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    Webオンリーで展示するすれ違い43の進捗です。事後からのモヤモヤ編。

    #しきみそ

    沈んで、揺蕩って① 息を乱しながら絶頂の余韻に蕩けながら、続いて下腹部の圧迫感が無くなっていくことに名残惜しさを覚える。少しの間を置いて、後始末を済ませた四季が三宙の隣に寝そべった。わざわざこちらを向いて着地するものだから着地点が近すぎて、頬を撫でていく毛先がくすぐったい。
    「暑いってのにくっつきすぎ」
    「まあ、昼に外歩いた時より汗かいたか」
     眠るまでの気だるいこのひとときが好きだった。心も身体も交えて、お互いに満たして満たされたことがより確かになるような気がしていた。
    「ほんとオレのこと好きだよなー」
     うるさい程に蝉が鳴いていた昼間とは違い、夜の空気はひっそりと静まり返っている。
     それは、気だるさの残るこの室内も例に漏れず。発せられた声音が持つ心の機微さえも含めてよく聞き取れるようだった。
    「そう思うか?」
     不意に、三宙は頭の奥底を掴まれた。柔らかなため息を含みながら言われた四季の言葉に瞠目する。
     不意にというのは少し語弊があるかもしれない。正しくは、知らないフリをし続けてきた憂いの琴線にいよいよ触れたというような。
     一年ほど前の頃だったか。三宙が再生された体で復帰を果たした戦闘後に、ちょうどさっきのような言い方をしたことがあった。あの時は舌打ちまでされて四季には随分と辛辣な態度を取られていたけれど。
     それは、きっと表面化しているものが全てではないのだろうという雰囲気もどことなく感じられた。思い返してみても鮮やかな刺々しさは、指摘をすれば余計に怒られてしまうが、要するに照れ隠しというやつのはずだ。
     ついでに言えば、そもそも三宙もつい茶化してしまったということもあった。あの四季があんなにも懸命に敵の手に堕ちた自分を呼び戻そうとしてくれた事が嬉しかったクセに、それをどう受け取ればいいものか分からずに。
     だからあの時、四季から冷たくあしらわれて少なからず助かったのだ。もし万が一(そんな数字じゃ足りない程にはあり得ないけれど)そのまま肯定されていたら、どうなっていたことか。
     いや、密かにしまい込んでいる想いなら、早い内に切り崩されて暴かれていた方が良かったのかもしれない。結局ズルズルと過ごしている間に、あったはずの関係が失くなってしまうぐらいなら。
     さっきのやり取りと、一年前と。聞いた限りでは関係が進展しているように感じる。けれど、確かに三宙の中で何かが引っ掛かっていた。
     まだ二人がただの同僚でしかなかった頃には、四季と話す度に壁を感じていた。表面だけを滑っていくような、ガラスに隔てられているみたいなその言葉。
     そう。あの頃の感覚に近い。あれは、全てを燻ゆる煙に巻くような優しさの響きだ。冷たく刺さるような響きの思い出の方がよほど温かく思えるほど。
    「どうかしたか? おい、三宙」
    「……え?」
     至近距離から呼び掛けられて、ようやく思考の渦に囚われていたことに三宙は気が付いた。さすがに不自然すぎたと打開策を考えたが、口を開くよりも眉間で指先を弾かれた痛みが走る方が早かった。
    「痛ぁっ! ガチのやつじゃん!」
    「え? じゃねえよ。そんだけ眉毛下げといて」
     薄い痛みに堪えるフリをしながら薄目で隣の四季を見る。それはそれは明らかに不機嫌な顔をしている。嫌な考えに没頭させられるし、デコピンされるし睨まれるし、踏んだり蹴ったりで散々だ。今は一番好きな時間を過ごしているはずなのに。
    「もう酷くね? オレってなに?」
    「ほら、あんま過剰演出すんなって」
     さっき三宙の眉間を攻撃してきた手が、今度は身体の脇をスルリと滑って抱き寄せられた。触れ合う素肌の感触に、己の胎を満たす熱の記憶が否応なく呼び覚まされて心臓に悪い。
    「で、気は紛れたかよ。何をそんな深刻になってるか知らねえけど」
     人の気も知らないで、とは頭に浮かぶ。けれども三宙がそのまま言えるはずもない。濁した言葉を切り出しながら、どうせなら自分のことで少しは四季も困ればいいのにと、我にもなく理不尽な願望を思ってしまう。
    「……まあ、多少は」
    「へー」
    「なになに? 不満そうじゃん」
     真顔で漏らされた短い不平に、ようやく三宙も自然に口の端が上がる。それから目の前で真一文字に引き結ばれている唇に、薄い笑みのまま自分の唇を短く押し付けていた。
    「ったく。もう寝るんだろ。明日も早いとか言ってなかったか」
     軽く蹴りを入れるようにして四季の足先が戯れる。それに応えるように引っ掛ければ、お互いの体温が上がっていくことは明白だった。
    「えー、そんなことされたら寝れねーし」
     四季とのこういう時間が好きだと思う。三宙が本当は求めている答えを先延ばしにされていると感じていても。もっと悪ければ、単純に性欲を発散する相手として都合がいいだけだったとしても。


     カーテンの向こうから白い光が淡く漏れている。重たい体で身動ぎをすると、気が付きたくもない事実に三宙は嫌でも気付かされた。
    (そういや、おはようってここで四季に言ったこと一回もないんだよな)
     ベッドの隣はもぬけの殻で、そこに居るのは三宙だけ。別にいつものことと言えばそうだったけれど、なんとなく今朝ぐらいはそのまま隣に居て欲しかった。
     寝起きのボンヤリとした頭で昨夜のことを辿っていく。沈んだ思考に任せてなかなか恥ずかしいことを言ってしまった気がしなくもないが。
    『オレってなに?』なんて。
    (重たくて仕方ねーよな。そんなん嫌に決まってるじゃん。オレばっかり)
     頭の中で滞留する気持ちを整理するはずの言葉の羅列は、結局誰に向けているのか。自分の中でさえハッキリとさせられないのだから、このあやふやな現状があるのだろう。
    『過剰演出すんな』なんて。
    (さらっと流されてさ。悔しいけど、その通りなんだよな)
     ふと時計に目を向ける。午前五時。まだ起きるには早い時間だ。
     おやすみと言ってそこで寝付くのは三宙だけなのだ。いつもいつも。寝付くまで見守ったうえで、何もなかったように脱け出すと四季はそのまま帰っていく。
     空いている隣の場所に寝返りを打った。そこにはやっぱり四季の香りが残っていて、隠そうとしている三宙のもの悲しさを膨らませた。
     ああいう時間は好きだけれど、ハッキリしない関係がもどかしくないはずはない。
     人間は一度行動を選択したことは日常の選択肢として存在させてしまうらしい。いつか読んだ本にそう謳われていた。
     四季用の服を作ろうとして寮の自室に呼んでいた頃、興味本位のなし崩し的に身体を交えてしまった。だからお互いの日常にその選択肢ができてしまった。
    (たぶんあの時から、オレはもう四季のこと好きだったんだよ。ずっと)
     誘った仕事についてきてくれた分、喜びの感情の方を感じやすくて、いつしか個人的な好意についての考えがすみに追いやられていた。いや、不確かな関係に対して蓋をし続けていた。一年前と環境はすっかり変わったというのに。
    (アンタはどうなんですか、四季サン)
     涼しい色をした瞳の奥で、あの人はいったい何を見ているのだろう。全く軽くない自分のことを抱えきれないで、どうにかなりそうな気分に支配されて。儘ならないことに身動きが出来ないで。こんな風に醜いところを見透かしてしまっているだろうか。
     上掛けを頭までかぶって三宙は蹲った。そうして再び寝付けないまま、時間だけが無為に過ぎていった。


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