鶴月SS「入るぞ、月島」
鶴見が兵舎の部屋に入ると月島は帯を肩に、着物の襟を合わせているところだった。鶴見の姿を見て、前をはだけさせたまま敬礼をする。
「鶴見中尉殿。衣服が乱れている状態で失礼しました。賭場へ赴く準備をしておりまして」
「ん、いいさ。着替えを覗きに来たのだから。構わず続けろ」
月島は瞼を半分下ろし、静かに問いただす。
「……私の裸を見る他、何かご用事がおありでしたか?」
「ない。強いて言うなら地図を見せに来た」
差し出された地図は要点のみが記され、万が一盗み見られることがあっても何が書かれているかさっぱり分からないように手が加えられていた。
「仔細は先刻話した通りだ」そう言って鶴見は月島の懐にス、と地図を差し入れて囁く。「うっかり勝つなよ、月島。あるいは一千万円ほど勝ったら金塊争奪戦は一抜けだ。そちらを軍資金にしよう」
ケチな賭場にそんな大金があるわけないのに、なんだか今夜の鶴見は軽口が多いようだ。月島は呆れながら言う。
「その時は死に物狂いで逃げさせていただきますよ。独り占めした大金で秘境の地に温泉掘って、残りの人生を静かに過ごします」
これもとんだ冗談だ。月島が仲間たちを見捨てて一人で安寧の土地に行く可能性など、あまりにもないがために、鶴見はクスクスと笑った。