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    hirata_cya

    @hirata_cya

    日本酒がだいすき 文書き NOを空振った愛の話が好き

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    hirata_cya

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    ・軍事知識は無い
    ・ソドンの構造は全部嘘 ウソドン
    ・メインブリッジ→一番上
    ・サブブリッジ→真ん中あたり
    ・格納庫→一番下
    ・大佐が遊んでるだけということでお楽しみください
    冒頭部分→https://poipiku.com/7887705/11517886.html
    エピローグ(2ページ目から)
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24382867

    #シャアシャリ

    ソドン鬼ごっこ(本編)「78番ハッチを目視確認!開放状態でありますが、侵入者の姿はなし!」
    「探せ! 第二艦橋サブブリッジの周囲を虱潰しだ! 銃座の周りもくまなく調べろ、あれだけ目立つ人だ、そう長く逃げ隠れはできん!」
     第一艦橋メインブリッジへ続くエレベータの扉は冷たく固く閉ざされている。
    「侵入者の捜索は難航しているようであります」
     エレベータホール前の警備を任命された兵士のひとりが、受話器に耳を付け、通信機から飛び込みつづける情報を端的に告げた。
    「……不気味だな」
     この場の指揮を任されている軍曹は、眉をひそめて項を掻きむしる。
     第一艦橋へ続く最短ルートはこのフロアにあるエレベータだ。
     しかし、エレベータは一度乗り込んでしまえば到着するまで逃げ場がなく、搭乗階と到着階が各フロアに表示されるため待ち伏せに遭いやすい。安全を期すならエレベータを使わず連絡通路で遠回りする選択肢を取るだろう。
     しかし今回は相手が相手。どのような手で来るかはあの白いヘルメットの中の頭を割って覗けない以上分からず、可能性がある、というのならば、油断なく警戒を続ける必要があった。
     もう一基、ホールの反対側に位置する下の階へ向かうエレベータを視線で見張っていた兵士は、エレベータから視線を外して軍曹のなかば独り言に答える。
    「逃げ隠れしながらこそこそ時間をかけて着実に進むような性格でもないですしね、シャア大佐は」
     正面から吶喊し勢い任せに敵をぶん殴り、血路を開く暴挙があまりにも似合うひとである。
     無論大佐も軍人であるので、作戦上必要とあらば隠密行動を取ることも当然ある。
     しかし選択肢としてはある、というだけで、本人はあの赤い識別色を頑なに脱がないため、隠密行動を取るにしても正直全く忍べていない。そのくせ勘だと言っては場当たり的にとんでもない動きをして大当たりを引き当ててくる。
     そういう困った人だ、という共通認識がソドンに務める兵士たちの間にはあった。
     今回は大佐自身が指揮権と責任を持つ艦で行われる訓練で、船体を傷付ける爆薬などは使用されないだろうと高い確率で言えることだけが救いだ。
     そうでなければ、まず格納庫に突っ込んで爆発物を用い兵を全滅させモビルスーツを強奪し、第一艦橋を破壊するくらいのことは躊躇いなくやりかねないのだ、あの飛んで跳ねてかっ飛ぶたいそう元気な非常識は。
     冗談でもなんでもなく、この艦を連邦から鹵獲した際はビームサーベルで中の連邦軍兵士ごと第一艦橋をまるっと焼いていることであるし。
    「そういえばパイロットが艦のどこにいるか分かるようなシステムがありましたよね。あれは今回使用しないのでありますか?」
    「予め登録されて身分証を持った人間しか表示されんのだそうだ。どうも、ドッグタグに反応する仕組みらしい。無線は戦闘時ではミノフスキー粒子のせいでまず役に立たんしなあ。今回の訓練では港に停泊中の設定のおかげで艦内の連絡にのみ使えているが」
    「なるほど、大佐がこんな面白い訓練で身分証を馬鹿正直に着けてくるはずもなし、ですか……」
     連邦軍の兵士がジオンのタグなど持っているわけがあるまい、甘いな、と鷹揚に語る大佐の声の幻聴が聞こえる。ような気がする。
    「下部エレベータ、上昇しております」
    「格納庫上のフロアからです」
     格納庫からエレベータホールを繋ぐ下部エレベータが動作したと、点灯する壁の表示が知らせてくる。三人に束の間緊張が走るものの、移動元は格納庫上方、つまり第二艦橋より下のフロアであるという階数の表示を認めて、彼らは肩の力を抜いた。
    「第二艦橋へ応援に呼ばれてエレベータに乗る兵もそろそろ打ち止めでありましょうか」
    「シャリア・ブル大尉が先ほど降りていきましたよ。ちらりと見かけました」
    「まったく、こうエレベータの上昇下降の回数が多くては心臓に悪いな」
    「78番ハッチからの進入であれば、このエレベータには乗らないでありましょう、袋のネズミですから」
    「普通なら第二艦橋へ向かうだろうが、なあ……」
     あの大佐だ、絶対に何かやらかす。
     ニュータイプでなくても今この瞬間、三人の心は通じ合っていた。
    「第一艦橋より通信入りました!」
    「エレベータホール、聞こえるか! 連絡口、および左舷側の格納庫が陥落したとの報せが入った! 警備の兵は全員死亡判定! ザク数機、ドム二機が破壊!」
     通信機前の兵士は、はい? という声が出そうになるのを気合で飲み込んだ。いったいぜんたいなにがどうなったらそうなる。
     78番ハッチから侵入したのならば、そのまま第二艦橋へ向かい、コントロールを奪い勝利するという道筋が最短のはずだった。
     敵に占領されにくいよう、敢えて道筋をまわりくどくしたのか、それとも急拵えの艦ゆえに構造が無意味に複雑化したのか。
     真相は連邦軍の開発者にしか分かりはしないが、ソドンの艦内は実のところ知らぬものにはちょっとした迷路のようになっている。たまに新兵や派遣されてきた技官が本気で迷って途方に暮れる程度には。
     78番ハッチのあるフロアから第一艦橋へ向かうには、最短距離であれば、艦体の下部と上部にそれぞれ設置されたエレベータを二基乗り継ぐ必要がある。乗り継ぎの中間地点となるのがこのエレベータホールだ。
     下部のエレベータを78番ハッチのあるフロアから乗り込んで上昇させれば、階数表示で直ぐにそれと分かる。
     エレベータホールを警備する自分たちが待ち構え、エレベータの扉が開いた瞬間に侵入者へ銃口を突きつけて終わりのはずだ。それを見越してここには八人兵士が配備されていた。ハッチ突破の報を受け、応援に取られて五人減った結果今は三人だが。
     とかく、確実に到着地点で待ち伏せからの集中攻撃に遭うエレベータに乗るのは愚策である。ゆえに78番ハッチからであれば、徒歩のみでたどり着ける第二艦橋へ向かうものだと、そう読んでいた。のだが。
    「……これは大佐にやられたかもしれんな」
    「どういうことでありますか? 軍曹殿」
    「おそらく、大佐はヒトマルマルマル時、78番ハッチから入ったのではなく、そこから外へ出たんだろう」
    「侵入ではなく、脱出したと」
    「訓練の趣旨は「連邦軍の兵士が侵入した」というものだ。すでに侵入した状態から開始しても何ら問題はない」
     それはズルというものではないですか、と部下ふたりからなかば悲鳴のような抗議が上がる。
    「ハッチから出たら、艦体の外側をうまく伝って下へ降り、手薄になった連絡口から警備に残った兵士数名を倒して再度侵入する。格納庫から第一艦橋を支える塔へと警備をやり過ごすなり正面から倒すなりしながら通路伝いに上がり、塔を貫いている下部のエレベータに乗って第二艦橋を通り越し、第一艦橋へ直通となる上部エレベータがあるフロアまで登る」
     うまく伝うと軍曹は簡素に述べたものの、この想定では初手で20階建ての建物に相当するであろう高さを生身で降りることとなる。
     決行するには相当恐ろしい所業だろう。月の港に働く重力が地球の六分の一だとしても、高さに対する恐怖心を人はそうそう失えない。
     だが。赤い彗星ならば。
     いつも刷いている口元の笑みをそのままに、恐れを知らない鷹のように。甲板から飛び降りていくに違いなかった。
     その場にいる三人の脳裏に、船体を跳ねて下る兎にも似た赤い影が過る。
    「78番ハッチ突破の情報が回った時点で、警戒は第二艦橋のあるフロアに集中する。兵も第二艦橋へ集められる。たとえずっと下のフロアから兵士の乗ったエレベータが上昇してきても、第二艦橋に招集をかけられて向かっているのだろうとしか思われない。第一艦橋のすぐ下まで到達してからエレベータを止めてしまえば、第二艦橋に集結した兵士たちは容易く上へ戻ってこられない。エレベータを使わずに上がるには居住区を抜けて重いハッチを幾つも開き、非常用の階段と通路を通り抜ける必要があるからな。一度下に降りる、か。遠回りではあるが確実に兵力を分散できる策だ。ついでにモビルスーツのある格納庫も潰せる」
     もののついでの行きがかりでジオンの技術力の粋が詰まった貴重な機体を潰さないでほしい。補給も無限ではないのである。
     本音を言うなら模擬弾の発射でペイントまみれになったであろうモビルスーツ機体の清掃が死ぬほど面倒くさい。
    「軍曹殿、質問であります。侵入者が上がってくるであろう第一艦橋の直ぐ下とは……」
    「……このエレベータホールだ」
     チン、と軽い音を立て、上昇を続けていたエレベータが停止した。
     三人はまだ開かない扉へと黙って銃口を向ける。今更何か考えて行動している余裕はない。
     金属の扉は此方の気も知らずいつも通り緩やかに開き、そうして。
    「いない……?」
    「陽動か?」
     空のままのエレベータに全員が視線を向けたところで、エレベータの上部から何かが落ちてきた。
     ガシャン、と。耳障りな金属音。
    「目を閉じて耳を塞げ!」
     鼓膜を震わせ脳を劈く轟音。
     そしてそれよりもなお早く届き網膜を焼く、すべてを白く染める、圧倒的な光。
     閃光手榴弾だ、と軍曹が叫んだ言葉は爆発音に上から塗り潰される。
     光が収束する直前に、エレベーターの箱上部にある点検用のハッチから、人影がばさりと降りてきて銃を撃つ。
     逆さにぶら下がりつつの正確無比な二連射。弾は通信機を担当していた兵士と、もう一人の顔面と左胸に見事ぶち当たった。
     影が体を丸めてくるりと飛び降りる。
     同時にペイントの赤が派手に飛び散る。
     辛うじて目を閉じることに唯一成功していた軍曹が、応戦しようと引き金に指をかけて引く。
     土色のヘルメットの上部をペイント弾が通過して、青い塗料がエレベータの奥の壁を染める。
     四つ足の獣に似た低い体勢で着地していた影は強く靴底で床を蹴った。
     レスリングのタックルの要領で突っ込まれ、軍曹の視界に天井が映る。
     仰向けに倒されたのだ、と認識できた頃には背が床と壁に叩きつけられて撓る。息を詰める。
     奥の壁へもたれ掛かるようにして倒れ込む身体の上へ馬乗りになり、侵入者は獲物の胸へ腰から抜いたナイフを突き立てた。
     無論、ゴム製で当てると刃が引っ込む訓練用の玩具だ。それでも勢いで強く押し当てられればそれなりに痛い。
    「案外早くに気が付いたものだな。さすがソドンの兵士たち、優秀だ。ドレンが監督しているだけのことはある」
     ドレン大尉を褒めているところから、自身が本来上層部から任命された艦の指揮を宇宙の彼方へうっちゃって、モビルスーツパイロットとしてのみ生きている自覚は十二分にあるらしい。
     こんな状況でなかったならば、上司からの褒め言葉を少しだけでも喜べただろうが。肋骨を器用に避けて心臓を一突きする位置にナイフを突き立てられた後では何も言えることがない。
     せいぜい恨み言を絞り出す程度だ。
    「閃光手榴弾は、ありなんですか……」
    「ドレンは駄目だとは言わなかったぞ、軍曹。ひとつだけですからな! とは念押しされたが」
     判定で言えばもう死人の問いに応えてくれるのは上官の優しさだろう。冥土の土産かもしれない。
    「エレベータホールフロア、58番刺殺、他二名射殺。三名全員が死亡判定。これより移動、発言、通信機の使用、すべての能動的な動作は禁止となります」
     マリガンがこちらはそろそろと慎重にゆっくりエレベータの点検口から降りてきて、判定結果を言い渡した。
     今の瞬間からエレベータホールを任されていた兵士たちは死人だ。訓練に手はおろか口すらも出せなくなる。
     軍曹は立ち上がれないまま、呆然と自らを刺殺した相手を仰ぎ見る。いつもの赤い衣装でなく、下士官の着る軍服に土色のヘルメット、そして目元を覆うレンズ部分が大きく色の濃いサングラス。
     地味な装いのシャア大佐は、時間が惜しいとばかりにとっくに立ち上がり、壁にあるエレベータのパネルを外して何やら回線を弄っている。
     やがて光っていた階数表示がふつりと消えた。エレベータを止めたのだ。
    「これでよし。おっと、一人くらいは残す予定だったがつい全滅させてしまった。……別のポイントを落とす必要がある、か」
    「大佐、もう少しまともな道を歩きませんか? 正直な話、私はついていくのがやっとなのですが……」
    「それが仕事だろう? マリガン。せいぜいフラナガン博士に持ち帰るための良い土産を綴れ」
     どうせ私の動きを追うのならばブロック専属の記録係だけでは足りはしないのだから、と言い放って、シャア・アズナブルは玩具のナイフをポイと床へ捨てた。


    ***


     揃いの長靴が焦燥と苛立ちの滲む足音を立てる。カーキ色の軍服を纏う幾つもの屈強な背中が、扉から出て狭い通路を駆けていく。
     最後の一人が扉を抜けて、第二艦橋の扉がシュン、と音を立てて閉まる。
    「今度はとんぼ返りで第一艦橋に大集合か……ご苦労なこった。しかしシャア大佐がここではなく第一艦橋狙いだったとは、お釈迦様でもわかるめえ」
    「あいつら、上に戻るには相当時間がかかるぞ。下部エレベータを大佐が止めちまったからな」
    「ここに来なくて幸運ではあったな、あの人と白兵戦でやり合いたくねえや。真っ向勝負にしろ、搦め手にしろ、おっかねえ」
    「くわばらくわばら」
     第二艦橋に残った四名の兵士がめいめい好きに感想を述べる。空気がどこかのんびりとしているのは、攻め手側はどうやってもここへ戻っては来ないからだ。
     降りてくるためのエレベータは止まっている。そして通路伝いに降りようとすれば、第二艦橋から第一艦橋へ向かっている兵士たちと鉢合わせ。
     いかに大佐でも訓練された兵士を数十人相手取って無傷で勝てるほど化け物ではあるまい。たぶんきっとおそらく。
    「何せエレベータが停止してからも偵察部隊から引っ切り無しに負傷とポイント壊滅の報せが入るからなあ……」
    「ここが連邦軍からの鹵獲艦で、整備用の裏通路だの点検口だのを完璧に把握していないところを逆手に取ってるなあれは」
    「報告してきた生き残りの新兵は泣いていたぞ、まあ泣きたくもなるだろう、何も出来ずに目の前で他の兵士があっという間に真っ赤になるんだから」
    「ペイント弾が赤いんだったか」
    「今回はシャア大佐が赤、俺たちが青らしい」
    「あの識別色への拘りもここまでくると天晴れってもんだ」
    「ドレン大尉かマリガン中尉あたりが気を利かせたのかもしれないぜ、それか配ってたシャリア・ブル大尉か」
    「俺たちも共用の備品に赤いの見つけるとつい大佐どうぞって譲っちまうもんな……」
    「それはお前だけじゃあないか?」
     艦橋という場所柄、壁際に並ぶ機器の前にぽつりぽつりと離れて位置する椅子に腰掛けて和気藹々と話を進めていると、シュン、と入り口の扉が開く。
    「何だぁ、忘れ物かぁ?」
     兵士の一人がからかうように入口へ顔を向けて、ぱちりと瞬きをする。
    「たい……」
     三度、引き金を引く。
     その瞬きの間に距離が詰まる。
     三人はペイント弾でそれぞれ腹部、胸部、頸部を撃たれ、残る入り口脇に居た一人は、銃の台座でヘルメットをがつんと殴られて倒れ伏す。
    「二名死亡、一名重傷、一名行動不能。第二艦橋、陥落」
     気配を殺して端でボードを抱えていた記録係が機械的に判定を下す。
    「……さて」
     入り口扉のロックをかけ終え、侵入者の靴が床に飛び散った赤いペイントを踏む。抱えた端末を滑らかな動作でメインコンピュータへ繋ぎ、指がキーボードを叩く。
    「ここまでは時間通り」
     モニタに照らされて透き通る虹彩へ、赤い光が灯る。


    ***


    「まだ大佐は見つからんのか!」
    「はっ! 通った跡は見つかるのですが、ご本人の姿はありません」
    「そしてその通った跡というのは屍の山というわけだ。まったく一筋縄ではいかん御仁だよ」
     文字通り最後の砦、第一艦橋。
     指揮官たるドレン大尉の目はモニターに浮かぶソドンの館内図に増えてゆく「壊滅」「陥落」の文字をつぶさに追ってゆく。
    「近付いてはきているが、真っ当に通路を通ってはおらんな」
    「整備用の通路、点検口を利用して移動なされているものと思われますが、我々もそれらすべてを把握しておらず」
    「鹵獲当初から「探検だ」とかなんとか言っては何処かへ消えておられたからな、大佐は……」
     後で大佐が把握している裏の通路を全部吐かせよう、とドレンは力強く決意する。面倒くさがりはするだろうが、最悪、第一艦橋の艦長席を赤く塗って拘束ベルトを取り付けますぞと脅せば嫌そうな気配を出しながらも協力はしてくれる筈だった。
     無論、あの赤い悪魔が味方に戻った後の話だが。訓練の性質上、今の大佐は純然たる敵なので。
    「第二艦橋に回した兵が戻って来るまで十五分というところか、エレベータが使えんとずいぶん時間がかかるな、改善点だ」
    「大佐の襲撃を警戒して慎重に進んでいる影響もあります。先ほどこちらへ戻る途中の兵士が二名、後ろから襲われたようですので……」
    「まるで遊んでおられるようだ、我らが大佐キャプテンは」
     真面目にやられると秒で艦ひとつを落とされる危険性があり、かといって遊ばれるのも面白くはない。この縦横無尽の動きっぷりでは大佐に貼り付いているであろうマリガンは涙目だろうなと現実逃避を試みる。
    「まるでとは?」
    「大佐は遊びがお好きだが、攻め込む時はいつも大真面目だ。この動きもデタラメに見えておそらく何かの意図がある」
     部下がモニターに映し出された艦内の図をじっと眺めて、私には大佐のお考えはさっぱり読めません、と白旗を揚げた。
    「分かるのは同じニュータイプのシャリア・ブル大尉くらいなのでは?」
    「馬っ鹿野郎、考える前から諦めるな」
     まず第二艦橋近くのフロアにある78番ハッチより船外に脱出。
     格納庫近くの連絡口からふたたび侵入。ポイントに配置された兵士を適宜全滅させながら進み、格納庫で許可を出すのをやめれば良かったペイントが炸裂する爆弾を用いてザクを一基破壊判定に持ち込み、コックピットに侵入して起動デバイスを抜き去りドムとザクを数機使用不可能に。これも破壊判定。
     格納庫の梯子から上のフロアへ上がり、第二艦橋へ向かう兵士たちの波が途切れたところで一気にエレベータホールまで上昇。
     エレベータホールの警備を任せていた兵士を全滅させ、下部エレベータを停止。
     そこからは第一艦橋へ通じる上部エレベータには乗らずに整備用の通路などを駆使し、時折メインの通路に躍り出て兵士を気まぐれに倒しながら回りくどく第一艦橋へ迫る。
    「……妙だな」
    「どのあたりがでありますか? 艦長」
    「艦長代理だ。ほら、こことここを見ろ。大佐はエレベータホールまではきっちりポイントごとの兵士を全滅させているが、それ以降は数名撃ち漏らしを出しているだろう」
     さきほど、涙でぐすぐずになった声で自分以外全滅しました! と覚束ない報告をしてきた新米兵士の声を思い出し、なるほど、と呟く。
    「大佐も流石に追い詰められて余裕を失っているのでは?」
    「そういう時に遊ぶことはない御方だよ。窮地に陥るほど冷徹に急所を狙ってくる。厄介なんだ」
    「ということは」
    「明らかに時間を掛け、しかも此方へ情報が確実に届くようにして動いている。「私は此処だ」と。陽動かもしれんぞ」
    「そういう怪談がありましたな。何処からか電話がかかってきて、出ると少女の声で「今、駅に居るの」などと居場所を伝えてくる。そしてその居場所が徐々に電話に出ている人間の側に近付いてくるという……確か決め台詞は」
    「だからこれは冗談では……」
     ない、とドレンが言い切ろうとしたところで、ドカン、と。天井がぶち抜かれた。
    「『今貴様の後ろにいるぞ』」
     ガランガラン、とハッチの蓋が転がる。
     体重を感じさせない動きで、細身の体躯がドレンの後ろに着地した。
     滑らかに抜き放たれた銃口が、土色のヘルメットへ当てられた。もしも中に入っているのが鉛の玉だったのならば、引き金を引けばヘルメットを貫通して頭蓋を貫くだろう。
    「待たせたなドレン。そして珍しい怪談を知っているな」
    「……それ、大佐が深夜の見張り番の時に話していた怪談でしょうが。あのあとひとりで便所へ行けなくなった兵が続出して連れションが流行ったんですからな、よりによってこの男だらけのむさい艦で」
    「そうだったか?」
     銃を突きつけそして突き付けられながら、内容だけは極めて呑気な会話をする上司と部下の空気にうっかり呑まれて兵士たちは一瞬硬直する。
     しかし、艦長たるドレンの視線を受け、彼らは慌てて一斉に侵入者へと銃口を向けた。
     此処が大佐の終着点。そして同時に行き止まりだ。
     第一艦橋にそれより先は無い。
     その状況下にありながら、シャアは心の底から面白そうに口元を緩める。
    「ほう。艦長に当たる恐れがあっても、同士討ちの可能性があろうとも、侵入者わたしを倒すことを優先か。正しい判断だ」
    「余裕ですな、この状況では私は殺せても艦は占領できませんぞ、大佐の負けです」
    「いや? ……負けないさ。さっきの貴様の推測は当たっているからな」
    「というと?」
     ヴン。と。
     低い起動音。
     それまで艦内の様子を映していた幾つかのモニターが緑一色に切り替わっていく。
     席についてモニターを監視していた、普段は航行時の操作を担当している兵士たちの顔色が変わる。
    「あいにく私はしがない陽動だ。詰みの一手は彼がかける」
     メインモニター付近のスピーカーから、柔らかな声が流れた。
    「こちらは第二艦橋。ただいま、強襲揚陸艦ソドンのコントロールを奪取しました。……我々の勝利です、大佐」
    「うん、時間通りだな。よくやった」
     大佐がモニターにちらりと目を遣り尊大に頷く。
    「大尉」
     左目を隠す、灰がかった緑釉の髪。いつも通りの静かな様子を崩さず、第二艦橋に佇む男。
     シャリア・ブル大尉。
     灰色の幽霊と渾名される男は、たった二人で軍艦を占拠するという無茶をたったいま成し遂げても、高揚などの感情の揺らぎを全くと言っていいほどに見せない。
     ただ、殊更注意深くその顔を観察したものだけが気がつくだろう。普段は光の差さぬその瞳が、何処かきらきらと輝いているようにも見えるのだ。
     真っ直ぐと、モニターの向こうにいるただ一人だけを見据えて。
    「よし」
     ぐ、と。手袋に覆われた指が、銃口をぶれさせることなく引き金を引く。
     破裂音とともに土色のヘルメットが赤い塗料に塗れ、ドレンは頭への衝撃に思わずバランスを崩してたたらを踏んだ。
     しかし彼も場数を踏んだ軍人である。直ぐにシャアへと向き直って鍛え上げられた腹筋を使って叫んだ。
    「大佐ぁ! 今撃つ必要ありましたか!? 勝負はついているんですぞ、無意味でしょうが!」
    「死人が喋るなドレン。……詰みの一手をかけるのは大尉だ。しかし私が王を取ってはいけないという法は無い。まだマリガンが勝敗を判定していない」
     そこでシャアの落ちてきた天井の穴より、新兵がやらされるという地獄のシャトルランを一日こなしてきた時のような、この世の終わりに似た顔をしたマリガンがよろよろと顔を出した。
    「シャリア・ブル大尉によるソドンのコントロール奪取を確認しました。シャア大佐の銃撃でドレン大尉も死亡。はい、ただいまをもってソドンは陥落です。お疲れ様でした」
    「というわけだ。結果は私たちの勝利。昼休憩を取った後、たかだか二人の兵に占拠されてしまった体たらくの反省会を行う。コントロール奪取のついでだ、ヒトサンマルマルに第二艦橋に集合しろと放送をかけてくれ、シャリア・ブル大尉」
    「はっ」
    「その後は私と大尉以外全員で艦内の掃除だな」
     珍しく艦の責任者として指示を出すシャアの姿を物珍しそうに眺めていた兵士たちはふと気がつく。
    「大尉はマリガン中尉と同じく観測側ではなかったのですか?」
    「ドレンが貴様ら側、マリガンは中立で観測と記録役、シャリア・ブル大尉は私の味方。バランスは取れていると思うが」
     バランスと言う言葉を履き違えていやしないかこの上官は。
     ニュータイプ二人で艦隊に殴り込みをかけて爆発させまくっていた二人組だ。鬼に金棒、シャアにシャリア・ブル。ただでさえ薄い勝ち目が蓋を開けてみればほぼありはしなかった事実に、兵士たちは声を揃えて叫ぶ。
    「狡い!!」
     正当な抗議を受け、ヘルメットをぽんと放り投げた大佐は、いつも何処か余裕を崩さない彼としてはとても珍しく。
     少年のように声を上げて、とても楽しげに笑った。

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    hirata_cya

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    ・ソドンの構造は全部嘘 ウソドン
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    ・大佐が遊んでるだけということでお楽しみください
    冒頭部分→https://poipiku.com/7887705/11517886.html
    エピローグ(2ページ目から)
    →https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24382867
    ソドン鬼ごっこ(本編)「78番ハッチを目視確認!開放状態でありますが、侵入者の姿はなし!」
    「探せ! 第二艦橋サブブリッジの周囲を虱潰しだ! 銃座の周りもくまなく調べろ、あれだけ目立つ人だ、そう長く逃げ隠れはできん!」
     第一艦橋メインブリッジへ続くエレベータの扉は冷たく固く閉ざされている。
    「侵入者の捜索は難航しているようであります」
     エレベータホール前の警備を任命された兵士のひとりが、受話器に耳を付け、通信機から飛び込みつづける情報を端的に告げた。
    「……不気味だな」
     この場の指揮を任されている軍曹は、眉をひそめて項を掻きむしる。
     第一艦橋へ続く最短ルートはこのフロアにあるエレベータだ。
     しかし、エレベータは一度乗り込んでしまえば到着するまで逃げ場がなく、搭乗階と到着階が各フロアに表示されるため待ち伏せに遭いやすい。安全を期すならエレベータを使わず連絡通路で遠回りする選択肢を取るだろう。
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