助けてください、シャア大佐!「乗機が破壊された時が私の死ぬ時なのだ、大尉」
「機体は備品なので代えがありますが大佐に予備は御座いません。ご自身の予備を用意できてからどうぞ」
「船外活動の際は着ている」
「出撃の時も着用してください」
たまには艦内を見回るかとバーに掴まって水平移動していると、ソドンの通路で言い争う声。
そっと曲がり角の先を覗いてみれば、数km先からでも視認できそうな赤い軍服に白いヘルメットというやたらと目立つ格好の問題児……もとい上官に、最近その相棒のようなポジションに落ち着いた真面目な同僚が詰め寄っていた。
「今更私がノーマルスーツなど真っ先に着てみろ、兵が恐慌状態に陥るぞ」
「やってみなければわかりません。それに安全対策は上官がきちんと率先して行ってこそ部下もついてくるというものです」
木星帰りの発する安全対策についての言葉にはとてもとても重みがある。それを上官が受け入れるかどうかはともかくとして。
なるほど、彼は頑なに出撃時のノーマルスーツ着用を拒む大佐を必死に説得しようとしているのだ。ソドン勤務の兵士たちが着任初日で諦めた難行を。
一度言い出したら聞きやしない、そして飛び出していったら帰っては来ない赤い彗星相手になかなか粘るなと感心して眺めていれば、灰緑の頭が突如ぐるりと振り向いた。
できるだけ音は立てないようにしていたはずなのに。げに恐ろしきはニュータイプ。
「ドレン大尉もそう思われますな?」
有無を言わさぬ圧を感じる。
「いや、艦長は乗組員すべてが着用を終えてから着用をすべきか、と……」
あまりに咄嗟だったのでつい正直に答えてしまい、鋭い右目の眼光が此方を射抜く。
ニュータイプでなくてもわかる、この目は大佐に悪い影響を与えたのはお前かと言っている。誤解だと必死に視線で訴えるも、灰色の幽霊の背後で声を出さずに大笑いしている赤い軍服を見つけてしまう。元はと言えば大佐のせいであるのに。この野郎。
「大尉殿とは艦内の安全対策についてじっくりと話し合う必要があるようですな……」
ゆらりと近づいてくる長身の後ろにメガ粒子砲を四門構えたキケロガの幻影が見える。
MS乗りの部下たちが鉄火場での窮地にて通信で口にするのを聞くことはあるものの、艦長の任を仰せつかっている自分はまあ機会に恵まれんだろうなと思った言葉が思わず絞り出すようにして口から飛び出してきた。