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    omatsurikiboon

    @omatsurikiboon

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    omatsurikiboon

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    香水に纏わるつなとら🐉🐯

    #つなとら
    tsunamiTiger

     薫って、触って、縺れて、絡まりあった果て。
    「あ、虎於くんおはよう」
    「……おはよう」
     静かに、けれどてきぱきと動く足音が目覚ましとなった。休みの前日に、恋人と過ごす夜にアラームなんて無粋なものはかけていない。同じベッドで寝ていた恋人は先に起きてすでに身支度を整えているらしい。薄く目を開ければ、仕事用の雰囲気を纏った龍之介が虎於を覗き込んでいる。
    「今日休みでしょ。まだ9時だから寝ててもいいんだよ」
    「……ん、いや、起きる」
     虎於が今日休みだということを知っていたため起こさずにおいたが、思いの外早起きするらしい。

    「先にシャワー借りちゃった。虎於くんも浴びておいで」
     すっきりするよ、と言いながら昨日脱ぎ捨てた服を集めた。シャツ、靴下、下着、バスタオル等々。バスルームの洗濯機に入れてスタートボタンを押した。これで龍之介が出かける前には乾燥まで終わっているだろう。寝室に戻ると、のろのろとベットから降りようとする虎於がいた。まだ目が覚めていないらしい。勝手知ったる恋人の家、洗い立てのバスタオルやら下着やらを揃えて虎於をバスルームへとそっと促した。

    「龍之介」
    「、あがったんだ」
     キッチンでコーヒーを入れていた手を止めて、声の方を見遣った。そこには髪が濡れそぼって一回り小さくなったような虎於が立っていた。
    「濡れたまんまで来ちゃったの?」
    「……ん」
     龍之介は、虎於が普段バスルームの洗面所で髪を乾かしていることを知っている。アウトバスのヘアトリートメントもワックスも香水も、そこにあることを知っている。
     それでも濡れたままでバスルームを出て来たということは、どうやら存分に甘やかされたいらしい。そう確信するに足るほど、逸らされていた視線はちらちらと龍之介の方に向いていて、手のひらが握りしめられてバスローブに皺が寄っていた。

    「おいで。乾かしてあげる」
     龍之介は胸がいっぱいになった。コーヒーをセットしたのであとは自然と落ちるのを待つだけだ。手を拭いて、虎於を寝室へと促した。
     部屋の壁一面全てといってもいいような大きな窓からは眩いほどの日が差しており、昨晩までの淫靡な空気はたち消えていた。
    「ここ座ってくれる?」
     呼ばれた虎於が、龍之介が座っていたベッドの足元に腰を下ろす。龍之介に背を向けて、座り心地を整えた。大人しく頭を預けて、自分の言葉に素直に応える虎於が愛おしい。虎於からは、いつものシャンプーといつもの香水の匂いがした。

     ベッドサイドにあるドライヤーを手繰り寄せてスイッチを入れた。形のいい頭を一度撫でて、指を髪へを差し入れる。水気を含んだ髪がいつもよりも重い。ドラマの撮影や新曲の衣装に合わせてカラーリングを重ねているはずなのに、虎於の髪には痛みの一つもない。
    「……今日の仕事は」
     正面を向いたまま、温かい風を受けながら虎於が尋ねた。頭が温かいと眠くなるらしい。シャワーを浴びても拭いきれなかった眠気がまた顔を出していたらしい。船を漕いでいた虎於がどうにか声を絞り出していた。
    「13時半から雑誌の撮影だよ。ほら、虎於くんも前に表紙になったことがある、──っていう雑誌」
     その雑誌には聞き覚えがある。以前、抱かれたい男一位の発表にあわせて表紙を飾った雑誌だ。普段は女性誌によくある芸能人のインタビューやヘルスケアなどを取り上げているが、年に一度のあの企画の時だけは雰囲気が違う。ほとんど全裸のような格好で、女性タレントと絡んだ撮影が行われる。それは今をときめく女優だったり、新進気鋭のモデルだったり、男性に人気のグラビアアイドルだったり。それらも含めて女性読者に評判だということは知っているが、かなり過激な撮影だったと記憶している。
    「龍之介、もしかして……!」
     眠気など吹き飛んでしまった。勢いよく振り返る。髪に触れる龍之介の手を振り払ってしまったかもしれない。申し訳ないと思いつつも、それよりも早く龍之介の口から事実が知りたかった。
    「あ、違う違う。抱かれたい男とかそういうのじゃなくて、今回はボディメイクで呼んでもらったんだ」
     虎於の思いをよそに、龍之介はあっけらかんと撮影のコンセプトを明かした。確かに上は脱いだりするけどああいう感じの撮影じゃないと思うよ、と付け加えた。
     虎於は龍之介に知られないように静かに息を吐いた。自分にオファーした出版社にも雑誌にも責任はないが、龍之介を押しのけて抱かれたい男の座に収まったことについて、過去の経緯も含めてずっと苦い思いがある。普段から忘れたことはないが、時折こうして形を持って現れると苦しくて申し訳なくて恥ずかしくてこの場から逃げ出したい気持ちになる。

    「あ。でも──さんと撮影一緒だよ」
     その名前は聞いた覚えがある。項垂れながらも意識がその名前へと向いた。
    「ほら、虎於くんと共演してたじゃない?この間のドラマでさ」
     思い出した。女優へ転身した元アイドルだ。アイドル時代に歌番組でも共演したことがある。ドラマでは虎於の彼女役を務めていて、初のドラマ出演でありながらNGも少なく、今後演技でやっていきたいという姿勢が強く見えた。
     だだ、それよりも気にかかったことがひとつ。
    『御堂さんって十さんとお知り合いですか? 私実は十さんのこと気になってて……あ、そういう意味じゃないですよ! 私ったらやだもう……。十さん、アイドルしながらドラマも出てミュージカルも出てすごいなって思ってて……もしよかったらセッティングしてほしいなって』
     照れたように笑う彼女の表情は魅力的で、輝きに溢れていた。言葉ではそう言っているが、実際龍之介に惹かれているのは確かだろう。以前の自分だったら「目の前にこんなにいい男がいるのに、あんたは龍之介に夢中なんだな」くらいは言っていたかもしれない。でも今はそんなことは言っている場合じゃない。さざめきたつ気持ちを抑えながら、「まあ機会があったら伝えておくよ」とだけ返した。
     機会なんて作るわけがない。

    「彼女、次のドラマのためにかなり身体作ってるらしいんだ。それで呼ばれたって聞いたよ」
     虎於の心、龍之介知らず。まだ若いのにすごいよね、と弾んだ声で会話を続けた。幸か不幸か虎於から龍之介の顔は見えないし、龍之介から虎於の顔も見えない。こんなに感情が追いつかない顔なんて見せられるわけがない。
     それでも龍之介が虎於に触れる手は優しく、時たま耳に触れる指がくすぐったい。沈んだりさざめいたり焦ったりする気持ちが円く整えられていく。
    「はい、完成」
     ずっと続くかと思われた柔らかい時間も、いつかは終わってしまう。
    「気持ちよかった。ありがとう」
    「こちらこそ。虎於くんを甘やかせるのってとっても嬉しいから」
     振り向くと、照れのない微笑みを携えた龍之介と視線が合う。こういうときに、照れの一つもなく演技でもなく、本心からこういうことを言えるのは才能だと思う。龍之介の言葉はいつも本当の言葉だ。虎於はいつも本当の言葉を貰っている。

    「あ!」
     二人でコーヒーを飲んだ後、もうそろそろ家を出る頃になって、龍之介が声を上げた。思わず声の方向に顔を向ける。
    「どうした」
    「いつもの香水忘れて来ちゃったな……」
     なくてもいいんだけどどうしようかな、と眉を下げて困ったように笑った。あ、でももう出なくちゃ、と荷物を回収する手が忙しなく動いた。
     虎於はふと思い立って、バスルームへと身を隠した。
    「たまにはこういうのもどうだ?」
     戻ってきた虎於の手の中にあったのは、虎於自身がいつもつけているサボンの香水。
    「虎於くんと同じ香りになるんだ、なんかうれしいなあ」
     ぱ、と龍之介の表情が明るくなった。その場に荷物を置いて、いそいそと駆け寄ってくる。
     龍之介の手首をとってワンプッシュした。その場に広がるサボンの香り。清潔で爽やかで、朝の光にはぴったりだ。
     手首をひらひらさせて、その場に舞う香りを楽しんだ。

    「ね、これ本当にいつもの虎於くんの香水?」
     薄い褐色の手首に顔を近づけながら虎於を流し見る。
    「? 昨日もつけてた物だな」
     ゆっくりと虎於に近づいて、首筋に顔を埋める。ぴく、と虎於が身じろいだ気がした。龍之介の鼻腔を掠める微かなサボンは、先程虎於がシャワーを浴びた後に付けたものだ。
    「虎於くんがつけると俺より甘い気がする」
     その奥にある甘さは香水本来の香りか、それとも虎於本人に因るものか。
    「そん、な、わけないだろ」
     じわじわと体温が上昇していく。
    「そう?俺の勘違い?」
     ゆっくりと虎於の背中に手を回し、背骨をひとつずつ数えるように触っていく。首筋の香りを吸い込む。腕の中の虎於がわずかな緊張と快感に身を捩った。ロージーブラウンの髪がふるふると揺れて、龍之介の頬をくすぐった。
     本当に嫌なら腕を振り払うことだってできる。けれどそれをしないのは、恋人としての距離感を受け入れているから。
    「……りゅ、うのすけ、仕事、」
     か細い声で時間を告げる。時計に目を向けると流石に出ないと間に合わない時間となっていた。
    「わ! 本当だ。そろそろ行かなきゃ」
     緩く閉じ込めていた腕をほどいて、虎於から離れた。

    「じゃ、また今度」
     玄関で靴を履きながら、仕事で会うほうが先かもね、と笑いかけた。虎於は腕を組みながら廊下の壁にもたれて、勝ち誇ったような表情を浮かべている。表情の示す意味がよくわからない。ゆうべといい、さっきの腕の中といい、虎於は意外と表情がころころと変化する。これも、付き合ってから知った虎於のかわいいところだ。
    「龍之介」
     呼ばれて改めて虎於と視線を合わせた。
    「それ、いい香りだろ?」
    「? うん」
     素直に頷くと、虎於が可笑しそうに、満足気に笑った。
    「撮影頑張れよ」
    「ありがとう。虎於くんはゆっくり休んで」
     龍之介がドアの向こうに体を滑らせた。龍之介はこのまま仕事場へ行くだろう。撮影が一緒なら、あの女優と密着したポーズだってあるだろう。何も知らずに、その時の十龍之介を存分に堪能すればいい。あの時の虎於の香りを、彼女が覚えているかどうかなんて些細なこと。子供のような独占欲が自分に眠っていたことに驚く。二人の邂逅を脳裏に浮かべると、口の端が自然と上がる。

     ドアが閉じられた。
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    DONE「milky way」

    早く大人になりたい甥っ子と、可愛い毛玉の成長が嬉しいような寂しいようなな叔父の話

    *付き合ってないチェカレオ
    *年齢操作有
    賢者の島。ここは辺鄙な場所にあり、電車やバス、そして船を乗り継がないと来れない場所で。この島に住む者以外はわざわざ近寄る者はそう多くない小さな島だ。
     その両端に位置する場所にあるのが名門NRCとRSAの二校。どちらも名門魔法士養成学校として世界的に有名な学校で、各国から優秀な学生が集まっている。王族や富豪などのご子息も多く在学するからこそのこの環境なのかもしれない。
     今年RSAには一人の王族が入学を決めた。夕焼けの草原、王位継承権第一位のチェカ・キングスカラー。獣人である彼は体躯に恵まれ、長身に引き締まったしなやかな筋肉を持ち、1年にしてすでに頭一つ抜きん出ていた。そしてその強靭な見た目に反して、穏やかな性格のベビーフェイス。それでいて奢り高ぶった様子もなく、入学早々校外からも注目を集めていた。

    「すみません!外出許可証の提出は、こちらで大丈夫ですか?」

     鮮やかな夕焼け色の豊かな髪を低めに一つに纏め、爽やかな笑顔でそう問いかける。成績も優秀、温厚で教師陣からの評判も良く、入部したマジフト部でも有望視されている。まさに絵に描いた王子様そのもの。

    「あら、キングスカラー君、お出 6758