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    daihuku_huku45

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    daihuku_huku45

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    はろういん薬師白さん

    『とりっくおあとりーと!』
    定位置であるカウンター奥の椅子に足を組んで座って煙管を吹かしていると今日何度も聞いた言葉が店の外から聞こえた。どこを見るわけじゃない虚空に向けていた視線を扉に嵌められた白い曇りガラスに映る影に流し、煙管から口を離しふぅっと煙を吐き出す。扉を自ら開ける気配もなくずっと扉の前に立って待つ姿に、煙管を灰皿に置きカウンターに置いていた菓子の籠を持って椅子から立ち上がる。
    「イタズラはすんなよ?」
    『うん!』
    カウンター奥から出て扉に向かいながら注意すれば元気な返事が聞こえ扉に手を掛け開けた。開けた先には小さい、俺の腰にも届かない奴が数人俺を見上げていた。そいつ等に好きに選べと菓子が入った籠を目の前に差し出せばワラワラと近寄ってきて「どれにしよう?」「どれもおいしそう」と相談する姿は本物の子供のように見える。気配から人間でも『妖憑き』でもなく本物の人外だとわかるが、この日は人外も現れる日と知っているから驚く事もない。
    俺の大事なものに手を出さなければそれでいい。
    「ありがとー!」
    話し合いで菓子が決まってそれを自分の籠に入れたそいつ等は俺に小さく手を振って次のとこに行こうと月の光も届かない暗い路地に向かって走って行き暗闇に溶け込んだ。それを見送り一息吐いて扉に手を掛け閉めようとした時、見知った気配を感じて扉を閉めようと入れた力を抜いた。
    「しろ!とりっくおあとりーと!」
    走る速度を落とす事なく俺の脚に突っ込んできた小さい物体の首根っこを片手で掴んで自分の目線まで持ち上げる。何が嬉しいのかニコニコと顔が緩みまくってる橙頭、一護は俺に両手を伸ばし抱っこをご所望してるが一護の格好が気になって俺はそれどころじゃない。頭の先から爪の先までじっくり見たが全てが真っ白な服装に額から生えたツノは今日来てたガキ共の仮装と一致せず首を傾げた。一護は伸ばしてた腕を下げキョトンした顔で俺を真似て首を傾げる。
    「お前、それ何の仮装だ?」
    「しろ!しろとおそろい!!」
    あー、納得した。額から出てるのは龍のツノか。
    一気にテンションが上がり興奮した一護は再び両手を俺に伸ばし更に足をバタつかせ抱っこご所望らしい。俺は我が王の願いを叶えるべく扉に掛けてた手を離し足裏に腕を回して首根っこを掴んでいた手を離せば抱っこの完成。本人はキャッキャッと俺の首に短い腕を回して嬉しそうだ。
    ツノが精巧に出来てるとこを見るに、ツノを作ったのは斬月さんか。鱗に見えるようにのように作られた白いマントがヒラリと舞うと耳障りじゃない綺麗な音が鳴る。一日だけの行事に高い素材使ってんな。
    ふと斬月サンが作ったのかコレって思い当たり、小さい針を握って作る姿が脳に浮かびそうになって小さく首を振って消す。
    なんとなく思い浮かべちゃいけねえ気がする。
    ひゅうっと路地から吹いてきた風の冷たさにくちゅんと腕の中から聞こえ小さい王が風邪引かないように中に戻るかと空いた片手を扉に手を掛ける。
    「無月、テメェも入れ」
    「むげついるの!?」
    「…」
    俺が声を掛けると路地の影から出てきた無月は一護の護衛としていつも隠れて側に付いている。今日は今日という日に違和感ないように一護と色違いだが龍の仮装をさせられていた。無月が姿を現すと一護は驚いた顔をしたがまたゆるゆるの笑顔を浮かべて無月を呼んで手招きをする。
    「閉めるから早く来いよ」
    「…ああ」
    躊躇いつつも店に入った無月を見て俺は扉を閉めた。扉を開けてたから室内が少し冷えたが腕の中の温かい存在がいるから大丈夫かと菓子の入った籠をカウンターに置き、元居た場所であるカウンター奥に戻り椅子に座った。抱っこしてる一護を自分の膝に乗せ、無月の方に目を向ければ壁際に置いてある来客用の椅子を引っ張りカウンター前に置いて座った。前は何もせず立ってたから成長してんな。護衛も王と一緒に成長してるのを感じてよしよしと思いながらカウンターの菓子の籠を指先で弾く。
    「菓子は好きなの選べ。もうガキ共も来ねえだろうしいくらでも持っていっていいぞ」
    「いっぱいもらっていいの!?じゃあ、じゃあ!しろはどれがすき?」
    「自分の好きなもの選べって言ってんだろ」
    カウンターに手を付いて俺の太腿の上に立って興奮気味に小さく跳ねながら籠を覗き込む一護。どれにしようと菓子を選ぶ一護と椅子に座ったまま全然動かない無月に一度ふぅっと深く息を吐いた。まだここら辺は対応出来ねえか。
    「無月、自分に関係ねえと思ってんだろうがテメェも選べ」
    「一護と一緒でいい」
    「マズいのでもいいって事か」
    「…あるのか?」
    「ある」
    一護がむむっと悩んでる籠から飴玉を一つつまみ取り、包みから琥珀色の飴取り出してそれを籠を覗き込んでる一護の口元に寄せる。
    「一護、口開けてみろ。あーん」
    「あー?」
    声を掛けると籠から俺の方に顔を向け、素直に口を開いた一護の口の中に飴をポイっと入れた。一護は不思議そうな顔で口を閉じ飴をもごもごと舐め、大きい瞳に一瞬にしてブワッと涙を浮かべた。
    「まじゅ、いぃ…!」
    「ほらな」
    「お前…」
    不味いもんがあるって教えてやったのに何やってんだと呆れた顔で俺を見てくる無月を無視して、しゃがんで飴を出す事なくボロボロ泣いてる一護の顎に人差し指を添え顔を上げさせる。
    「一護、飴を舌に置いて出してみろ」
    こういう風にと俺がベッと舌出して見せれば、一護も真似して舌に飴を乗せて出す。
    「イイ子だ」
    「!」
    小さい舌に乗る飴を俺の舌で掬って回収し、籠の中から甘い飴を選んで取り出し一護の口の中に放り込んだ。回収した苦い飴をカラコロと口の中で転がしていると目の前の一護はぽぽぽと赤くなった頬を両手で押さえてもじもじし始めた。
    「し、しろ」
    「ん?」
    「いまのって、ちゅー?」
    「唇同士がくっ付いてねえから違うな」
    「そうなの?」
    「おう」
    そっか、と残念そうな一護の一護と本当に何やってんだと何とも言えない表情をする無月を眺めつつ椅子の背凭れに体重を掛けて口の中の飴を噛み砕く。
    苦くて不味いが一応身体に良い素材使って作ったんだが、やっぱガキ共には不評だよな。今度ジジババに配るか。
    「そうだ白。とりっくおあとりーとっていって!」
    ご自由にって籠に入れときゃジジババは持ち帰るだろと考えてたら甘い飴をコロコロと転がしてた一護が何かを思い出していつもの太陽の笑顔を向けてきた。
    何事だとちらりと無月に視線を向けるが無月はフイッと視線を逸らす。この野郎。
    「…トリックオアトリート」
    言ってと期待の眼差しと脚をぴょんぴょんさせて見上げてくる一護に逆らう事は出来ずに俺は望まれた言葉を口にする。
    俺が言うと一護はパアッと嬉しそうに笑って自分の懐から小さな包みを取り出し、俺に差し出してきた。
    「はい!これ、おれがつくったの!」
    「おー?ありがとな」
    小さい手から渡された橙色の包みを受け取り、カウンターに置いて包みを縛る紐を解けば中には小さな蒸し菓子が数個入っていた。
    「綺麗に出来てんな。すごいじゃねえか」
    「えへへ。むげつとつくったんだ」
    色も形も綺麗に出来上がってると頭を撫でれば照れたように笑う一護。その一護から出た言葉に俺はにっこりと笑みを浮かべて無月に顔を向けた。
    「へぇ。無月」
    「…」
    「トリックオアトリート」
    「…一護と同じのしかない」
    「それでも良い。作ったなら寄越せ」
    顔を背けたまま懐から一護とは色違いの赤い包みを出して渋々カウンターに置いた無月に腕を伸ばし頭を一度撫で、包みを引き寄せ一護に貰った物と同じように紐を解けば中にあるのは同じ蒸し菓子。
    「こっちも綺麗に出来てんじゃねえか。すげえな」
    二人から貰った菓子を摘んで口に入れ、ゆっくり味わう。ほんのりとした甘さが口に広がり美味しいと感じる。
    「美味い。ありがとな」
    二人の頭を撫でると一護は嬉しそうに笑い、無月は目元を赤く染めたが相変わらず顔は逸らしたまま。鼻歌を歌いそうなほど上機嫌に笑う一護の両脇に手を入れ抱き上げて俺は椅子から立ち上がり、座っていた椅子に一護を座らせた。
    「茶入れてくるから持って帰る菓子決めとけよ?」
    どこか懐かしい味がする菓子を全員で食べよう。
    一護と無月を心配したのか斬月サンも店裏に居るみてえだしな。
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