どっかの魔界の魔王城-その5- この世界の魔界には、魔王城しかない。
あとは、荒涼とした地に無数の魔物がうろついているだけである。
魔王城の庭師、スケアクロウ。鴉の羽根で空飛ぶ案山子。
城周辺には危険な植物も自生している。パトロールを兼ねて刈るのが日課だ。また、庭の整備に加えて、趣味の温室で花や野菜を育てている。
温室は、城の住人がふらっと立ち寄る憩いの場でもある。
パトロールから戻ったスケアクロウは、温室わきのベンチでおはぎを食べていた。先にあんこを食べる。彼は緑茶をすすりながら、我ながら上出来だと思った。
そこに白衣の男がひょっこり現れ、きな粉のおはぎを我が物顔で頬張った。「お茶もちょうだい」横に座って水筒のコップに茶を注ぎ始めた。
しばらくしてギャル、八重が泣きついてきた。
「聞いてよアニキ」白衣にはどうやら、つまみ食いの前科がある。
「しーちゃんの為に気合い入れて作った唐揚げを、二個も」
傍らにはおろおろする犬耳少年と二頭の子犬。
「クーン……」アニキ、姐御を止めてくれ、とつぶらな瞳が訴える。庭師に犬語は分からないが、大体は伝わる。
実の弟ケルベロス、シヅは困惑している。「ねえ兄貴、先生は怒られてるのにどうして嬉しそうなの?」と。悪い見本だからマネはするな、お願いだから。
呆れた人だが、不思議と合う。前世からの縁もある。
初めての出会いは、病院の花壇前。弟を見舞った帰りに花を眺めていた時、先生が声をかけてきた。何度か話すうちに花に興味がわいた。
先生は命の恩人でもある。裏稼業で流れ弾を受けた所を救われた。裏の顔を互いに初めて知り、驚いた。
夜。
「葉さん」
皆の前では恥ずかしいからと、二人きりの時だけという約束で名前を呼んでくれる。特別な感じがグッとくるので良きと葉は思う。
「烏君大好き、いただきます」ぎゅうっと抱きつく。
分かりやすく欲望に素直な年長者である。