その2「夜の森にて」 馬で一時間くらい走っただろうか?
森の入り口にヨレンタは到着した。
「疲れちゃった。少し休みましょう。」
ヨレンタは、馬の首をポンポンと叩いた。
馬が呼びかけに応えるように首を振った。
馬が止まると、ヨレンタは、馬から降りた。
「寒い……。」
手袋は奪われてしまった。
凍えた手は、じんじんと痛かった。
「はぁ~……。」
ヨレンタは、息を手に吹きかけて温めた。
日没から数時間経ち、すっかり夜だった。
P王国の冬の夜は長い。
緯度が高い為、3:30には日没を迎える。
(馬と一緒に眠れば、凍えることはないかしら?)
夜通し歩けば、凍えることは無い。
しかし、ヨレンタは疲れ切っていた。
(出来るなら、今すぐベッドで眠りたい。)
ヨレンタは馬の手綱を引いて、しばらく歩いた。
(身体がバラバラになりそう……。)
大きな木が倒れ、壁のようになっている場所を見つけた。
馬車くらいの高さがあり、雨風が凌げそうだった。
ヨレンタは、倒木の影に座り込んだ。
「……もう、一歩も歩けない……。」
ブルル!ブル!ブル!と、馬は鼻を鳴らした。
「ごめんなさい。お腹空いたよね?」
ヨレンタは馬の鼻を撫でた。
「私も……お腹、空いた……。」
鼻の奥がツンとした。
ヨレンタの目から涙が出て来た。
「うっ……くぅ。」
馬の手綱を握りこみ、ヨレンタは声を押し殺して泣いた。
ヨレンタの隣りで、馬は四つ足を折り畳み、腹ばいになった。
馬とヨレンタは身を寄せ合って眠った。