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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ2日目

    「あー、うざ……」

     華の金曜日、夜。
    夕食を終え、兄弟三人でゆっくり、リビングで寛いでいた。テレビはクイズ番組を映していて、高学歴芸能人と現役東大生が知能バトルをしている。長男はそれを見ながらソシャゲのデイリーを回し、二男はポテチを食べながら、さっきっから一問も当たっていないのに誰よりも果敢にクイズに挑み、三男はそんな二男の背中を背もたれにしてスマホで小難しい論文を読んでいた。

     主に二郎が出題されるクイズに「分かった!◯◯だ!」(※全然分かっていない)と元気に答え、それに「えー、△△だろ」と長男が異議を唱え、最後に三男が「◻︎◻︎だよ」と気怠げに百発百中で答えを口にする。そんなゆったりした時間だった。

     しかし、ふとそこで二郎のスマホが唸った。
    ムーン、ムーン、とソファーの上で震え、クイズに喰らいつくことで必死の持ち主はその主張に全く気付かない。ので、三郎が「おい、鳴ってるぞ」とスマホを差し出した。
     そして画面を確認した二郎から発せられた一言が、冒頭の【あー、うざ】だった。

     リビングは一瞬、凍りついた。
    二郎は生来、明るく人当たりの良い性格であった。喧嘩をしてくることもあるが、決して弱い者いじめをするようなことはしないし、ましてや虐めだとか、陰で悪口を叩くようなタイプではない。気に食わないことや、納得できないことがあれば直接、本人に伝えて解決する。そんな男であった。それが、急なこの悪態。電話をかけてきた人間を鬱陶しく思っているようだ。心底うざったいと言わんばかりのローテンションで吐き捨てるように出した言葉。

     普段、二郎と口喧嘩ばかりしている三郎だったが、兄にこんな辟易したようなテンションで鬱陶しがられたことはない。一郎も、喧嘩したり機嫌を損ねさせたことはあれど、このテンションでうざがられることはない。一体、この電話の発信者は二郎に何をしたと言うのだろうか。

    「じ、ジロー?」
    「ん?」
    「ポテチ足りてっか?」
    「え、足りてるよ」
    「そっか……」

     兄が意を決して兄が声をかけると、まるでいつも通り。むしろ謎の気遣いに、頭上にハテナを浮かべている。三郎も顔には出さないがどこからハラハラと落ち着かない。
     二郎は兄と短い会話を交わすとスマホをパタリとテーブルへ伏せた。あ、折り返さないんだ。二人は心の中で同じことを思う。今度は三郎が口火を切った。

    「じ、じろう」
    「ん?なんだよ」
    「……電話、折り返さなくていいのかよ」

     言った!言ったよ!
    一郎は心の中で叫んだ。ごくり、二人して固唾を飲み二郎の返答を待つ。すると本人はケロッとした表情でこう言った。

    「いーのいーの。最近まじでしつけぇんだよ」

     ………メンヘラ彼女できた?
    あれ、ちょっと束縛激しめな彼女できた?驚いた表情で長男と三男が視線を合わせる。いや、二郎に限ってそんなワケ。だって凄く塩だもの。彼女に冷たいタイプ?大事にしろよ。いや、でもメンヘラなら甘やかさない方針なのかもしれない。

     最早、クイズ番組に集中しているのはこの場で二郎だけであった。ソシャゲをしていた一郎の画面は触っていなかったから暗くなっているし、論文を読んでいた三郎の手も止まっていた。当の二郎はそんな二人とは裏腹にテレビに釘付け。何でそんなに外してるのに夢中になれるのかは置いておく。

    「あ、もう十一時かぁ」

     気付けばクイズ番組にスタッフロールが流れ、番組の終わりを告げる。くーっと体を伸ばしてあくびをする二郎。ぐしゃぐしゃとポテチの袋を丸めはじめた。すると。

    ムーン、ムーン

     バッ、と二郎以外の二人が卓上で震えはじめた二郎のスマホに顔を向けた。遅れて気付いた二郎の眉間にクッと皺が寄る。自分のことではないのにどこか心臓がキュッとなるオーディエンス二人。こんな顔を弟から、兄から向けられたら辛すぎる。そう思った。

    「チッ、うっせぇな」

     ぱっ、とスマホを持ち上げ、いくつか操作をするとバイブレーションが止まった。

     そして二郎が溜息混じりに呟く。

    「ハー……マジでうざったいわ。海外からの詐欺電話」

     しん、静まり返るリビング。
    二郎がリモコンで深夜枠のバラエティ番組へ切り替えた。金曜日だからこの番組やってるじゃん、ご当地グルメ特集だって、と上機嫌。しかし他二人からの反応がない。不思議に思い、ふと振り返ると、何故かテーブルとソファーに顔を突っ伏している兄と弟がそこにいた。

    「え、二人とも急に寝るじゃん」
    「いや……海外……?」
    「え?」
    「さっきからかかってきてたの、迷惑電話かよ……」
    「あー、そうなんだよ。先週くらいから凄いかかってくるんだけど調べたら放っておけばそのうちかかってこなくかるから、とにかく出るなって」

     でもやっぱ急に何度も電話くるとうざったくてさー、あ、オオサカのお土産ランキングだって!

     そう言いながらコーラを飲む二郎。二人は顔を見合わせて取り越し苦労だったと苦笑いした。
     納得したところで、三郎が、そろそろ部屋戻ろうかな、と立ち上がる。二郎もコーラのおかわりを注ぎにキッチンへ。

     そしてひとりリビングで残された一郎。
    バラエティ番組で司会の芸人がしている小粋なトークを右から左耳へ通過させつつ、先程の電話が恋人に向けたものではないという事実に、何故か、ほうっと胸を撫で下ろしたのだった。

    2024.10.25

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