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    秋祭りに行くしきみそ。来年に向けて

    #しきみそ

    余所見、寄り道、帰り道。 祭囃子が遠くに聞こえる。そちらに向かっていく人の流れが多数を占めるなか、逆行するように三宙と四季は歩いていた。普段は出店していないような屋台や露店も軒を連ねていて、メインイベントを観なくても祭の雰囲気は十分楽しめるようになっている。
     絶賛復興中の街は旧時代の祭を復活させることにも積極的で、今まさに行われていることもそのひとつだった。秋祭が執り行われる報せを知って、真っ先に三宙は四季を誘った。けれども一緒に行くことを了承してもらうのにはかなりの妥協が必要だった。
    (やっぱ神輿は担がれてるところが観たかったよな)
     風に乗って聞こえてくる笛や太鼓の音に思いを馳せるが、四季からは人波に揉まれるのはごめんだと最初から敢えなく却下を食らってしまっている。出発地点に展示されている神輿を二人で見る約束だけはどうにか取り付けて、その帰り道だ。
    (まあ一緒に見たは見たけどさ……)
     そんな風にして後ろ髪を引かれながら歩いていると、反対側から走って来る子どもの姿に注意を向けるのが若干遅れた。
    「おっと。ごめんな!」
     ぶつかる寸前で避けて、そこでようやく三宙は気が付いた。隣を歩いていたはずの四季の姿がない。
    (嘘っ!? はぐれた……!)
     すぐに辺りを見回すが、見知った薄緑は見当たらない。申し訳なさや恥ずかしさを感じながら、ひとまずその場で立ち止まる。こういう時には下手に動かないに限る。四季からお前は目立つと散々言われている自覚はあるので、三宙はそれを利用することにした。近くの露店の端に背を向けて、右へ左へ途切れない人々を見送る。
     少しして、元来た方向の人影がやや疎らになった。その空間、三軒ほど手前の露店に四季の姿を見つけた。
    (あ、居た! 良かった。……てか、なに見てるんだ?)
     捜し人は露店の商品を熱心に見つめているようだ。自分がはぐれて焦っている間にあの人は何をしているのかと三宙は拍子抜けしたが、逆に言えばチャンスでもある。勝手に消化不良を起こして引きずって上の空だったせいではぐれたことを知られる前に合流してしまえばいいと思い直した。
     今度は見失わないように目を向けつつ、無事に隣に辿り着く。
    「なんかいい物でもあった?」
     隣に四季が居ることに酷くホッとしながら、何でもないように声を掛けた。
    「ん? まあ、気になるのが少し」
     とりあえず、いつも通りの返答に安堵する。
    「ヴィンテージの舶来品じゃん。四季がこういうの見てるのちょっと意外~」
    「そうか? いいだろ別に」
     何気ない話の流れ。だから油断していた。
     不意に手を掴まれて、四季の上着のポケットに誘い込まれる。
    「それより、あんま余所見すんなよ。危なっかしいから」
     チラリと隣を見やるけれど、目は合わない。でも、手を握る力は強い。
     三宙はさっきとは異なる種類の申し訳なさと恥ずかしさに襲われて視線を逸らした。謝るタイミングと言葉も失ってしまい、ただ露店に並べられた品々を見るフリをする。
    「旧時代の外国のコインのデザインってけっこー好きだな」
     言いたいのはこんなことではないはずなのに、違う言葉が滑り落ちる。
    「ちょっとしたアクセサリーに加工したら良さそうかも」
    「お前のデスクに積んであった雑誌のどれかに載ってたよな」
    「そう、アレ。指輪に加工するやつ」
     そこまで言ってから、やや引っ掛かった。イメージしている雑誌はきっとお互いに同じだろう。少しの間とはいえ三宙が四季を見失ってしまったのは、いつの間にか四季が露店で立ち止まっていたからで……。
     三宙にとってはその場しのぎの話題だったけれど、案外この話題は核心なのかもしれない。自惚れた予感が本当ならば。
    「それ、作ったらオレにくれるやつ?」
    チラチラと視線を隣に送りながら、ついつい期待が口を衝いて出る。
    「は? 自分用かもしれないだろ」
    「いやいや。それはないって!」
     四季の鋭い否定を三宙が即否定すると、苦々しい顔を向けられた。みすみすチャンスを潰してしまったかと思われたが、返ってきた答えは予想と違うものだった。
    「……まあ、お前が欲しいなら作ってみるか。暇潰しにもなるし」
     言葉と口調は素っ気ないものの、そこから感じ取れるものは沸き起こった予感のとおり。聞き間違いかと三宙が呆気に取られている内に、四季は露店の店主に声を掛けていた。
    「すみません。これ、同じやつ二つで」
    「え? しかもペアってこと!?」
    「悪いかよ」
    「全っ然悪くないです!」
     降ってきた喜びが大きすぎて顔が緩むのを止められない。三宙が言質を取るようにポケットの中で指を絡ませると、着けている指輪を四季に軽く弄ばれた。まだ出来てもいない物に、飛躍した妄想が駆けていく。
    「来年は担がれてる神輿も観たいなー」
    「そうだな。二回目なら多少はマシだろ」
    そしてその時には、きっと。

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