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    Layla_utsusemi

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    Layla_utsusemi

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    一次創作【空蝉日記】のショートストーリー。中学時代、美術部に入っていた頃の光葉くんです。拗らせまくってる。

    【空蝉日記 短編】画布の中の呪詛「あーもう、こんな風に描きたい訳じゃないのに……!」

    思わず込み上げてきた苛立ちに任せて、手に取っていた絵筆を床に叩き続けた。そのせいで床は汚れてしまったが、僕はそんなこともお構い無しに目の前のキャンバスだけを見つめていた。

    昔から絵を描くのが好きで、画家を目指して美術部へ入部したのはいいものの、予想よりも課題の数が多く元々要領が良いとは言えない僕は悪戦苦闘していた。

    多分、他の人が別に見向きもしていないような僅か数cmのミスさえ、僕には許せなかった。

    それを長所ととるか短所ととるかは人による。
    僕は、短所だと思う。

    「今回のテーマは、『親子』……。」

    最初に聞いた時は、まるで小学校の作文のようだなと失笑してしまった。自らの家庭環境が周りのそれと大きく違っていた事も所以するかもしれない。


    僕は他の部員らとは違い、"親子"という概念に対してネガティブな方面で描くつもりだ。きっと周りの皆は、暖かくて優しい家族像をイメージさせるイラストを仕上げてくるんだろう。

    そんな中で一人僕のような異質な作品があれば、きっと良くも悪くも目は引くだろう。

    僕が思う、親子……切っても切り離せない、呪いのような執着の関係。
    どんな恨みも、憎しみも、理不尽も、『家族なんだから』の一言でよくある親子喧嘩として片付けられてしまう便利な言葉。

    「この絵を提出したら……先生はなんて言うかな。いやその前に、この調子だと間に合うかどうか……。」

    きっと『家族とはお互いに支え合う存在なのだから、勝手なイメージで悪く描くのはやめなさい』とか、そんなことを言われるのだろう。画力や構図、色彩ではなく、きっと人としての考え方を先に指摘される。

    どうしてそのような考え方になったのか、その背景や要因までは考えずに、表面だけを見て。

    僕の描く絵だってそう。
    母さんからの嫌味や父さんの反対も押し切って、勉強も疎かにせず寝る間も惜しんで試行錯誤しても、きっと周りは『頑張って描いたんだね』の一言だ。

    いやまぁいいんだ別に。

    その程度しか思われない、その程度の作品しかまだ仕上げられてないってことなんだしさ。
    それは僕の実力不足だ。

    しばらくして、苛立ちも収まりリラックスした僕は、改めて筆を取りキャンバスと向き合う。さっきは上手く描けずに投げやりになってしまった箇所も、今ならスっと描き上げることが出来た。

    「……やっぱり、絵は良いや。」

    芸術とは便利なもので。どんな嫌な感情も、ストレスも、葛藤も、『テーマの一つ』として盛り込んでしまえば作品の一つになる。

    しかも、誰も傷付けない。

    ……だが難儀なのは、誰もその作品の裏側に込められた作者の激情までは察してくれないことだ────。

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