どっかの魔界の魔王城-その3-無数にある世界の一つ。この世界にも魔界がある。
広大な魔界には、魔王城しかない。
あとは、荒涼とした地に無数の魔物がうろついているだけである。
よく晴れた昼下がり。
窓際の広い机に置かれた書類が、ひとりでに高速でめくられていく。
そこに、育ちの良さそうな一人の少年が座っている。さらさらの黒髪で、ブラウスの上にベストを着ている。その背中には、一対の黒い羽根が生えていた。
満面の笑顔。
この少年の姿をした黒い羽根の天使が、魔王城の管理人である。
カウンターキッチンに立つ炎の精霊が、ブラックコーヒーを淹れている。短い炎髪と灼けた肌、精悍な体つきをした青年だ。
角砂糖は4個、小皿に載っけておく。何個入れるかは主人の気分次第だ。
揺らめく湯気の向こうに人影がみえる。管理人がいつの間にか対面に腰かけていた。
「ルシ」トレイに載せたコーヒーを差し出す。
「うん」ニコニコ笑顔で受け取り、静かに飲み始める。
今日は砂糖なし。炎の精霊イフリートにも、主人の考えていることは分からない。
少なくともコーヒーに不満はないのだろう。
人間に転生し記憶を失った初代魔王ルシファーとの出会いは、遠い過去のお話。