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    手繋ぎいろいろ

    #しきみそ

    今ここに在ること3 路面電車を降りて、燈京駅裏のごちゃごちゃとした通りを慣れた足取りで進んでいく。復興してきてはいるが、相変わらず育ちの良い人間が好き好んでは来なさそうな場所だ。それでもやはりいつもの通り、四季の隣を歩く坊っちゃんもとい三宙は周囲の露店に目を奪われていた。
    「いや~、ホントおもしれーとこだよな駅裏って! マジでいつ来ても同じじゃないっての?」
    「確かに。向こうの方に知らない屋台が増えてるみたいだな」
    「じゃ、試してみるしかないっしょ~」
     けれど、これまでとは違う点もあるようだ。何気なく話しながら、四季の左手の近くにある気配が近付いたり遠ざかったりしている。視線だけを向けてみると、当然スリの類ではない。思った通り三宙の手が着地を決められないで彷徨っていた。
     気付かれない程度にため息を漏らす。さっきは路面電車で盛大に腕を組んできただろうに、こいつはいったい何をためらっているのだろう。
     左腕はとっくに解放されて自由になっていたが、四季としてもそれにもどこか物足りなさを感じていた。
    (仕方ないな。タイミング合わせてやるか)
    「にしても賑わいすごすぎ。下手したらはぐれそーだな」
     下手なのはお前の言い訳だよと思いながら、近付いてくる指先に自分の指先を触れされる。迷いが抜けないような三宙の中指がおずおずと引っ掛かけられる。そんな調子のクセに全部の指の隙間を縫ってじわじわと絡めとることを選んでいる。
     人混みのため歩く速度は普通よりもむしろ遅いくらいだが、心拍数はこの速度のそれよりも早くなっているのが解る。三宙の身体が覚えているのか知らないが、こんなものは身に覚えのありすぎる触れ合いで自分が用いたことの再現でしかない。
     こんな所でしてくるなよ。なんだか余計に変な気分になりそうだ。手を繋ぐことの行く末を委ねてみたことと、まだまだ帰れそうにない状況に四季は舌打ちをした。
     仕返しに、絡めた指に嵌められた指輪を抜き取るように弄んでやる。繋いだ手にぎこちなく力が入るのを感じる。
    「あの屋台けっこう並んでるけど、どうします?」
     三宙も何でもない風を装ってはいるが、上擦る語尾と染まった耳では誤魔化しきれていない。これでおあいこ。無駄に人を煽る馬鹿にも通じたらしいので、四季もとりあえずはよしとした。
     涼しい顔をしていられるように深く息を吐く。そして質問されたことに返事をしようとした声は遮られた。
    「すみません。少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
     想定していた声とは違うものが聞こえて、ん?と三宙が首を傾げた。その拍子に、外面を繕うように手が離れる。
     まさか実家の関係者とやらだろうか。わざわざこの場所を選んで来ているのに、どこにでも物好きは居るものらしい。
     ひそめた眉を隠そうともせずに四季は知らない声のした方を見た。三脚に載せたカメラを抱えたラフな服装の見知らぬ男が、二人から半歩下がった位置につけて歩いている。
     あからさまに邪険にされてしまうと参りましたね、などと言って本気で困った様子だが、相手も引き下がるつもりはないようだ。ポケットから何か小さな入れ物を取り出すと、そこから紙片を一枚差し出してきた。受け取るつもりが微塵もない四季に代わって三宙がそれを受け取る。
    「マジ?! 雑誌の記者サンっすか! あーでも、申し訳ないっすけど知らない雑誌かも」
     そこからの話によると、新創刊するライフスタイル系雑誌のひとつの特集に載せるための写真のモデルに二人でなって欲しいとのことだった。
    「つまり、爆イケのオレらに紙面を飾って欲しいってことっすよね? ストリートスナップに声掛けられるとかアガるわ~!」
    「僕はいいから。一人で撮ってもらいな」
    「えー! いいじゃん。せっかくなんだし、一緒に撮ろ?」
     四季を見遣る三宙の視線には、纏っているお手製のリメイク品のことも含まれていると察しがついた。反応が面白そうだと着てきた事がここで仇となったが、こと服関連で三宙を折れさせるのには手間が掛かりすぎる。何より、こんな日に争いたくはなかった。
    「……じゃ、貸し三つで」
    「よっしゃ。ってことで、よろしくお願いしまーす」
     三宙がそんな調子で浮かれていたので、てっきり撮影されるのはお手の物かと四季は勝手に思っていた。けれども、現実とはかなりズレた認識をしていたようだった。それは、おそらく本人も。
     雑誌の記者からカメラを向けられた途端、三宙はとても自然とは言い難い様相になっていた。想像していたような軽いノリのポージングとは程遠く、握り締めた拳からは嫌というほど緊張が伝わってくる。
     この様子だ。実家のことでも思い出すのだろうか。確かに暮らしている中で写真を撮る機会があるヤツなんていうのは限られているような気がする。
     記者が余計な口を挟む前にカメラの向きを確認して、四季がさりげなく立ち位置を変更する。そうしてカメラからは見えない場所で、頑なな拳をそっと手で包み込んだ。
    「お前の隣に今居るのは僕なんだから大丈夫だよ」
     通りの脇とはいえ雑踏の中での呟きだったが、伝えるべき相手にはきちんと届いたらしい。
    「そーだよな」
     三宙を縛り付けるような緊張が解けると、見合わせた顔にははにかみ混じりの笑みが咲いていた。いい顔してるよなと素直に思うと、つられて四季の顔も緩む。
     そこでシャッターが切られる音がして、しまったと気付いた時には既にもう手遅れだった。
    「モデルの経験も役に立つもんだな」
    「なんかもう、貸し三つがすげー安く感じる」
    撮影の後、渡された用紙に雑談をしながら記入していく。と言っても確認事項への同意の欄ぐらいしか四季の用紙は埋められていない。端から埋めるつもりもないアンケートの項目は白紙にしたまま、書いているフリだけをして三宙の用紙を覗き見る。
     迷いなく滑るペン先が嬉しそうにデザイナーと職業欄に記していた。
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