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    えくれあ

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    えくれあ

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    ふる〜てぃ〜ず“れたす”「……馬鹿みたい。」

     白いメッシュの入った深緑の髪を緩くまとめた小さな少女は自身の弁当に挟まれたカードを見て呟いた。

    「……それ、今日も食べないの?」

     向かいで学食で買ってきたお弁当を広げる、くすみがかった黄土色の絹糸のような髪をふたつに編んでいる大人しそうな少女。その表情は重たい前髪に隠されているが、少し不思議そうな表情見える。

    「こんなもの、食べるなんて考えただけで反吐が出る。」

     そう言った小さな少女…早緑れたすはぐしゃり、とカードを丸めて弁当箱と共に持って立ち上がると、カードと共にその中身をゴミ箱にぶちまけに行く。毎日の光景だ。処理が終わると制服のポケットから携帯電話を取り出すとカパッと勢いよく開けてからなにやら打ち込み始めた。

    【お弁当どうかな?今日はれたすちゃんが好きな物多めに入れて置いたよ。これ食べて次のテストでも1位期待しているからね。模試の結果、後で見せてね。】

     母親からのメールに心底迷惑そうに舌打ちをする。

    【ありがとう。おいしいよ。】

     そう打ち込んで送信をして、ガラケーをしまいながら先程のもう1人の少女…黄土たまを見ると持参していたカバンの中からもうひとつ、包みを取り出すところだった。どう見てもお弁当だ。普段そんなことはしないたまを不思議に思ったれたすは聞いてみることにした。

    「おかえりなさい。」
    「……あれ、たままってそんなに大食いだったっけ?」
    「そう見えます?」
    「見えない。」
    「実はこれ、サンドイッチ。」

     たまが包みを広げると中からは可愛らしい手作りのサンドイッチが出てきた。

    「れたす、半分こしましょ?」
    「……は?別にいらないけど。」
    「そうやって食べないから身長が伸びないんですよ。」
    「なっ!?……んぐっ!」

     そっぽを向いていたれたすが振り返った途端に口にサンドイッチを押し込むたま。普段から無理矢理だったり、彼女のペースに呑まれてしまうことが多く、それにまだ慣れないれたす。だっていつもなられたすに従う人達ばかりで無理矢理なんてことないもの。たまが作ったらしいそれは、耳付きの食パンからはバターの香りがする。半熟の卵にきゅうりやハム、レタスに玉ねぎが挟まった可愛らしいサンドイッチ。

    「……意外と美味しいのね。」
    「ふふ、よかったぁ。ちゃんと食べないと、ただでさえ薄い身体が消えちゃいますよ。」
    「そんなわけないでしょ!っていうかたまま、料理できるのね。」
    「…………はい、まあ、一通り。」
    「ま、凄いんじゃない?あたしなんてキッチンに立たせても貰えなかったし。」
    「過保護ですね。」
    「死にたくなるほどにね。」

    --ほんと、死にたくなるくらい。

     ちょっと放任主義で嫌でも家庭的になるたまが羨ましくなるくらいに。

    「ねぇ、れたす。」
    「なに。」
    「親の愛って、なんなんでしょうね。」
    「……あたしには必要なかったよ。」
    「そうですか。」
    「どうしたの、たまま。」
    「私は……れたすが羨ましいです。」

    --羨ましい?れたすが?

     あんな理想を押し付ける親の何が羨ましいのかとれたすは思った。
     れたすの親は過保護だ。両親共に一流の大学を卒業した後に仕事でも成功を収めている、自他ともに認める秀才。そんなふたりの間にやっと産まれた一人娘がれたすだった。1番になれば何でも手に入る。1番になれ。人の上に立て。そう教えられて育てられ、更には大切な一人娘が心配で、ネットには触らせない、門限も18:00という徹底ぶりだ。
     もちろんれたすは家庭科の実習ぐらいでしかキッチンに立ったことも無いし、ケータイだってそうだ。こんな国立の進学校だというのにガラケーだ。ガラケーならまだいい。進級してすぐなんてまだ防犯ブザーのついた子供用のケータイ。親にしか連絡ができないし、なんなら通話しかできないものだった。
     でも親の前、先生の前ではそんな不満は絶対に言わなかった。いい子であり続けた。だってその方が楽だから。それでもいい子ってストレスが溜まるもので、その鬱憤を晴らすために、てっぺんに立ってる立場を活かして周りに当たり、からかっていた。誰も能力で自分に叶わないのだから楽しくてしょうがなかった。

    「ねぇ、貴女不思議ね。あたしの次に賢いんだから、もっとみんなで遊べばいいのに。」

     そんなときに、1人で本を読んでいる同じクラスのたまに声をかけた。外部入学者のくせに、れたすの次に成績のいい黄土たま。何回かちょっかいをかけてみても大した反応が返ってこない、別に面白くもない彼女であったがなぜだか気になるのだった。
     それがふたりが一緒に過ごすようになったきっかけ。

    「ねえ、れたす。お弁当食べないなら、私が明日から作ってきましょうか?」

     たまは相変わらずなにを考えているかわからない。

    「毒とか入ってたりしないよね?」
    「今食べたじゃないですか。」
    「たままがいいなら……。その、美味しかったし。」

     また、そっぽを向くれたすにくすっと笑うたま。

    「ええ、もちろん。だって、れたすのためですから。」

     れたすのためって1番嫌いな言葉なのに。

    --ちょっと、嬉しいって思ってしまった。
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