沈んで、揺蕩って② なんだか足が重たい気がするのは布地の卸売り店を数件ハシゴしたからに違いない。そんなことを考えながら三宙は自宅兼アトリエへの帰路に着いていた。
日はまだ高いが、吹き抜ける風がいくらか涼しくなっている。戻る頃には夕暮れ時か。帰ってもまだまだ作業は出来そうだ。
いつもなら急いで帰りたくなるものだった。時間がいくらあっても足りないほど、自分のやりたいこと、ファッションのことを考えるのはどんな時でも楽しいことだ。そこに偽りはない。
そんな風に三宙が思う強く気持ちとは反比例して足の進みは遅くなっていき、ついには街路樹の横で立ち止まった。
店をハシゴしたからなんて自分への誤魔化しにもなりはしない。絶対に認めたくなんてないのだけれど、単に帰るのが嫌なだけだ。帰ったらまだ作業をしている四季と顔を合わせることになる。それが怖い。
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