その7「 ヨレンタがポトツキ&コハンスキと出会う」 ポトツキと呼ばれる初老の男は、ヨレンタをじっと見た。
彼の目は冷たいようでいて、どこか温かさを含んでいるようにも見えた。
ヨレンタは必死に心を落ち着けようとしたが、体は震えが止まらない。
「名前は?」
ポトツキの問いかけは簡潔だった。
「ヨ、ヨレンタ……」
震える声で答えると、ポトツキは少しだけ眉を上げた。
「ヨレンタ、君はここで何をしていた?」
どう答えるべきか迷った。
嘘をつくべきか、それとも正直に話すべきか。
しかし、彼らの雰囲気は、下手な嘘を見抜くような鋭さを持っていた。
「……逃げていたんです。」
ヨレンタは意を決して答えた。
「追われていて……森を彷徨っていたら、小屋を見つけて……ここにたどり着いたんです。」
その言葉にポトツキは目を細めた。
一方、コハンスキと呼ばれた若い男は苛立たしげに肩をすくめた。
「先生、こんな話を信じるんですか?もしかしたら、敵のスパイかもしれない。」
「いや……」
ポトツキは腕を組み、ヨレンタを頭から足の先まで観察するように見た。
「この子はスパイではない。ただの逃亡者だ。」
「どうしてわかるんです?」コハンスキはなおも疑いの目を向ける。
「直感だ。それに……この目を見てみなさい。
何かを失い、恐れ、それでも生き延びようとしている目だ。」
ポトツキは、ヨレンタの顎をつかんだ。
そして上下の唇を指で開かせ、ヨレンタの歯茎をみた。
「歯が抜けている……もしかして拷問でやられたのか?」
「ううっ……!」
ヨレンタはその言葉に胸を締めつけられた。
自分でも気づかぬうちに涙が頬を伝っていたのだ。
「で、君はどこから逃げてきたんだ?」
ポトツキが再び問うた。
「……異端審問所から。」
そう答えた瞬間、二人の顔が変わった。
「異端審問所だと!?」
ポトツキの声には鋭い興味が宿った。
「まさか……、そんな事が。どうやって逃げた!?」
ヨレンタは拳を握りしめた。
「異端審問官の一人が、私を馬に乗せて逃がしてくれました……。
たぶん、彼は殺されました。
私は……私はただ、生き延びるためにここに来ただけなんです!」
その言葉を聞くと、ポトツキは深いため息をつき、静かにコハンスキに命じた。
「この子を連れて行こう。」
「先生、本気ですか?彼女を信用するのは危険です!」
「危険であろうと、この子はただの犠牲者だ。助ける価値はある。」
ポトツキの声には強い意志がこもっていた。
コハンスキは不満げな表情を浮かべつつも、それ以上反論はしなかった。
ポトツキがヨレンタに近づき、優しく肩に手を置いた。
「さあ、立って。私たちと一緒に来るがいい。
ここにいては、追手に見つかるだろう。」
ヨレンタは一瞬迷ったが、他に選択肢はなかった。
彼女は小さく頷き、二人についていくことに決めた。
こうしてヨレンタの新たな旅が始まった。
ポトツキとコハンスキ――――謎の二人組とともに歩むその先には、彼女の運命を大きく変える出会いと試練が
待ち受けていた。