触れたいその手に触れたい、そんな想いが溢れてきたのはいつからだろうか。
時には銃を持ち鮮やかに敵をキルし、時には美味しい料理、酒を提供し、時に…俺を救ってくれる。
その笑顔も俺だけのものになればいいのに、なんて俺らしくない。
掌で遊ばせていたロックグラスを揺らし一気に煽る。
「おいおい、クリプちゃんそんな無茶な呑み方したら悪酔いするぜ?そんなに酒強くねぇだろ」
酒でぼんやりとした思考の中、目の前には先程触れたいと考えていた存在がいる。
だからこれはあれだ、酔った勢いというやつ。
カウンターに前屈みになり俺を心配そうな顔で見つめるウィットの手にそっと自分の手を重ねる。
ぴくりと跳ねた掌は暖かくて心地よい。
振りほどかれないことをいいことに指を1本ずつ撫でその形を覚えるようにくまなく優しく触れる。
水洗いをよくしているから荒れててもおかしくない筈なのに、手のケアを欠かしていないのか滑らかで触り心地も抜群だ。
「ク、クリプちゃ」
「もう少しだけ、このまま。だめか?」
ウィットの顔をチラリと見上げればその顔は赤く染まっていて…自分の良いように勘違いしてしまいそうになる。
「っ、しょーがねぇなー!この心優しいミラージュ様が弱ったクリプちゃんのために一肌脱ぐぜ!」
そう言って俺の反対の手を握るウィットに心拍数は確実に上がった。
「クリプちゃんの手は綺麗だな。あ、俺よりちょっと大きいんだな。厚みは俺の方がある!」
楽しそうに俺の手を握ったり撫でられる感覚に下腹部が重くなる。
好きな奴に満面の笑みで触れられてるんだ不可抗力だ。
なんて、誰かも分からない相手に言い訳する。
「満足したか?」
「あ、すまん俺が夢中になってた」
恥ずかしいのか瞳をうろうろさ迷わせ唇を噛み下を向くウィット。
あまりの可愛さに反射で好きだと口に出すところだった。
「いや、いい。気の済むまで続けろ」
俺は何を言ってるんだ?
「え!?いいのか!じゃあお言葉にあむ、甘えて」
こいつもこいつで何でそんなに嬉しそうなんだ。
熱くなる顔を隠したいがあいにく両手は幸せで塞がっている。
その後もウィットは俺の両手をにぎにぎしたり自分の頭を撫でさせるようにぽんぽんしては嬉しそうに笑ったり(役得だ)、一通り楽しんだのかパッと手を離された。
離れた温度が寂しい。
「今度は俺の番な」
離れた温度を取り返すべく今度は俺がウィットの手を好きなように扱う。
顔は真っ赤で何かに耐えるような表情に俺の中の加虐心がふつふつと湧いて出る。
「ここが好きなのか?」
「ちがっ」
「肩、震えてる」
「うっせー、さっさと終わらせろ」
「それは無理な話だな」
「なんなんだよー、今日のお前よくわかんねぇ…俺の心も」
最後にぽそりと呟かれた言葉にどきりとする。
今の関係はとてつもなく心地よい。
でも、もしウィットが俺と同じ気持ちだったら?
握っていた手に力をこめる。
視線を重ね合わせる。
潤んだ瞳、赤らんだ頬、何か言いたげな薄く開いた唇。
「なぁ、このまま朝まで一緒にいないか」
「へ?」
「いや、ストレートに言おう。お前が好きだ、ウィット。お前の全てを俺のものにしたい」
握られた手が動こうとするのをぎゅっと掴んで離さない。
逃がさないぞという意味を込めて見つめる。
「だって、それは…その、そりゃ俺だって…でも…」
「でも?」
「俺男だしおっさんだぞ?」
「今更何を言ってる。全部を含めてお前が好きなんだ。勿論許されるなら今すぐキスしたい意味でな」
「なっ!?ちょ、待ってくれ!一旦俺に気持ちを落ち着かせる時間をだな…」
「悪いが、待てない」
カウンターから身体を乗り出し、そのぷっくりとした唇に己のそれを重ねる。
突き飛ばされることもなく、啄むキスを続けていれば徐々に受けいれてくれる。
脳がその甘さに酔い痺れる。
息が苦しくなったのか、胸を叩かれて離れ難いが距離を置く。
上がった息を整えるウィットにまた触れたくなるがぐっと堪えた。
「店は今日は閉店だ。続きは俺の家、異論はないな」
「ちょ、待て待て待て!俺の気持ちは!?」
「なんだ?何か問題が?」
「っ、それは、そのー、ない」
いよいよ理性の切れかかった脳を抑えこんで、ウィットの手を取る。
「さっさと行くぞ」
歩きだそうとしたところでくいっと手を引っ張られよろめく。
その後すぐ唇に柔らかい感触。
「俺も、好きだ、クリプト。それだけはちゃんと伝えたくて」
今度こそなけなしの理性は飛んでいきウィットを抱えて店を出る。
看板をCLOSEにすることも忘れずに。
あわあわと暴れるウィットを力強く抱き込んで、夜の街へと溶け込んで行った。