早く付き合えよ。学パロ
躍動トリオが幼馴染みみたいな関係です。
早く付き合えよ。
その日、アルトリアは見慣れた冬の光景にため息を溢していた。
彼女は藤丸リツカとオベロンとは幼馴染みの仲で、小中高とずっと一緒に育ってきた。
その成長の中で、オベロンがリツカにベタ惚れな事は彼から一言も告げられていないのに気付いていたし、一向に素直に向き合おうとしない事にも気付いていたのだが…。
「まーたリツカをホッカイロ代わりにして…」
「寒いんだから仕方ないだろ」
休み時間の廊下。
リツカとクラスの離れたアルトリアは、いつもそこで彼女と話をしていたのだが、毎年冬になると必ずその背後にオベロンがついてくる。
リツカにべったりと抱きつき、緋色の頭にだるそうに頭を乗せているが本当は嬉しくてたまらないんだろ、とアルトリアは薄い目をして見上げた。
少しからかってやろうかな。
「いや、それにしても…リツカの事好きすぎじゃない?」
「はぁ?何でそうなるんだよ。俺は寒いから!仕方なくリツカであったまってるだけ、だから!!」
「あああもう!頭の上で怒鳴らないでよー!」
イラついているも、リツカからは離れようとせず…彼女の頭に顔を乗せたままオベロンはアルトリアに言い返す。
反論するけど…リツカから離れる気がないのか。
オベロンは拗ねた様に唇を曲げるが、リツカの体に回した腕はそのまま。何ならさっきより強く抱き締めている気さえする。
「っていうか、寒かったら厚着してくればいいじゃん?昔から寒がりなのに…」
「着膨れして動きにくいの嫌いなんだよ」
嘘ですね。
本当はリツカとくっつきたいから、着込んで来ないんでしょう?
アルトリアの目は細くなったまま、何とも言えぬ顔でオベロンに視線を送った。
「あ、アルトリアは?寒くない?ホッカイロいる?」
リツカもリツカでこの状況に慣れているのか…
ポケットからカイロを出すとアルトリアの指にそれを握らせた。
学校内も暖房は効いているとはいえ、廊下はやはり寒い。温かなカイロに冷え固まった指先が解されていく…
「あったかーい…。あ、でもこれリツカの」
「いいよいいよ!アルトリアにあげる…私は背中にカイロついてるし」
「…はあ?俺の事?!カイロはきみだろ」
むすっとしているが絶対に喜んでいる。
アルトリアは本当…この男はめんどくさいな。と思うと共に、ナチュラルに冬場にくっつく二人を毎年見せつけられいい加減そろそろ…と本気で思っていた。
「…それで付き合ってないっておかしくないですか?」
「えっ…アルトリア……?」
明らかに動揺したリツカの目が泳ぐ。
オベロンの方は訝しげに眉間にシワを寄せ「は?」と一言だけ。
アルトリアは知っている、実はリツカもなんだかんだ言いつつオベロンの事を好きなのを…。
「付き合うー?俺が?リツカと?何の冗談?ワラエナーイ」
「へぇ…じゃあ、オベロンはリツカが誰かと付き合っても構わないんですね?
実はこれ、さっき預かって…」
そう言ったアルトリアがポケットから出したのは四つ折りにされた小さなメモ用紙。
「リツカの事、前から可愛いなって思ってたけど後ろのカイロが怖くて声かけられないから、もし彼氏とかじゃないならこれ渡して、って。
さっきクラスの男の子から頼まれて…」
「え?!わ、私?アルトリア宛にじゃないの?」
「ええ。はっきりと、藤丸さんに渡して。って頼まれました…ラインのIDだそうです。
あと、良かったら日曜日にデートしたいって…悪い方ではないですよ?頭も良くて…この前のテストの成績も二番目くらいで廊下に名前も貼られてたけど」
す、とリツカにそのメモを差し出したその瞬間。
後ろの男が躊躇うリツカの指より素早くそれを奪い去った。
「…オベロン…?あ、ちょっと、それ…」
返して、とリツカが指を伸ばそうとしたのだが…。オベロンはリツカの目の前でそれをバラバラに千切っていった。
「あーッッ!!何してるんですか!ばかオベロン!!」
「うるさい…」
はらはらと無残に散っていくメモ用紙。
誰が掃除するんだよ!絶対拾わないだろ!とアルトリアはオベロンを睨み付けるが、オベロンもそれに負けじと凄んだ顔をしていた。
「何なの…なあ、そいつ誰?リツカには教えなくていいから、俺に教えろ」
「えー?何でオベロンに教えなきゃなんです?関係ないじゃないですか?
彼氏じゃないんでしょ?」
アルトリアとオベロンの間で見えない火花がばちばちと散る中、リツカはバラバラになったメモ用紙を拾い始めていた。
個人情報だろうし…廊下にゴミを散らかしたままにするのは良くない、と。ただそれだけの理由で拾っていたのだが。
「……ちょっと、何してるの」
「え?」
オベロンの指がメモを拾い上げたリツカの手首を掴み上げ、驚いた拍子に再びそれは宙を舞って落ちていった。
「…きみは、そいつと連絡とる気なわけ?」
「あ、いや……散らかしたままにしておけないから…。連絡は…どんな人かわからない、し…その……」
「取らない、そうだろ?」
ぎりぎりと締められたリツカの手首は痕が残りそうだ…。見かねたアルトリアが「ああ、こら!」と二人の間に入りリツカの手首を解放してやる。
「何でそこまで突っかかるんですか?」
「気持ち悪いからだよ!」
「リツカと付き合ってないなら、彼氏でもないオベロンには関係ないじゃないですか?!リツカが誰と付き合おうがデートしようが…」
「っ…あー…もう…!!うるっさいな!
今は、まだ、付き合ってないだけだろ!!!」
苛立ちの最高潮に達したオベロンの声が辺りに響き、リツカがその場に固まった。
なに…それ…
つまり、さ…
「…これから付き合うつもりなんですか?」
ぼそ、とアルトリアがトドメに刺した一言でオベロンの頬がみるみる赤くなっていく。
「そう、なの…?」
リツカの方も、驚きで瞳がきゅっと丸まり唇を締めるとオベロンの顔を見上げた。
薄ら染まった紅色の頬に蜂蜜色の瞳。
どこか、嬉しそうな…そうであって欲しいと、願いのこもった表情を前にオベロンは頭をぐしゃぐしゃ…と掻き乱し
「えっ?!ちょっ…何…」
無言のまま…リツカの手首を掴むとそのままどこかへ彼女を連れて行ってしまった…。
「…屋上か…校舎裏辺り…ですかね……」
やれやれ、やっと動いたか…。
アルトリアは目を和らげその場に屈み込むと、可哀想に千切られたメモ用紙を拾い上げ教室へ戻って行ったのだった。
それは、リツカからオベロンと付き合う事になった。と、ラインが来る数分前の出来事だった。