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    ao_nene

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    ao_nene

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    少女と剣王/シエテ
    シエテのエピの「少年と剣王」が少女だったら、どうだっただろうなという妄想
    ※モブの女の子が出てきます めっちゃ喋ってます
    ※時系列はこくしんイベの少し前くらい

    #グラブル
    Granblue

    まだ、陽が昇らないうちに家を出た。
    あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
     頭の片すみでぼんやりとそんなことを考えながら、少女は何度目かの鍬を振り下ろす。
     鉄が地面を打つと、痺れるような痛みが手に響いた。
    (ちっ)
     心の中で思わず舌打ちしてしまうくらい、痛みの割に得られる成果は乏しい。
     足元にはまだ、せいぜい犬一匹分くらいの窪みができたくらいだった――。 
     街外れにある森の、奥深く。
     周りを占める大樹のおかげで、空からの陽は遮られ空気は冷えている。
     にもかかわらず、頭をすっぽりと覆っているくすんだ色のしたフードから辛うじて覗く少女の額には、じんわりと汗がにじんでいる。
    「こんなんじゃ、今日中に終わらないかもな……」 
     彼女の口から零れた声音は、ひどく頼りない。
     気休めに上を見ても、そこに空はない。
     光の届かないところが良い、と選んだのは他ならぬ彼女自身だった。
    「はぁ」
     黒々と生い茂る葉を見つめながら大きく一度息を吐くと、すっかり力が抜けてしまった。
     少女は持っていた鍬を地面に放り投げ、その場にしゃがみこもうとした、その時――。
    「こんなところで何してるの?」
     突然後ろから声をかけられて、驚いて振り向く。
     聴こえた瞬間、男の声だと解ったので、少女の全身に緊張が奔った。
     咄嗟に身を護るような体勢を取り、声の方を睨みつけると大仰な白い外套を纏った男が立っていた。
     その顔に、薄い笑いを浮かべている。
    (なんだこいつ)
     一目見ただけで、今まで自分の周りにいた人間達とは明らかに違うことが分かる。
     これは、「上等」な人間だ。
     だが、危険はないはずだとは思うのに、少女は警戒を解く気になれない。
    「やだなぁ、そんなに睨まないでよ。大丈夫大丈夫、お兄さん怪しい者じゃないから」
     男は場にそぐわない陽気な声で、全く信用できないことを軽々と言う。
    「……こんなとこに、何しに来たんだよ」
    「それはお互い様じゃない? こんなとこで何してるの? あーいやいや、別に君が悪いことしてるんじゃないかなーとかそういうんじゃないから、言いたくないならそれで全然いいし! ほんと、俺は通りすがりのただの良いお兄さん!」
     害はないと主張するように、両腕を広げる男を見つめる少女の瞳は険しい様相を湛えたままだった。
     しかし、そんな少女の視線を意にも介さず、男は自分のペースで話を続ける。
    「ねぇねぇ、それよりお腹すいてない? 実はさぁ、ここにすごくおいしいサンドイッチがあるんだよね、一緒に食べてくれる人いないかなーって探して歩いてたら、いつの間にかこんなとこまで来ちゃっててさー。で、やっと運命的に君に出会ったってとこなんだけど」
     あからさまに嘘だとわかる嘘を平気で言う男に、少女は逆に毒気が抜かれてしまう。
     慎重に、少女は体の緊張を解いていく。
     恐らく、ここは自分の勘に従っても良さそうだ。
     それに警戒したからと言って、どのみち彼女に勝ち目はない。
     男が帯刀している二本の大振りの剣と、その体格からして、やり合ったところで敵うわけがなかった。
    「ほらほら、こんなところにちょうど椅子がわりになりそうな樹が倒れてるよ。ここに座って食べようよ」
     男はそう言いながら、朽ちて倒れたのだろうか、地面に横たわっている樹まで歩を進め、そのまま腰を下ろした。
     少女もそれに倣い、一人分の間を空けてゆっくりと隣に座る。
    「はい、どうぞ」
     男が、本当にサンドイッチを紙袋から取り出し、少女に差し出してきた。
     迷ったのはほんの一瞬で、明らかに美味しそうに見えるサンドイッチを素直に受け取る。
     切れ目から、赤いトマトと、何か肉っぽいもの、それに葉野菜が覗いていた。
     そうか、お腹が空いていたんだな、と少女は気づく。
     夜明け前に家を出てから、何も食べていなかった。
     正確には家を出る前にも、何も食べてはいない。
    「んん! うまい!」
     大口でサンドイッチを頬張りながら、男が明るく感想を現す。
    (子供みたい)
     無邪気に笑うその顔を、ぼんやりと見ながら少女も一口サンドイッチをかじった。
     新鮮なトマトと、肉と思っていたのはどうやら魚の身をすりつぶしたものらしく、酸味の効いたソースとよく合っていた。 
    「おいしい」
     初めての味に、少女は半ば溜め息のような言葉を漏らす。
    「でしょでしょ。ここのはパンにも拘っていてね、あ、もう一つあるから遠慮しないで食べてね!」
    「いや、一個で大丈夫だよ」
    「子供が遠慮なんてしないの、はい、どうぞ」
     相変わらずこちらの反応など構うことなく、男は自分の好きなように喋り、好きなように振る舞う。
     少女は勝手にもう片方の手に掴まされたサンドイッチを見つめながら、食べ続ける。
     気遣いが、全く無いという訳でもないと感じる。
     隣にいても違和感は感じるが、不快感は無い。
    「ごちそうさま。おいしかった」
     男の言うがままに遠慮なくサンドイッチを二個きっちり食べて、少女は簡潔に礼を述べる。
    「こっちこそ、一緒に食べてくれてありがとう。食事って一人で取ってもおいしくないからね。助かったよ」
     食べたからだろうか、それとも気が緩んだせいか、少女は蒸し暑さに気づき、被っていた頭のフードを取る。
     三つ編みにされた少し薄めの赤色の髪が、その下から現れた。 
    「何?」
     男の視線が自分に止まっているのに気づき、少女も男を見返す。
    「あーいやいや、ちょっと知っている子に似ているなぁと思って」
    「ふーん」
    「君より少し年下かな」
    「あたし、言うほど年とってないよ」
    「あ、そうなの?」
    「そうだよ」
    「秘器なんて持ってるから、それなりの年なのかなと思っちゃった。ごめんね」
     男の言葉に、少女は一瞬どきりとするも、予想はしていたことだったのですぐに冷静さを取り戻すことができた。
    「やっぱり気づいてた?」
    「ちらっと見えちゃった」
     男は片目を閉じて、悪戯っぽく笑う。
    「見せてもらってもいい?」
    「……いいよ」
     少女は外套の内ポケットから縫物に使うよりも大きめの針を取り出し、男の方に差し出した。
    「ああ、よかった催眠針か。石化の方だったらどうしようかと思ったよ」
    「あっちは材料がちょっとめんどくさいから、あっても自分では使わないよ。売った方がいい」
    「作る方が専門?」
    「うん」
     男の存在に気づいた時、咄嗟にいつも外套の内側に護身用に仕込んでいる催眠針を手にしたが、やはり彼はそれに気づいていた。 
    「いい腕してるね」
     男は針を自分の目の高さにまであげて眺めながら、感心したように言う。
    「……ありがと」
    「これならいい値で売れるでしょ」
     そう言って、男は少女の手に針を返す。
    「前はね。親父が生きてた頃は、あっちも相場の値段で取引してたけど、死んでからは、子供だと思って舐めやがってなんだかんだ難癖つけて買い叩いてくるようになってさ。こんなのいくら作っても、売りさばく力がなけりゃ、いつまで経っても搾り取られる側だ……」
    「元締めみたいなのがいるってこと?」
    「そういうの、あたしほんとに良く分かんないんだけど……秘器を使う人達とか周りにいないからさ、直接売ったりできなくて。ずっと親父がやってたから詳しくは知らないんだけど……なんかそういう流通ルート? とか言ってたかな。お兄さんよりもうちょっと歳取ってる感じのドラフの男がいて……そいつが大体一か月置きくらいにやってくる」
    「ふうん、なるほどね」
     男は顎に指を当てて、少し思案している風な顔をする。
     そして、目だけを少女に向け、少し離れた所を指差しながら彼は言った。
    「じゃぁさ、あれはお父さん?」
     それも、少女は気づかれているだろうと、予め予想はしていたので、いまさら特に取り乱したりすることはなかった。
     ただ少し、鼓動が速まるだけで――。
    「ちがう。親父が死んだのは一年くらい前。あれは……兄貴」
    「そっか」
     さっきまで少女が地面を鍬で打ちつけていたすぐそばに、荷台が一つあった。
     その荷台を男は指差し、訊ねたのだった。
     正確には荷台ではなく、荷台に乗っている「荷物」を指していたのだが。
     どこの農家でもよく見られる麦の茎で編まれたむしろが、上にかけられていた。
     そのむしろの下にあるものを、少女は「兄貴」だと答えた。
    「死んだのは、病気か何かで?」
    「まぁ、似たようなもんかな……禁薬だよ、ヘヴンってやつ」
    「ふぅん」
    (あれ?)
     男の空気が一瞬、険しくなった気がして少女は違和感を覚えた。
     しかし、それは本当に一瞬だけで、すぐにまたふわっとした声で喋り始める。
    「で、ここに埋めに来たってわけだ」
    「死んだら、どうするかとかわかんなくてさ。親父の時は、なんか昔からの商売仲間だとかなんとか勝手に言ってくる奴らが葬式やってくれたけど、そいつら結局、親父が作った秘器を全部ごっそり持って行きやがって……それっきりでさ。ほったらかしにしとくわけにもいかないし……とりあえず埋めればいいのかなって」
    「まぁ、別に埋めてもいいんじゃない?」
    「人間って死んだら重いんだね……荷台に乗せるまでに諦めかけちゃったよ」
    「でも、がんばってここまで来た、えらいえらい!」
    「えらくなんかないよ……全然、穴掘れなくて、結局まだ埋めれてないし」
     鍬を振り下ろす度に手に響く痛みと、反して得られない成果による惨めさを思い出し、少女は喉の奥に小さな痛みを感じた。
    「手、出して」
    「え?」
     また、男は理解の追いつかないことを言う。
     しかし、感傷に侵されかけた後ろめたさが、少女に言われたとおりに手を出させた。
    「ちがう、ちがう、掌を上にして」
     男の指示通り掌を上にすると、そこに冷たい感触が落ちる。
     見るとそこには、銀色の硬貨が三枚置かれていた。 
    「え、何、これ……」
     少女は今度こそ、本当に涙がでるかと思った。
     憐れまれたのだろうか、と――。
    「あーちがうちがう、同情してあげるとかじゃなくてさ、売ってほしいんだよ。まだ持ってるでしょ、秘器」
    「あ、あー」
     自分の憂いを言い当てられて動揺してしまい、少女は誤魔化すように慌てて腰に付けている簡易の道具鞄の中から、鉄製の細い筒を取り出した。
     手早く蓋を開けて、男に中身を見せる。
    「麻酔針と催眠針が三本ずつ。あと……」
    「ああ、針はいらないや。リフレインがほしいな」
    「え、あ、ごめん、リフレインは、無くて……それ系ならアポクリファと、アドレナルになる……」
    「ああ、いいじゃない。それ、二本ずつほしいな」
    「うん、わかった」
     代替品を男が歓迎してくれたのが嬉しくて、少女は再度慌てて道具鞄から色違いの小瓶を二つずつ取り出した。
    「知り合いの子がさ、最近こういうの使うジョブを取ったって言ってたから、プレゼントしようと思ってね」
    「それ、女の子?」
    「さあ、どっちだろうね」
     男は、いい加減な微笑みで少女に答える。
    「あのさ、サンドイッチのお礼で、おまけしとくよ。モラールショットが、一個だけあったから」
     そう言って、少女は男の手にまた別の小瓶を渡した。
    「えーほんとにいいの!? モラールショット嬉しいなぁ! あ、代金はそれで足りてる?」
    「うん、十分」
     実際、男がくれたのは父親が生きてた頃の売値の倍の金額だった。
     三枚の銀貨を軽く握り締めると、少女の脳裏に父親の姿が朧げに浮かぶ。
     それは、ひどく久しぶりに見た顔だった――。
    「そのマント、かっこいいね……」
     涙が零れてしまう前に、咄嗟に思いついたことを少女は口にした。
    「え! やっぱりそう思う!? 実はさ、これ、俺が作ったんだよね! やーうれしいなー! なんかさぁ、いまいちみんな喜んでくれなくてさー。でも、結局今も着続けてくれてるってことは気に入ってるってことなんだと思うんだけど、素直じゃないよねぇ」
    「そ、そうなんだ」 
     男の言っていることの全部を理解した訳ではなかったが、とりあえず少女は相槌を打つ。
    「白なのがいいな」
    「でしょでしょ! やっぱり君も白が好き!?」
    「あ、いや、好きっていうわけじゃないんだけどさ……なんか、真っ白なのがいいなって。私のはさ、ほら、染みだらけだから」
     少女は自分の身に着けている外套の裾を持って、広げてみせる。
     この外套も最初は白かった筈なのだが、いつの間にか所々に汚れが染みつき、全体の色もぼんやりとうす汚れていた。
    「染みってさ、一回ついちゃうと洗っても、中々とれなくてさ、薄くはなるけど残っちゃうんだよね……なんか、そういうのやだなって。生地もさ、そういう上等なのだと汚れにくいじゃない? ある程度はじいたりしてさ……安物は、やっぱりダメだね、すぐに汚れちゃう」
     はは、と少女は乾いた笑いを落とす。
    「服なんて、汚れたらまた新しいのに着替えればいいだけだよ。染み一つない綺麗な服を着ていても、中身が腐ってる人間なんて山ほどいるからね」
     そして男は低くゆっくりと「それに、君は安物じゃないし、汚れてもいないよ」と続けた。
    「星屑の街に行くといいよ。さっき言ってた、君にちょっと似てる知り合いがそこにいるんだけどね。エルーンの双子で、片割れは男の子でさ、そこで彼らと一度頑張ってみたら? 君が生きたいと思っているなら、きっと助けてくれるよ。秘器を売るのも何とかなるんじゃないかな」
    「……うん」
     今日、初めて会った名前も知らない男の言うことに頼るなんて、どうかしていると、少女も微かに思うのだが。
     でも、この人は私のことを「可哀そうな子」って目で見ないから――。
     だから、信用できる……信用したい、と思ったのだ。
    「あのさ、一つだけ甘えても、いい?」
    「いいよ」
    「あれ、埋めといてくれないかな」
    「最初からそのつもりだよ」
     男のその言葉に、少女の体から力が抜けた。
     本当は、期待していたのだ……少女も、最初から。
     もしかしたらこの男は、自分を助けに来てくれたのではないかと。
    「ごめんね、めんどくさいこと頼んじゃって……」
    「さっきも言ったでしょ、子供は遠慮しなくていいって」
     今度こそ本当に涙が零れてしまいそうだったが、ここで泣いてしまってはなんだか男の親切に背いてしまいそうな気がして、少女は必死で堪えた。
    「よし! じゃぁ、あたし行くね!」
     できるだけ、明るい声をふり絞ってそう言うと、少女は勢いよく立ち上がる。
    「うん、気をつけてね。俺の方からも君が行くこと連絡しとくから。ほんとはここで一筆書いて渡してあげたいんだけど、生憎、今書くもの持ってなくてさ」
     人の良さそうな笑顔を浮かべ、男はひらひらと手を振った。
     少女も微笑み返し、手を軽く振ると、小走りで歩き出した。
     ――どうしてあの時あんなことを言ったのか、少し名残惜しかったのだろうか、と少女は後になって思い出したりもするのだが。
     男から、幾分離れたところまで来て、少女は振り返りできるだけ大きな声を出して言った。
    「あのさー! お兄さん、親切の仕方が中途半端だよー! それじゃあ好きな人できてもすぐに振られちゃうよー!」
     もう、男の姿は見えてもその表情までは見えなかったが、きっと笑っているだろうと少女は思った。
     そして、彼女は今度こそ森の外まで駆け抜けた。

    ***

    「余計なお世話だよー!」
     男は両腕を腰に当てながら軽く苦笑し、その後ろ姿を見守っていた。
    「さて、と。天星剣王のやる仕事でもない気がするんだけど、仕方ないよね~」
     いよいよ少女の姿が見えなくなると、荷台の方に向き直り、頼まれた仕事に着手しようとする。
     禁薬に堕ちた人間の最後は、静かなものではない。
     逆に、死に至るまで、何度も半狂乱を繰り返すのが常だ。
     それを少女は一人で耐えたのだ。
     大き目の瞳が、少女の容姿を幾分見栄え良くはしていたが、それは生まれ持ったものでもあるだろうが、痩せていることの方が要因として大きいだろう。
     顔色の血の気の無さからも、もう長いこと十分な食事を摂っていないことが容易に想像できた。
    あのか細い体躯では、あと何度鍬を振り下ろしても、土を抉るほどの力は生み出されなかったろう。
     最後の役目くらい、免除されてもいい。
     そもそも、その役目を負うには彼女はまだ若過ぎる。
    「サラーサがいたら楽なんだけどな~、ってあいつのじゃ穴、大き過ぎるか」
     自分で自分の言葉に指摘をすると、男は腕組みをしながら「ん~どうするかなぁ」と地面を見つめる。
     が、ふと、脳裏に一つのことが思い浮かび――。
    「やっぱり、送って行ってあげたらよかったかな?」
     少女の進んでいった先をもう一度見ながら発したシエテの声音は、ひどく呑気なものだった。
     勿論、彼の視線の先に少女の姿はもうなかった。

    ***

    「カトル、手紙だよ」
    「手紙?」
     エッセルから渡された封筒を見るなり、カトルはその端正な顔を歪ませる。
     真っ白な、一目で上質な紙だと解るその封筒をよこしてくるのは一人しかいない。
     差出人の軽薄、とまでは言えないのがまた癪に障るのだが、妙に明るく笑った顔を浮かべてしまい、カトルはその眉間の皺をさらに深くする。
     どうせろくなことじゃない、と胸の中で悪態をつきながら封を開けて中の便箋を取り出した。
     便箋に書かれていた文字は、たったの二行。
    (何が、『よろしくね』だ)
    「シエテ、なんて?」
     明らかに不機嫌なカトルの様子を見て、エッセルが少し心配そうな気配を窺わせて、訊ねる。
    「また、僕達に後始末をさせたいみたいだよ」
    「新しい子がくるの?」
    「赤毛のヒューマンだって」
    「え、ほんと?」
    「女の子らしいから、姉さん頼むよ」
    「そっか、楽しみだな」
     カトルから渡された手紙を見ながら、エッセルは静かに微笑む。
    「ちゃんと迷わずに、ここまで来れたらいいけど」
    「大丈夫でしょ、あの人に目をつけられた子なら。それに、一人で辿り着けないようなら、どの道ここではやっていけないよ」
    「そう、だね」
    自分の発言により顔を曇らせた姉を見て、カトルは短く一つ息を吐く。
    「封筒の消印が五日前になっているから、今日辺り来るかもしれないよ。空いてる部屋、今あったっけ?」 
    「女の子なら、しばらく私と一緒の部屋でもいいんじゃないかな」
    「はーほんとに、面倒くさい事は全部僕達に押し付けるの、いい加減にやめてほしいんだけどね」
     カトルが溜め息をつきながら文句を言うと、エッセルが小さく笑った。
    取り敢えずは姉に笑顔が戻ってほっとしたカトルは、窓から差し込む陽の光に気づき目を細める。
    キラキラと舞うようにガラス越しに溢れる光を見ていると、本当に今日辺り来るかもしれないな、と予感が強まり、取り敢えずは早目の昼食を用意しようとカトルは部屋を後にした。
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    ao_nene

    DONEa little time with you/シエジタ
    朝チュン…っぽいもの
     寝返りを打つと、冷たい空気が肌を撫でた。
     ジータは意図せず、瞳を薄く開ける。
     部屋はまだ夜の様子を漂わせていたが、目に滲んできた色は闇そのものではなく。
     まだその彩度は低かったが、ほんのりと明るみを帯びていた。
     もう間もなく、夜が明けるのかもしれない。
     そう思いながらも、ジータは意識にまだこびりつく眠気に勝てず、上掛け用のシーツをを軽くひっぱり、そのままもう一度目を閉じた。

     が、その時――。

    「ん……」
     まるで彼女を引き留めるように、掠れた吐息が漏れた。
     おかげでジータは、今度ははっきりとその目を開けてしまう。
    (あ、そっか……)
     眼前にシエテの顔を確認し、そうだったとジータは思い出した。
     不思議なことに、気づくとその体温が、途端に甘味を帯びてくる。
     終わった後、二人ともそのまま眠りに落ちてしまったため、衣服をつけていない。
     肌から直接感じる熱は、しっとりと心地良い。
     その誘惑に抗えず、ジータが彼の胸の辺りに頬を摺り寄せると、シエテの腕が緩く彼女を拘束した。

    「ん~、今、何時?」
     シエテが、ひどく気の抜けた声で訊ねる。
     起こしてしまったのを少し悪く 1809

    ao_nene

    DONE約定/シエテとウーノの普段の会話ってこんな感じかなぁという妄想 ごくありふれた、一軒家のこじんまりとした宿屋だった。
     内装はそれなりの歴史を思わせるが、古びたといったところまでの印象は無く、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
     一階が受付兼食堂、二階が寝室と云う造りもごく一般的なものだ。
     しかし、六卓ほどあるテーブルには全て清潔なクロスが掛けられており、そういった心配りが好きなシエテは、ウーノとの待ち合わせにはここをよく指定していた。
     今日も、そのウーノとの待ち合わせだった。
     いや、正確に言うと待ち合わせの日は昨日だったのだが。
     数週間前に受けた依頼を、シエテとウーノでそれぞれ手分けをして進めていた。
     最初からそれなりの時間を有することは分かっていたので、予め落ち合う日時を決め、互いの進捗や情報交換をすることにした。
     その、予め決めていた日が昨日だったのだが。
     とある事情で、シエテは来れなかった。
     三日までは相手が来なくても待つ、と、これも予め決めていたので、一日遅れて今日ここに来ているシエテは、さほど咎められる必要もないと言ってもいいだろう。
     が、シエテはこれでも期日や時刻には几帳面で、今までウーノとのこの類の待ち合わせに遅れ 2574

    ao_nene

    DONE晴れた日に/シエテ、ジータ、ナルメア(シエジタ前提ですがCP要素は少なめ) 空は晴天。
     風は清風。
     上々の機嫌で、シエテは草原を往く。
    「ああ、いたいた」
     先に艇を訪ねると、ジータは暇つぶしに鍛錬に行くと言って出たと、面倒見の良いことで評判の操舵士ラカムが教えてくれた。
     彼の言った通り、艇からさほど離れていない所にいたので、すぐに見つけることができた。
     人影が二つ見えたが、それもラカムの情報通りだ。

    「団長ちゃーん!」
     はっきりとその姿を視認できる距離まで近づいて、シエテはいつものように彼女を呼ぶ。
     その声に反応して、ジータがこちらを見た。
     また、隣に一緒にいた薄紫の髪の女性も同じように反応した。
    「やぁ、ちょっと久しぶりになっちゃったね。はいこれ、おみやげ。団長ちゃんの好きな、アレだよ」
     ジータの所まで辿り着いたシエテは、そう言って小さな紙袋を彼女に差し出した。
    「え! ほんとですか!? ありがとうシエテさん!」
     珍しくジータはシエテに素直に礼を言い、花のように愛らしい笑顔を浮かべて紙袋を受け取る。
    「いやーなになに、お礼なんてぜんぜん気にしなくていいからね。俺は団長ちゃんの、その笑顔が見られただけで満足だからさ」
     うんうん、と一人 5777

    ao_nene

    DONE少女と剣王/シエテ
    シエテのエピの「少年と剣王」が少女だったら、どうだっただろうなという妄想
    ※モブの女の子が出てきます めっちゃ喋ってます
    ※時系列はこくしんイベの少し前くらい
    まだ、陽が昇らないうちに家を出た。
    あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。
     頭の片すみでぼんやりとそんなことを考えながら、少女は何度目かの鍬を振り下ろす。
     鉄が地面を打つと、痺れるような痛みが手に響いた。
    (ちっ)
     心の中で思わず舌打ちしてしまうくらい、痛みの割に得られる成果は乏しい。
     足元にはまだ、せいぜい犬一匹分くらいの窪みができたくらいだった――。 
     街外れにある森の、奥深く。
     周りを占める大樹のおかげで、空からの陽は遮られ空気は冷えている。
     にもかかわらず、頭をすっぽりと覆っているくすんだ色のしたフードから辛うじて覗く少女の額には、じんわりと汗がにじんでいる。
    「こんなんじゃ、今日中に終わらないかもな……」 
     彼女の口から零れた声音は、ひどく頼りない。
     気休めに上を見ても、そこに空はない。
     光の届かないところが良い、と選んだのは他ならぬ彼女自身だった。
    「はぁ」
     黒々と生い茂る葉を見つめながら大きく一度息を吐くと、すっかり力が抜けてしまった。
     少女は持っていた鍬を地面に放り投げ、その場にしゃがみこもうとした、その時――。
    「こんなところで何 7752

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