で?」
     土井の口調は素っ気なく、目付きは険しい。警戒心をたいして隠す気もないようだ。
     この所、土井と逢瀬でばかり会っていたから、ここまで警戒をぶつけられるのは久しぶりだった。
    「そんな所だ。お互い忙しいようで、何よりだね」
    「何より……なんでしょうかね」
     ぽつりと土井が呟く。そして、雑渡の目を見た。
    「あなたほどの方が自らこんな所までお越しになるとは、さぞ難しいお仕事なのでしょうね」
    「いやいや。できるだけこの目で確かめたいと思って、動いてしまうだけでね」
    「それはまた。お供の方も大変だ」
     ちらりと山本に目をやる。他にもいないかと、気配を探っている様だ。
    「遠出はお互い様ですな。今回はどちらへ?」
    「上役の旧知の方が、山向こうにおられましてね。そちらへお遣いをした帰りです」
    「ほう」
     嘘だろうな、とは思ったが、ここで尋ねた所で意味はない。これまでの反応から、偶然であるのは分かっている。
     本当に彼らがそのまま去ってくれるならば、放っておいてもいい。雑渡たちの仕事を、あえて邪魔する事もないだろう。標的さえかぶっていなければ。
    「このままお戻りで?」
     雑渡が話を続ける。腹の探り合いは、嫌いではない。土井は嫌いな様だったが。
    「ええ。本当ならば、一日早く戻るはずが、引き止められて滞在が伸びましてね。こんな事なら、無理にでも出てくれば良かった」
     ぼやくような言葉は恐らく本音で、雑渡は思わず笑みを漏らした。
    「なるほど。おかげで、私は久しぶりにあなたの顔を見られた訳だ」
     土井は何と返すか、一瞬悩んだようだ。
    「見たいのは、私の顔ではないでしょうに」
     棘のある口調だった。
     思わず、やり込めたくなる程に。
     だが昼間の往来では、土井を一番簡単にやり込める手が使えない。
     いや、そうでもないかな。
     思いついた雑渡は、音もなく土井に近付く。土井は少し身を引いたが、雑渡がその腕に手を乗せると、止まった。
    「急ぎでないなら、我らと一緒に泊まって行かれては? たまには良い宿で過ごすのも、悪くない」
     潜めた口調で、あからさまに夜を匂わせた目線を送る。
     土井は一瞬だけ口ごもったが、すぐに、
    「急いでおりますので!!」
     よく通る大声で返した。その剣幕に、山本と山田が揃ってこちらを見る。
     土井は二人に向かって、決まり悪そうに何でもないと身振りで伝えて、雑渡を睨んだ。
    「人がいる所で、そういう事はやめて頂けませんか」
    「ああ、次からは気をつけよう」
     言葉は返って来なかった。ただ、睨みつける土井の目が「この野郎」と言っている。
     雑渡の気分が上向いてきた頃に、山田が声を掛けてきた。
    「お話中のようですが、そろそろ行きますよ」
    「はい。話は終わりましたので、大丈夫です」
     土井は落ち着いた様子で山田に返して、雑渡を無視したまま、山本に挨拶をしに向かう。
    「では、我々は帰りますので」
    「お引き止めして申し訳ない」
     山田は立ち去ろうとして、ふと立ち止まり、雑渡に声を掛ける。
    「ひとつ、よろしいか?」
    「何か」
    「あまり、あれを揶揄わないで頂きたい」
     雑渡の目を真っ直ぐに見て、山田が言う。きつい眼差しは、雑渡への怒りを殺し切れていない。
     ああ知っているのか、とは思ったが、特に動揺はしなかった。
    「心に留めておきましょう」
     うっすらと笑う雑渡に、山田は眉を寄せたが、それ以上は言わずに、土井の元へと向かった。
    「何かあったのですか?」
     近付いてきた山本が、二人の後ろ姿と雑渡を見比べながら、尋ねてくる。
    「若い子を揶揄ったら、叱られてしまった」
    「遊ばないで下さい」
     呆れたように言う山本には、話しておいてもいいかもしれない。しかし確実に嫌な顔をされるだろうから、後でいいかと思った。
     何を言われても、何も変える必要のなくなった頃。
     つまりは、土井と完全に切れた、その後だ。
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