お花見🌸&エイプリルフール🤥「いい夜だな」
桜舞い散る夜空を眺め、カラ松が言った。
いっせいに花開いた桜並木は圧巻だ。
おれたち六つ子はチビ太の屋台で飲みながら、花見としゃれこんでいた。
と言っても、既に出来上がっているおそ松兄さんや十四松が悪ふざけを始め、最初は文句を言っていたチョロ松も煽ったり野次を飛ばしていた。
トド松は動画を撮りながらゲラゲラ笑っている。
おれはビールを飲みながら、カラ松の横顔をぼんやり見ていた。
「どうしたブラザー、オレに見惚れているのか? ン~?」
うざったいキメ顔をするのに、いつもは舌打ちを返すのだが、今日は少し気分を変えて「そうだね」と言ってみる。
「……フッ、まったくオレは罪作りな男だぜ。ブラザーの視線まで熱くしてしまうんだからな」
「まあね」
「……一松、酔ってるだろ」
「さあ……どう思う?」
頬杖をついて首を少し傾げ、カラ松を見上げるように意味深に笑って見せる。
カラ松は戸惑うように視線を泳がせた後、再度キメポーズで得意げな顔を作った。
「オレに惚れるとやけどするぜ」
使い古されたセリフだが、乗ってやろう。
少しカラ松に身を寄せて、ささやくように言った。
「――もうやけどしてるって、言ったらどうする?」
「ッ、からかうのはやめろ」
おれを睨んでくる頬が赤い。こいつ割と初心なところあるよな。
寄せていた距離を戻して、ビールをあおる。
「からかってるんじゃなくて、口説いてんだけど」
「いちまつ!」
ああ、耳まで真っ赤だ。いつか彼女ができればスマートにリードするオレ!みたいな妄想してるけど、やっぱ童貞だよなって思える反応。ついニヤニヤしてしまう。
「カラ松~ちょっとこっち来いよ」
「あ、ああ! 分かった!」
助かった、とあからさまに顔に出して、おそ松兄さんのところへ行ってしまった。
別の日。外と違い、家だとつい酒を飲みすぎてしまう。
テレビを見ながら、一人また一人とつぶれていってしまった。
まだ起きているのは、おれとカラ松だけだった。
いつもは早々に寝てしまうカラ松が、珍しくまだ起きてちびちび飲んでいる。
隣に座ると、ちらりと視線をよこした後、おれには興味なさそうにテレビを向いてしまった。
しばらく二人とも無言で、深夜のバラエティを眺めていたが、おれはあまり興味のない内容で早々に飽きてくる。
くわあとあくびをして、カラ松に寄り掛かった。
「こら、一松重い……寝るなら二階に行け」
「やだ」
ぐりぐり額を押し付けて体重をかけ続けると、床に押し倒す形になる。
電球の光がまぶしかったのか、カラ松が目をすがめた。
「一松、ふざけるのもいい加減に」
文句を言いかけたところへ、真顔でじっと見下ろしたまま、少しずつ顔を近づけていく。
カラ松は目を丸くした後、慌てたようにおれの肩を押してきた。
「え、は、ちょ、いちま」
何も返事しないまま、頬に手を添えて間近に迫れば、ぎゅっと目を強くつぶってしまった。
酒のせいでもともと顔は赤かったけど、更に赤くなったような気がする。
じっくり眺めたあと、顔を傾けて、耳にふうっと息を吹きかけた。
「アアアアアアアアア!!!!」
「えっ何なに!?」
「うるせええ!!」
「サイレン!? プレイボール!?」
「うるっさいよ! 何!?」
カラ松の叫び声に、他の四人が飛び起きる。
耳をおさえて床を転がり逃げるカラ松を見ながら大笑いしていると、何時だと思ってるの! と母さんが駆け付け、全員たんこぶをこさえることになってしまった。
まあそんな感じで、ちょくちょくちょっかいをかけていたら、おれと二人になるとカラ松が少し距離をとろうとするようになってきた。
それならと無理に距離を詰めずにいると、ある日意趣返しのつもりなのか、カラ松がソファで昼寝していたおれの上に乗っていた。何か重いなと思って目を開けたら、少し不満そうな顔に見下ろされていて混乱する。
「? なに」
「一松、オレをからかって遊ぶのはもう終わりか?」
「は?」
寝起きであまり頭が働いていないが、怒ってるんだろうか。
「ずいぶん駆け引きがうまいんだな」
ジト目で見下ろされるのはちょっとイイな、と思いながら短パンから伸びている腿をするりと撫で上げる。
「うわっ」
びっくりした顔で慌てて降りたので、よっこいしょと体を起こした。
「ちょっかいかけに来たんじゃないの」
「違う! オレはただ、何であんなことしてたのか知りたくて……」
「押してダメなら引いてみろって言うでしょ。お前の言う通り、駆け引きだよ」
「――何か企んでるのか?」
カラ松は、理由がわからないことに困惑し苛立ち、振り回されて傷ついているように見えた。
からかうだけならとっくに止めているが、意識し始めているなら狙い通りだ。
「オレを標的にするのはもうやめてくれ」
「ヤだね。口説いてるって言ったでしょ」
べえ、と舌を出す。カラ松が目を丸くした。
「まあ覚えてないよね。お前酔ってただろうし……」
「ちょっと待て、チビ太の屋台で言ってたの、あれ本気だったのか!?」
「え、覚えてたの?」
互いに見合って沈黙する。
ぶわっと体温が上がったのが分かった。カラ松も多分同じだろう、あの時みたいに真っ赤になっている。
しばらくもじもじした後、意を決して口を開いた。
「……で、口説かれる気になってくれたんでしょうか」
「……」
「なんか言えよ」
「……」
カラ松はそっぽを向いたまま、サングラスをかけた後、小さくいいぜと返事をくれた。
「早いよな、もう四月だって」
朝のニュース番組を見ながらおそ松兄さんが口を開く。
毎年同じこと言っている気がする、と思いながら番組で紹介される各企業のエイプリルフール特集を眺めた。
「エイプリルフールだっけ、今日」
「あー、何か面白いウソだれかついて」
「面白い嘘ってなんだよ」
「じゃあいちまっちゃん! 何か面白いこと言って」
雑なフリに首をひねり、一つ思いつく。
「あー……新品卒業しました」
「「はぁ!?」」
目の色を変えて、おそ松兄さんとトド松が立ち上がった。
「――って、エイプリルフールだからって悲しい嘘つくなよな」
チョロ松が呆れたようにつっこみ、おそ松兄さんとトド松が安心したように座る。
「一松兄さんがそんな冗談言うの、珍しいね」
十四松が言うのに、ニヤリと口端を持ち上げた。
「ちょっと出かけてくる」
言いおいて廊下に出ると、後ろからカラ松が追いかけてきた。
「さっきの、嘘なんだよな?」
パーカーの裾をひっぱり、少し不安げにしている様子が可愛い。
「エイプリルフールなんだから嘘だよ」
「だ、だよな!」
ほっとした表情のカラ松。安心したように笑うところも可愛い。
「でも、もう少ししたら嘘じゃなくなる予定」
「えっ」
「覚悟しとけ」
「……えっ、オレがそっち!?」
ウソだろ、と情けなく眉を下げるカラ松に、おれは声を上げて笑った。