どっかの魔界の魔王城-その4- この世界の魔界には、魔王城しかない。
あとは、荒涼とした地に無数の魔物がうろついているだけである。
元気な犬耳の少年が、魔王城のグラウンドを全速で駆ける。彼は暗い紫色の耳と尻尾をもつケルベロスだ。
勢いよくサッカーボールを蹴り、ゴールを決めた。
「紫津、そろそろ休憩するぞ」イフリートが少年に声をかけた。
「火村さん、あとちょっとだけ!」尻尾がブンブンと揺れる。
「俺が疲れてきたの」ほら行くぞ、とシヅを木陰に促した。
昼が近づき、蒸し暑くなってきた。
大木の太い枝にウンディーネが座っている。ポテチを摘みながら、二人の様子をぼんやりと眺めていた。クーラーボックスに入っている冷たい水のボトルを、遠隔操作で二人に渡す。
「お疲れ。食べる?」「うん! ありがとイサナ」シヅは嬉しそうにポテチを食べる。
「一緒に運動しようぜ」と火の精霊。「僕は走るよりも泳ぐほうが得意なの。暑いし」と水の精霊。
「そのうち足が退化するぞ。あ、もう一つくれ」
他愛のない話をしながら木陰で休憩をとった後、怠惰な水の精霊も渋々加わって、もうひと汗かいた。
木陰のほうへと、ピンク髪のギャルが小走りで駆けてきた。ポニーテールが揺れる。その前方を二頭の黒い子犬が走る。赤い目の「アカメ」と、青い目の「アオメ」だ。有事の際には成犬の姿で戦う。シヅの頼れる相棒だ。
後ろから、大きなバスケットを持った白衣の男が追ってきた。
「八重ちゃーん、忘れ物だよー」
「俺をちゃん付けで呼ぶなっつってんだろ、葉!」ツリ気味の猫目が更に細くなる。「そんな八重君も可愛いなっ」何度ぶっ飛ばしても懲りない。大事な忘れ物を従兄からひったくり、大好きなしーちゃんの元へと急ぐ。
皆でピクニックを楽しんだ。
時は少し遡る。
いとこ同士で話し込んでいたら、子犬達が早く早くと猛ダッシュした。八重は慌てて追いかけて、バスケットを忘れてしまったのだ。
「もぐ、もぐもぐ……」
意訳: 八重君はラミアの男の子だけど、普段は人の姿をしているよ。蛇の足が可愛くないから嫌なんだって。
「しーちゃんは俺の嫁」が口癖で、シヅ君が大好き。勿論ワンちゃんもね。
それにしても唐揚げ美味しいな。
植物の精ドライアドは、特に草食ではない。