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    くるしま

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    くるしま

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    原作雑土。
    雑渡のターン、一区切り。
    ここで3分の2くらい…?
    文字数も期間も伸びてる。

    ここで終わらせてもいいのでは?と少し思った事は内緒です。
    だってもう…長すぎません…?

    原作雑土を書いてみた08 雑渡たちが情報を集めるのと同時に、もちろん敵方も情報を集めている。相手方が何を知っているか、それを突き止めるのは黒鷲隊に任された。
    「少し、まずい流れが見えます」
     主だった面々の前で、押都が報告した。
    「あちらが、忍術学園について調べ始めました」
    「ほう」
     雑渡が感心した様に言い、周りは少しざわついた。雑渡が忍術学園の忍玉を気に入っており、何かと顔を出しに行っている事は、タソガレドキ忍軍ならば誰でも知っている。
     押都が言葉を続ける。
    「主に、土井半助について」
     また周囲がざわつく。
     先程と異なり、困惑と疑問の声が多く混じっていた。雑渡と縁があるのは生徒たちであり、教師ではない。
     というのが、部下たちの認識だ。
    「ふむ……どうしてまた、土井半助を?」
     雑渡は、今のところ土井との関係を誰にも話していないから、敢えてすっとぼけた。
    「先日、土井半助と山田伝蔵とお会いになった時に、見られていたようです」
    「あれか」
     なるほど。もしも会話まで聞かれていたとしたら、誤解されてもやむを得ない。
    「土井半助と話をしたのですか?」
     高坂が尋ねてきたので、雑渡は頷いた。
    「ああ。少しからかって遊んだのを、見られたかな」
     雑渡は涼しい顔のままだ。声は潜めていたが、聞かれてなら聞かれたで、構わないと思っていたからだ。
    「あの後、奴らが山田殿と土井殿を調べたという事でしょうか」
     山本は少し不思議そうだ。彼から見れば、顔見知りが偶然会って話しただけに過ぎない。
     雑渡は、詳細を説明する気はなかった。
    「近くに間者がいたのかもしれない。尊奈門が土井半助の名を口にしていたからな」
    「ああ……」
     納得したような声が漏れる。土井半助が絡むと、尊奈門は判断力がだいぶ落ちる。
     尊奈門は今、別の忍務でこの場にはいない。あの時、土井と山田が間違いなく忍術学園の方向はと向かったまでは、尊奈門が確認している。
     そうそう簡単に調べられる二人とも思えない。とすると、二人をつけていた尊奈門が、敵方に尾行されたか。
     とはいえ、慌てるような事ではない。
     こうなるかもしれないと、最初から織り込み済みだ。
    「よし土井半助に協力してもらおう」
     完全な思い付きのような響きを持たせて、雑渡が言う。その発言に、全員が驚いて雑渡を見る。
     雑渡は面白そうに、ざわつく部下たちを見ていた。
    「忍術学園が、我らに協力しますかな?」
     そう言ったのは、押都だった、
    「今回に限ってはな。敵方はもう、忍術学園に目を付けている。今は土井半助と、せいぜい山田伝蔵までだろうが、そこから生徒たちに目が行かないとも限らない」
     教師一人で済むならば、協力を得られる可能性はある。
    「当人でなくとも良いのでは? 似た背格好の者が変装して、土井殿のふりをさせれば……」
     山本が現実的な案を出すが、雑渡は手を振って、一同の顔を見る。
    「せっかくだから、もう少し面白い事をして、あいつらを引っ掛けよう」
    「と、申されますと?」
     尋ねた押都に、雑渡は目を細めて笑って見せた。それだけで、面の向こうの顔が少々警戒するのが分かった。
    「土井殿が私の恋人だと思わせて、罠を仕掛ける」
    「はい?」
     声を出したのは山本だが、全員同じような顔をしていた。




     雑渡の案は、賛成されたとは言い難い。そもそも賛否の前に、土井がそんな事を了承するはずがないという、真っ当な意見が大半だ。
    「大川平次渦正が良いと言えば、忍術学園の先生は逆らわないだろう」
     雑渡がそれで押し切れたのは、部下たちが、土井であれ大川であれ、そんなものが承諾されるはずがないと思っているからだ。
     どちらにしろ、目をつけられた以上、忍術学園には報告に行かねばならない。もちろん、赴くのは雑渡だ。
     雑渡は学園長との連絡手段を持っている。頼みがある、と伝えれば、すぐに日時の指定が返ってきた。
     指定されたのは夜更けで、雑渡はもはや通い慣れた感さえある道を辿り、入門票を書く事なく学園長室の天井裏まで到着した。
     同時に、
    「入ってまいれ」
     と声がかかったので、素直に従う。
    「この度は、我らの事情にこちらを巻き込んでしまいまして、誠に申し訳ございません」
     挨拶もそこそこに頭を下げる雑渡に、学園長はいつものように笑った。
    「巻き込まれたのが生徒でなく、何よりよ」
     余裕のある態度は、そこからかと納得した。、教師たちの強さに、余程の自信があるのだろう。
    「では、詳しく聞かせてもらうとするか」
    「はっ。お恥ずかしい話ですが」
     簡潔に、事実のみを話していく。
     原因からしてタソガレドキの恥ではあるが、どうせもう、ある程度の話は掴まれているだろう。忍軍内部の話ならともかく、タソガレドキの中でも、それなりに広まってしまった話だ。
    「なるほど。噂は聞いておったが、まさか土井先生が巻き込まれるとはのぉ」
    「私の不手際です。申し訳ありません」
     そこは間違いないから、頭を下げる。
     雑渡は、忍術学園とは一方的な関係を築くつもりはない。
     借りも貸しも程々に、と思っている。雑渡個人の考えであるが、今の所、黄昏甚兵衛には何も言われていない。
    「今回は、敵方を驚かせたいと思いまして」
     雑渡が言うと、
    「ほぉ」
     と老人の目が光る。
     忍術学園の学園長は、面白い事に目がない。でなければ、あれこれと思い付きで行事を行ったりはしないだろう。
    「しかしそれは、土井先生でなくても良いのでは?」
     説明を聞いた大川の言葉は、もっともだった。
    「その通り。ただ私は、土井殿が一番やりやすいのです」
    「土井先生を、のぉ」
     学園長の様子を伺う。変わった様子は見られないが、内心はわからない。
     雑渡がわざわざ出向いたのは、忍術学園内でどこまで雑渡の土井との関係が知られているか、確かめる意図もあった。
     山田伝蔵が知っているならば、少なくとも学園長には漏れているはずだ。
    「しかし土井先生は、色を使う忍務が好きではないのじゃが」
    「そうでしたか」
     土井の身体を知っている雑渡は、本当だろうかと疑った。が、向いている事と好きな事は別かと思い直す。
    「無理を申し上げるつもりはありません。色を使わない形にしても良いですし、土井殿が断られるなら無理にとは申しません」
     とはいえ、学園長が命じれば教師たちは従う。実質、ここで大川平次が承諾するか否かで、結論は決まる。
    「ふむ」
     沈黙は、長かった。
     断られたなら、それでも良い。他にも手はある。敵方の対応も、土井との終わらせ方も。
    「ひとつ聞きたいのじゃが」
    「はっ」
    「忍務が終わったら、土井先生の事はどうするつもりじゃ?」
     静かな問いに、やはり知っていたかと思う。知っていながら放置している理由までは、分からないが。
    「さて。そこは、土井殿にお任せするつもりでおますが」
    「できかのぉ」
     くっくと肩を揺らせる。何の笑いか、雑渡には掴みかねた。
    「それで、土井先生にはどこまで伝えておけば良いのじゃ?」
     どうやら、引き受けてもらえたらしい。ただ。
    「戦力としては期待せぬようにな」
     釘を刺されて、雑渡はもちろんですと頭を下げた。



     
     タソガレドキに戻った雑渡が、承諾を得たと伝えると、部下たちは前より大きくざわついた。まさか本当に承諾されるとは思わなかったのだろう。
    「では、手筈通りに進めます」
     押都だけは、いつも通りの様子だ。
     雑渡は、誰にも土井との関係を話していない。だがもしかしたら、押都だけは知っているのかもしれない。押都には、何を調べるか己で判断する事を許している。それが雑渡の事であっても、例外はない。
    「尊奈門は、いつ戻るんだった?」
     雑渡の問いには、山本が答えた。
    「本日には帰還予定です」
    「では、おつかいは尊奈門に頼むとしよう」
     土井半助へは学園長から忍務を伝えられ、タソガレドキから日時を伝える。それが手筈だ。
     恋仲を演じる忍務にはしないと、学園長には伝えてある。もちろん嘘だ。
     敵方の情報の撹乱と、土井を怒らせるのが目的だった。相手方の戦力を削ぐ事、土井との関係を切る事。同時に行えれば、労力が少なくて済む。
     尊奈門が戻ったのは、そろそろ夕闇が迫る頃だった。
     雑渡の元を訪れた尊奈門からの報告を、山本と共に聞く。
     いくつか質問をした後、山本は下がった。残された尊奈門は、雑渡に目を向ける。
     自分でなく山本が出て行ったのだから、雑渡から自分に何かあるのだ。尊奈門は、それが分かっていた。
    「土井半助に手紙を届けて欲しい」
    「はっ」
     用意しておいた文を取り出し、尊奈門に渡す。
    「返答を確認して来い。承知か否かに関わらず、そのまま戻れ」
    「はっ」
    「今回は、決闘はなしだ」
    「う……はい」
     残念そうな顔はしているが、承知の返事をする。尊奈門は真面目な男だ。言ったからには、何もしないだろう。
     尊奈門は、まだ土井半助に飽きてはいないらしい。
     雑渡は内心で、ため息をつく。
     尊奈門からは、土井の話を何度も聞かされた。尊奈門の目を通した土井の話は、それなりに面白かった。
     だからこそ、雑渡は土井を警戒した。
     尊奈門がタソガレドキを、雑渡を裏切る事はない。
     だが本人も分かっていないまま、裏切りの片棒を担がされる可能性は、ないでもない。尊奈門は無能ではないが、実力で上を行く忍者に、心理的な部分で抗えるかは怪しい。
     ああ言われたこう言われた、という尊奈門の言葉に耳を傾けて、土井半助について思考を深めていった。直接会ってみるべきかと思った。
     その結果として、今の妙な関係が築かれてしまった。尊奈門の預かり知らぬ所で。
    「明朝、さっそく向かいます」
    「おまえは明日、休みだろう。明後日でいい。急ぎではないからな」
    「休みは振り替えます。明日まで土井半助は休みのはずなので、直接長屋の方へ向かいます」
     どうも尊奈門は、忍術学園へあまり行きたくないようだ。
     尊奈門の感情の向く先は、忍術学園ではない。土井半助一人だ。
     生徒たちに関しては、痛い所を突かれたりトラブルに巻き込まれたりするから、関わりたい気持ちが薄いらしい。
     それは仕方ないとして。
    「土井半助の休みまで把握しているのか」
    「はい」
    「ご執心だな」
     知ってはいた事だが、少し呆れた。
     仮想敵について調べるのは、悪いことではない。気を取り直した雑渡が、今回の策について説明しようとした時。
    「でも組頭も、土井半助を気に入っておられるではないですか」
     尊奈門が、先に口を開いた。
     それは確認ですらなかった。わかりきった事であるかのように、尊奈門は言った。
    「……そう見えるか?」
     雑渡が尋ねれば、尊奈門は不思議そうな顔をする。
    「はい」
     と返す声には、違うのですか?という響きさえあった。
     尊奈門といると、時折こういう事がある。尊奈門の勘が特別に鋭い、という訳ではない。雑渡が相手の時だけ出てくる、癖のようなものだ。
     かつて、火傷を負った雑渡を看病していたのは、尊奈門だった。尊奈門は長い時間、雑渡を見ていた。身体どころか口を動かすのさえままならない雑渡の、どんな変化も見逃さないように。
     その延長だろう。今でも尊奈門は、雑渡の様子を見抜く。時には、雑渡の気付いていない所まで。
    「……まぁいい。頼んだぞ」
    「はっ」
     尊奈門は余計な事を聞かずに、文を胸元へ収める。
     策の説明をし忘れたな、と雑渡が気付いたのは、翌日。とっくに尊奈門が出発した後だった。
     どうにも、これはいけない。
     胸の中に、じわりと不快感が広がる。
     土井に、振り回され始めている。正確には、土井に対する雑渡自身の感情に。
     やはり、終わらせておくべきだろうな。
     そう思うのが何度目か、もう雑渡自身も覚えていなかった。



     土井の方から別れを切り出すように仕向けた理由は、雑渡がタイミングを掴みかねたのがひとつ。その方が後腐れがないと思ったのが、もうひとつだった。
     土井半助は、雑渡に惚れている。だが、執着は決して見せなかった。
     それは彼の意地であり、忍術学園教師としての矜持であり、それはこの先も変わらないだろう。
     終わらせる主導権は、常に雑渡が持っていた。
     雑渡が土井に別れを委ねるのは、逆転してしまったと言える。
     離れなければならない。
     土井が、雑渡の心の移り変わりに気付く前に。
     そう思ったし、その通りになった。
     想定とは少し違ったが、土井の口から終わらせるという言葉を引き出した。
     だが、終わったという実感はなかった。
     あれだけはっきりと言われたにも関わらず、もう二度と彼の肌に触れる事はないのだと、実感できずにいた。
     これが未練というものかと雑渡は苦笑して、そして、思った。
     では、実感しよう。
     その程度の気持ちで、雑渡は土井へと誘いをかけた。以前と同じように、ただ場所と日時を示しただけの文を届けた。
     さすがに土井は来ないだろう。
     だから、待ち合わせをした小屋で、一晩のんびり過ごすつもりでいた。時間を見つけて読もうと思いながらも後回しにしていた書物まで用意して。
     雑渡は、待ち合わせよりも少し早く小屋に着いた。当然、誰もいない。残念とは思ったが、失望まではしなかった。
     座り込んだ雑渡が書物を読み始めて、そう時間の経っていない頃。
     外に人の気配がした時は、まさかと思った。
     気配が近付き、書物を閉じて、床に置く。気配は出入り口に止まり、少しの間があって、戸が開いた。
     現れた土井の表情には、怒りと、気まずさが半分ずつ。
    「今更、私に何のご用ですか」
     声は殺気を感じさせるほど鋭い。が、雑渡はそれを聞いた途端に、笑ってしまった。
    「何を笑って……!」
    「来てくれて嬉しいよ」
     すんなりと出た言葉に、土井の動きが止まる。そのまま戸口に立ち尽くす土井に、雑渡は声を掛けた。
    「入らないの?」
     その声に導かれるように、土井は一歩、中へと入った。
     雑渡も立ち上がり、土井へ向かって手を伸ばす。振り払われる不安はなかった。
     まったく、救いようがない。
     土井と、それから自分自身に向けて思いながら、雑渡は久しぶりに土井を抱き締めた。
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