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    進明歩

    あんスタ、特にEdenが好き。基本はジュンひよ・凪茨。
    ときどきpixivに投稿しています。
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    進明歩

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    桜蘂の降る道
    恋人の二人が桜の下でお別れして、復縁するお話です。こんなに短いのに…。
    前作に沢山の絵文字をありがとうございました!

    #あんさん腐るスターズ!
    ansanRottenStars!
    #ジュンひよ
    juneSun

    桜蘂の降る道「ジュンくん、お花見行こうか?」
     日和はふと思いついたように言った。けれどきっと日和の中では予め決めていたこと。切り出すタイミングを窺っていただけだろう。
    「……そうですね。行きましょうか」
     こんなに心が弾まない花見があるだろうか。ジュンはそう思ったけれど、なんとか微笑んでみせた。

     川沿いに続く桜並木は、遠目に見ればピンクの雲が浮かんでいるように見える。だんだんと近づいて行くと、ピンクの中にも薄い色や濃い色、白や藤色に近いものもあって、緩やかなグラデーションを作りだしていた。
     ジュンと日和が桜並木の中央入口に立ったときには、日は完全に暮れていた。その分街灯と花見時期だけ飾られた提灯がくっきりと灯り、桜をいっそう幻想的に見せていた。満開の桜の下で、楽しそうに花見をしている人々がいる。何軒かの食べ物の屋台も並んで、さながら祭りのようだった。
     
    「きれいだね」
     日和はそう言って、スプリングコートのポケットに手を差し込んで遊歩道を歩き出した。ジュンもそのあとを三歩ほどの距離を空けて歩く。川からの風も緩やかで温かいのに、ジュンの指先は凍えている。ジュンもジャケットのポケットに手を入れた。
     花見をする人々の喧騒の間を通り抜けて、日和はゆっくりゆっくり歩く。桜よりも日和の後ろ姿を見つめながら、ジュンもゆっくりゆっくり歩く。ジュンは桜並木がいつまでも続いてくれたらいいと思った。このまま歩いて歩き続けて、日和がこのまま立ち止まらなければいいと思った。そうすれば終わりはずっとやってこないから。この幻想的な楽園にずっと留まっていられるから。
     やがて人気のない桜並木の端までやってきた。日和がわざとのように足音をたてて歩みを止めた。そしてゆっくりと振り返る。その顔が少しでも迷っていたり悲しげだったりしたら、まだジュンだって自分の言いたいことを言えたのに。日和はただ静かに微笑んでいた。ジュンには日和がこれから言おうしていることが分かっていた。それを回避する術を自分は持たないことも。
     わずかな風が日和の髪を揺らし、彼は手で押さえるようにして耳にかけた。目を閉じたのはその一瞬だけ。あとはジュンから少しも目を逸らさない。
     
    「ジュンくん、今日ここでお別れしようね」
    「……っっ」

     嫌です。別れたくありません!
     ジュンにはそんな本音を簡単に口に出すことができなかった。
     
     一ヵ月前、日和の父親が倒れたと連絡が入った。ライブツアーの最終日のことだった。気丈にも日和はその最終公演を終え、それから家族のもとへ駆けつけた。父親の容態はおもわしくなく、その後も昏睡状態が続いていた。当面の間、日和の兄が父親の代わりとなり、会社を切り盛りすることになる。家族間でどんな話し合いが持たれたのかジュンは知らない。常に家族のことを大事に考えてきた日和が、家族を支えるのは当然のこと。アイドルを辞めるという選択に至ることは予想通りだった。
     日和が恋人関係も終わりにしようとしているのではないか。ジュンに渦巻いていた悪い予感は、Eveとして最後の仕事を終えた今日、日和の言葉で現実となった。
     
     他の桜と違い、ジュンと日和の前の桜の木だけが散る頃を迎えているようだ。花びらがひらひらと絶え間なく舞い落ちて、地面に広がる点描画に桜色をのせていく。
    「おひ、さ……」
     愛してます。あんたを支えたいです。
     押しつけるだけの愛情で胸のうちが苦しいほどに膨らんで、涙とともに喉元まで込み上げてくる。
    「おひいさんっ、オレ……!」
     はらりと散った花びらが一枚、ジュンの唇にピタリと貼り付いた。花びらまでもがジュンが言葉を紡ごうとするのを止める。
    「ふふっ……」
     冷え切った日和の指先が、ジュンの唇から花びらを除けた。
    「オレ、オレは……」
     日和の唇がジュンの唇を塞いだ。何度も触れた唇、沢山の幸せを愛を分け合ったキスは、もう切なさしか生み出さない。色味をなくした二人の唇を離して、日和はゆっくり首を振った。
    「ジュンくん泣かないで、ね?」
    「ぅ……っ」
     口を開けば涙が零れてしまいそうだった。震える唇を結んで川へ目を向けた。暗い川面に提灯の明かりがぼんやりと映り込み、現実の世界ではないみたいだった。その光景すらもすぐに揺れる。揺れているのは溜まった涙なのか、それとも川面なのかもよく分からない。
    「うぅ……っ」
     ジュンは顔を上向けた。必死に奥歯を噛み締めて、桜の花をジッと睨んだ。泣くことさえ許されないジュンの代わりに、花びらがはらはらと、とめどなく降ってくる。視界の端に見える日和も桜の花を見上げていた。
     どのくらいの間そうしていただろう。言葉もなく日和が先に去っていった。取り残されたジュンは、しばらくそこに立ち尽くしていた。
    「うぅっ……くっ……ふっぅ……」

     ***

    「ジュンくん、たっだいま〜!」
    「……はっ? ……はぁっっ??」

     まるでちょっとした旅行から帰ってきたかのように、日和は両腕を広げてにこやかに言った。あの桜の下で別れてから約一年後のことである。歌番組の収録を終えて楽屋で帰り支度をしていた時、日和が突然現れた。ジュンはドッキリを疑って、どこかにカメラがあるんじゃないかとキョロキョロしてしまう。ジュンの居場所を知っていたのだから当然茨、おそらくは凪砂も日和と連絡をとっていたということになる。
    「どど、どうして? えっ?」
    「ただいまって言ったら、おかえりって言って欲しいね!」
    「……おかえりなさい……?」
    「ただいまっ、ジュンくん!」
     まだ状況の呑み込めないジュンの頬に、日和の冷たい指先が触れる。日和はあの日と同じように言った。
    「ジュンくん、お花見行こうか?」
     
     一年前に行ったのと同じ川沿いの桜並木。昨年よりも一週間ばかり時期が遅い。もう桜はほとんど散ってしまっていた。タクシーの車内で、日和はポツポツと状況を説明した。父親が順調に回復していること。会社が落ち着いたこと。家族がアイドルへの復帰を強く後押ししてくれたこと。

     桜並木の入口に立てば、残花を楽しむ花見客が一組二組と見えるばかりだった。屋台も一軒ポツンとあるだけ。提灯も取り払われてしまっている。日和は昨年のようにポケットに手を入れて遊歩道を歩いて行く。あの桜の木の下まで行こうというのだろう。なぞらえるようにジュンもポケットに手を突っ込んで、日和の後をついて行く。日和の後ろ姿はそれほど変わらないように見えた。それでもアイドルとは違う、社会の波に揉まれて一年間過ごしてきたのだろう。そう思わせるくらいには、彼の表情は以前よりも大人びていた。
     やがて桜並木の端、昨年駆け足で散ってしまった桜の木が見えてきた。けれど今年は昨年とは逆に、その桜の木だけがまだ沢山の花をつけていた。わずかな隙間からしか空が見えないような桜花の下で、二人は足を止めた。桜を見上げている日和に向かって、ジュンはつとめて静かな口調で言う。

    「この桜の木、まるであんたみたいですね」
    「どういう意味?」
    「マイペース、少しも周りに合わせようとしない。一人だけ散ったり、一人だけ咲いたり、人の気持ちなんてまるで考えようとしない……!」
    「そうかもね」
    「全部一人で決めて去っていったり戻ってきたり。オレがそう簡単におかえりなさいって、また一緒にEveやりましょうって、そう言うと思ってたんすか? あんなふうに一方的に別れを告げておいてっ! オレが今でもあんたを好きだと思ってるんすか?」
     だんだんと感情を叩きつけるような口調になってしまった。日和の苦労も葛藤も考慮しないジュンの言葉を、日和は瞬きもせず受け止めている。少しの間ひりつく沈黙があって、日和は呟くように言った。
     
    「だってジュンくん……『Eveの漣ジュンです』って、ずっとそう言って活動してたじゃない」
     
     いつもジュンの導となった日和の芯のある声は、瞳に映る灯りとともにゆらゆらと震え始める。
    「……一人でテレビに出ててもライブをやっててもっ……ずっと、ずうっとっ……! 『Eveです』って言ってくれてたね? ぼくのこと待っててくれたんでしょう?」
    「そうですよ……。オレはあの時何を言ってもあんたの気持ちを変えられないと思った。引き留めたらあんたが苦しむと思った。けどっ! あんたを苦しめたって、オレだけはあんたのこと待ってるよって、そう言ってあげなきゃいけなかったのに……オレは何も言えなかったからっ……!」
     Eveとして活動を続けたい。ジュンの我儘に茨が折れた形となった。ジュンはメディアで度々日和の話題を出した。Eveの衣装を一人で着ることもあった。何年だって、ジュンはそうしていくつもりだった。二人で一つのEveなのだと、世間にも日和にも忘れないでいてもらうために。
    「ジュンくん……」
    「……おかえりなさい、おひいさん」
    「うん……うんっ! ただいま、ジュンくん!」
     花開くような笑顔に押し出されて、日和の涙が頬を滑り顎先からはらりと散った。日和は手の甲で拭うと、ジュンが広げた両腕の中に身体を寄せる。
    「ジュンくんっ……」
     肩に伏せられた日和の頭を優しく撫でて、ジュンも目を閉じた。
     
     国道を走る車のクラクションが遠くで聞こえる。排気ガスの匂いを含んだ生温い風が、ジュンの首筋を撫でてゆく。目を開け街灯が照らす川面を見れば、誰かが落とした帽子が岩に引っかかっている。二人で過ごした幻想的で楽園のような日々は、もうとっくに終わりを迎えた。思い通りになることも、ならないこともある。ここはどうしようもなく現実の世界だ。それでもジュンと日和はそれぞれに自分の足で立って、そして抱きしめ合っている。

    「ジュンくん、いい匂いがするね」
    「あんたこそ、いい匂いがします」
    「お醤油が焦げたような匂いだね」
    「……屋台の焼きだんごの匂いでしょうが」
    「ふふっ食べたいね」
    「ったく、そういうとこ変わんねぇな」
     身体を離して、ジュンは歩いてきた道を戻り始めた。行きには気づかなかったが、遊歩道があかく染まっている。日和がすぐに追いつき並んで歩いた。
    「桜しべ降る道もきれいだね」
     夢のような桜色の道はもう吹き流されてしまったけれど、その後に続く桜蘂の降り積もる、あかい道だって充分に美しい。輝く太陽のもとで見たなら尚さらだろう。
    「……でも来年はちゃんと花が咲いているときに、弁当持ってメアリも一緒にお花見に来ましょうね」
    「うん! おかずは何がいいかね?」
    「ははっ、今から決めとくんすかぁ?」
     
     ジュンが手を差し出すと、日和は嬉しそうに笑って手を握った。ジュンはもう二度と離れていかないように、指の間をしっかりと絡める。それから繋ぎ直したその手を、大切に大切に自分のポケットにしまった。
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    進明歩

    PAST『世界が滅びるとき、最後のふたりになるとしたら相手は誰がいいですか?』
    ※相手が死んでしまったらとの想像、夢などがあり。
    ※二人ともかなり泣く。
    ※ジュンひよですが、逆にも見える。
    ※凪砂、茨もちょっと登場。凪砂→茨。
    この中のワンシーンを書いたのが二次創作を書いた最初。恥ずかしくて投稿できず、ずっと支部の下書きにありました。公式ストが出てくるとどんどん解釈がずれそうなのでここで…
    最後のふたり『世界が滅びるとき、最後のふたりになるとしたら相手は誰がいいですか?』

     
     

    「みなさん、おはようございます! Eveの巴日和です!」
    「漣ジュンです! よろしくお願いします!」
     
     生放送の朝の情報番組にEveで出演していた。今日は日和が主演するドラマの初回放送日。主題歌はEveが務めるとあって、ジュンも日和と共にドラマと曲のプロモーションで出演していた。
     
    「それでは視聴者からの質問コーナー! 時間の許す限り訊いていきますね!」
     アナウンサーの女性が明るくハキハキとした声で進行していく。出演時間は十分程、順調にドラマの映像を見てのコメント、曲の紹介などを終え質問コーナーとなった。

    「次が最後の質問になりますね。『世界が滅びるとき、最後のふたりになるとしたら相手は誰がいいですか?』……巴さんから!」
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