一護が王の座す拠点に行くのを見送り、俺は薬堂からイライラした気持ちのまま歩き浦原商店の扉を蹴破った。
「ああッ!白サンまた蹴破って入店なんてガラの悪い事して!黒崎サンにチクっちゃいますよ!」
「うるせえ。テメェが一護に気持ち悪ぃ伝言託すからだろ」
中にいた商品の確認をしていたと思われる枯れ草色の金髪がショックですと言わんばかりの声を出して言うが、コイツが悪いと俺は蹴破った扉を踏みつけながら店の中に入って客用の椅子にどかっと座る。
朝食を作ってる最中に仕事で必要だからと置いてる電話が鳴った。朝食を心待ちして俺の隣に立っていた一護に出てもらった俺は料理が完成して卓に並べてるとパオの背中側を引っ張られる感覚に振り向くと、怒りを滲ませたジト目で「『ガッポリお金を稼げるコト、アタシがゆっくりじっくり教えてあげますって白サンに伝えてもらますか?』って浦原さんに言われたんだけど」と一護に低い声で言われ朝から一護に詰問され既に俺は疲れていた。揶揄われてるだけだと言っても一護は納得しねえし、一護が出る前に昼の弁当を渡した時もムスッとしたままだったし。あー、コイツ殴りてえ。
「いやぁ、黒崎サンの声聞くとついつい悪戯心が鼻が痛い!!」
気付いたら拳で浦原の顔面を殴っていた。
勝手ニ動クナンテ人体ッテ不思議ダナァ。
「その顔面が見るも無惨な形になる前に電話の内容を説明しろ。事と次第によってはテメェの脳みそ欲しがってる奴らに売り飛ばしてやるからな」
「怖いッスねえ。じゃあ言伝通りゆっくりじっくり説明しまショ」
「この地区で少し前から問題が起こってるみたいなんスよ。調査に行った方々も音信不通で、こっちも困ってるんスよねェ」
奥から卓が引っ張り出され上に置かれた九龍城の精密な地図を指先でトントンと叩く浦原はチラリと俺を見て笑みを浮かべるように目を細める。説明する時に開かれた扇子に隠され上半分しか見えてねえから本当に笑みを浮かべてるのかさえ分からねえ。目は口ほどに物を言うがコイツほど適応されねえ奴もいねえな。
「こっち見んな鬱陶しい。ゆっくりじっくり説明してくれんだろ?困ってるんスよねェで動くほど俺は一護みてえに甘くねえんだよ」
アイツならすぐさま「俺に出来ることはねえか?」って聞くんだろうが俺は甘くない。俺達が生きる世界は優しくない。優しくないからこそ見極めは必要だ。
「ソッスネ、キミは昔から全然甘くない。じゃあ説明しますね。この地区は少し前、半年程前から異変が起き始めたんです」
俺は黙って卓に肘を置き頬杖を付き地図を眺めたまま続きを促す。
「ある者は若返り、ある者は老ける。その対象に規則性は無いと報告は受けましたが、そんな筈はないんス。何事も物事には規則性がある。それが人の手で起こされたなら特に」
「テメェはその異変は人がやってると?」
「曰く付きなモノが九龍城に流れてきたという情報はありました。ソレがこの地区に流れたと情報を掴んだ時にはもう事が起こっていた。そしてその曰く付きは勝手に目覚める事はないんです」
たまにこの九龍城に流れてくる『曰く付き』。大体問題が起こる前に目の前のコイツに回収され封印されている。この前の鏡も『曰く付き』で、鏡は割った後コイツに渡した。
「白サン、聞いてます?」
「聞いてねえ」
「素直でよろしいって言えばいいんスか…?どこまで聞きました?」
「勝手に目覚める筈がねえ」
「意外と近くて良かったッス。人が使用してる可能性が高いというより十中八九人が使ってるでしょう。ですから、ソレを壊してきて欲しいんです。ソレは使用されてるなら回収は無理なんで」
長々と説明された内容に眺めていた地図から視線と共に顔を上げ男の顔を見る。椅子も座らず俺を見下ろすソイツにこれ見よがしに深い息を吐く。
「それで?」
「依頼ッス。報酬もたんまり出ますよ」
「依頼ねぇ…俺は非力な薬屋サンって言ってんのになァ」
「白サンが非力なんて御冗談を〜」
扇子を俺に向けて上下に振って笑う姿にイラッとする。
「じゃあ、テメェがここまで俺にゆっくりじっくり説明する時間を取った理由も教えろ。依頼内容は全部伝えるべきだろ?依頼主サンよォ」
その理由をコイツが一護に伝言を頼んだ時からなんとなく察している。今まで一度もコイツは一護に伝言を伝えた事がないからだ。
「この依頼は黒崎サンと一緒に行ってほしいんですよ。この問題はキミ達に適任だと思ってるので」
瞳の表情すら隠すように視線を下ろす浦原に俺は椅子から立ち上がって店の商品を物色する。
一護に飴でも持って帰るか。この店の商品だからちゃんと普通の飴を選ばねえとな。
「適任じゃねえとテメェは依頼して来ねえだろ。それで、まだ説明してねえ事あるよな?『曰く付き』の物と力はなんだ」
「砂時計。その砂時計は砂が下に落ちるのではなく、砂が上がっていく。黒い砂が上がってる時は陰の者が若返り陽の者が老ける。白い砂が上がってる時はその逆です」
「適任と思った理由」
「日は陽。月は陰。陰陽師性の黒崎サンと妖憑きのキミ達は片方ずつ持っているので」
飴を手いっぱいに掴んで近くにあった紙袋に入れ、他に無いかと視線を動かせばチョコがあってそれも手いっぱいに掴み紙袋に入れて閉じた。
「陰陽なら男女でも適応されんだろ。寧ろ男女の方が分かりやすい。俺らじゃなきゃいけねえ理由としては弱ぇな」
九龍城の王を異変が起こってる場所に連れて行くには弱い。そもそも王を現場に連れて行こうと思うなって話だけどな。
卓に紙袋を置いてもう一個紙袋を手に取り、何かないか探す。
「はい。キミ達はさっき言った事でも適応されますがキミ達はキズナがあるので。勝率は高い方がいい」
「ハッ!テメェが絆なんざ見えねえもんを勝率に入れてくるか」
コイツが言う絆は俺が一護を見捨てない、死なせない為に動くっていう事だろう。そして一護は俺を裏切らない。ああ、すげぇ癪だ。受けたくねえな。そもそも俺に関係ね……クソ、久しぶりでコイツの手管を忘れてた。
「おい、一護は今その地区にいるか…?」
「相変わらず勘がいい。はい、黒崎サンはその地区に本日行ってますよ」
「クソ野郎がッ」
「だから言ったじゃないですか。この依頼は黒崎サンと一緒に行(おこな)ってほしいって」
浦原の言葉を聞く前に俺は最初ぶち壊した片方の扉とは逆の方もぶち壊してから地区に走った。
「お気を付けて」
「いちご!!」
「え、白。え!?ちっさ!!」
「うるせえ。で、おまえきょうこのちくにくるってきいてねえぞ」