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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ36日目


    「え」


     放課後、友人何人かとスケボーをしていた二郎。休憩、とベンチで座って喋り込んでいると足元を何かが撫でた感覚がした。思わず声を漏らして足元を見下ろすと白と黒の毛をした猫が二郎の足に擦り寄っていた。

    「なんだお前、野良か?」
    「うわ、じろちゃん猫にもモテんのかよー」

     チッチッ、と舌を鳴らすと猫は顔を上げて短く鳴いた。あ、はちわれだ。猫は綺麗好きだと言うがそれにしても綺麗な毛並みである。首を撫でてやりながら顔の下を覗き込むと、やはり首輪。

    「あー、迷子猫だな」
    「なんかじろちゃん猫の扱い慣れてね?飼ってたっけ?」
    「いーや、猫保護すること多いかんな」
    「あー」

     そう(迷い猫)と分かれば逃げようとしていない今のうちだ。二郎は友人達の言う通り慣れた手つきで、ひょいと猫を抱き上げると腕の中におさめた。セーターに爪が引っかかって身を捩る。

    「わり、俺こつい連れて帰るわ」
    「おっ、飼うの?」
    「バーカ、飼い主探すんだよ」

     鞄を持って立ち上がると、滑っていた他のメンツから「ジロー帰んの?」と声をかけられる。迷い猫見つけたから帰るわ、と手を挙げて二郎は帰路に着いた。

     萬屋ヤマダでは度々、逃げ出したペットの捜索依頼がくる。しかし基本は飼い主から探して欲しいと依頼を受けるものだから、確保し次第そのまま引き渡しになるのだが今回の場合は飼い主の方を探さなければならない。とりあえず専用のネットワークページに登録がないか確認して、交番にも行って、それでも駄目ならSNS、聞き込み……。猫は喋らないから飼い主の情報を聞き出すこともできないし、これは骨が折れそうだ。

    「お前あんま痩せてねえし、そんな遠くから来た感じじゃなさそうだな」

     ナー、と返事をするように鳴く。警戒心が強く、捕まえようとすると暴れたりひっかいてきたりする猫も多く見てきたのでコイツは人懐っこいんだな、と二郎は自然に口角を緩めていた。
     可愛いよな、猫。うりうり、と人差し指で喉をくすぐってやるとゴロゴロ喉を鳴らした。



    「あにきー、さぶろー……いねぇ」

     猫を片手で抱っこして鍵を開けて家に入る。が、誰もいないらしい。とりあえず猫の足をシートで拭いて、リビングで床へ下ろしてやる。自身も手を洗って早速にパソコンを開いた。飼い猫探しのネットワークで見つかるのが一番いいのだけど。すると。

    「うおっ、ビビった……!」

     パソコンをいじっていると、身軽な動きで椅子を伝いテーブルに乗り上げてきた猫。不思議そうにパソコンを覗き込む。こ、これが作業妨害猫……!少々感動しながら二郎はスマホで写真を撮ると「行儀悪い」と床に下ろした。

    「ただいまー」

     玄関の方から声。あ、三郎だ。そう思った時には既に猫は、タッタッタッ、と軽い足取りでリビングを出て玄関へ向かっていった。……アイツ、うちに馴染みすぎだろ。呆れ笑いしながら引き続きパソコンをいじっていると、猫に気付いたらしい三郎の「うわっ、何だこのニャンコ」と驚いた声が聞こえてきた。

    「おいっ、二郎!なんだよコイツ」

     少し、いやだいぶ嬉しそうに興奮した様子の三郎が猫の脇を両手で持ち上げた状態でリビングに飛び込んできた。猫めっちゃ縦に伸びてる。

    「迷子」
    「そんな依頼入ってたか?」
    「いや、依頼じゃなくて、フツーに外で捕獲した」
    「はあ?飼い主探してるんだろうな?」
    「今やってんだよウッセーな」

     三郎は嫌がっていないのをいいことに猫を持ち上げたまま顔を覗き込み「なんだよお前、どっから来たの?」と嬉しそうにに話しかけた。……三郎って意外に猫とか好きだよな。しかしここで茶化すとまた五月蝿いので二郎は黙って手を動かした。

     その後、結局二人して飼い主をネット上で探したが当てはまりそうな捜索願が出ていない。これは交番にも行って、日にちを改めて聞き込みやらをしなくてはならないな。やれやれ……と肩を落とす二人を他所に当の猫はコタツの横で丸くなっている。

    「ただいまー」
    「あ、一兄だ」

     がたっ、と立ち上がり玄関に向かう三郎。
    外に目をやるともうすっかり日も暮れている。飼い主探しに集中していてカーテンも閉めていなかったらしい。二郎は立ち上がり、部屋中のカーテンを閉めて回った。すると猫も何故か体を起こして二郎の後をついてくる。

    「一兄、ほら、早く早く」
    「なんだよー?」

     楽しそうに三郎が兄の手を引っ張ってリビングに入ってきた。買い物袋を持った、少し鼻の頭を赤くした一郎が顔を覗かせて、二郎は最後のカーテンを閉めると振り返った。

    「兄貴おかえりー」
    「おう……って、え、猫?」

     二郎の足元にぴたりとくっついている猫を見て固まる一郎。すかさず「迷子みたいで、二郎が拾ってきたんです。でもペット捜索サイトにも登録がないし、SNSもザッと見ましたが見当たらなくて……」と三郎が説明をした。その間に猫は一郎に寄っていく。

    「はちわれ柄だな、お前」

     はは、と笑いながらしゃがんで、寄ってきた猫の喉を撫でる一郎。

    「可愛いな、首輪もしてるし、綺麗だしすぐ見つかるだろ」
    「ちょっと交番だけ行ってこようかなって」
    「ああ、それだけ頼むわ」
    「まかせてよ」

     とりあえずひとっ走り行ってくるわ。ちょっと上着借りていい?と兄の着ていたコートを追い剥ぎする二郎。横着だなと笑いながらも素直に脱いで貸してくれた兄のコートを羽織って玄関に向かおうとすると猫はニャーと声をあげて駆け寄って行った。

    「ん?お前の捜索願い出されてないか聞きに行くんだよ」
    「はは、随分と二郎は懐かれてるな」
    「この猫、すっげー人懐っこいんだよね」

     このまま玄関まで着いてこられたら外へ逃げてしまうかもしれない。そう思った二郎は、ひょいと猫を持ち上げて兄と弟の方を振り向き、言い聞かせるように猫に語りかけた。

    「いいか?あの一番ちっせぇのがサブローだ。生意気で憎たらしい中坊の三男坊」
    「おい誰が生意気なんだよ」

     猫に家族を紹介するらしい。猫は分かっているのかいないのか、ジーッと前を見つめている。二郎はそれをご清聴してくれているものと見なして、うむ、と頷くと続けた。

    「んで横の一番でっけぇのが兄貴のイチローな。かっけぇだろ、うちの兄ちゃん」
    「て、照れンな……」

     ポリポリと頬を爪の先でかく一郎。

    「俺はちょっと出かけるけど二人とも怖くねぇから大人しくここで待っとけ」

     真面目に猫と会話してる……と三郎が茶々を入れるが、さっきまでお前も話しかけてただろ、と二郎は内心で反論を入れた。そして兄へ猫の抱っこをパスする。うお、と言いつつも慣れた手つきで抱っこを代わる兄。

    「じゃあちょっと行ってくるわ」
    「おう、気をつけてな」
    「おー」

     ばたん、とドアが閉まると同時に猫が一郎の腕の中でニャーとどこか心細そうにひとつ鳴いた。一郎は人差し指で顎下をくすぐりながら優しく語りかける。

    「はは、お前も二郎が好きなんだな」

     大丈夫、すぐ戻ってくっからな。
    ゴロゴロ鳴く猫と一緒にリビングへ戻ったのだった。


    2024.11.28
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