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    棚ca

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    鶴見も酒の味は嫌いじゃないかもしれない

    #鶴月
    craneMoon

    鶴月SS 穏やかな夏の一日だった。鶴見の家の留守を任されていた月島は一人、持ち込んだ書類仕事を終わらせ、目を通しておきたかった文献を読んでからはゴロゴロとして過ごした。留守番という名目ではあるが、休んでいろと鶴見には言われてある。その言葉に甘えて、久々にのんびりとしてみたのであった。夕刻、腹が減って土間を覗くと、女中はすでに帰っていたが小魚と根菜を甘辛く煮付けたものと、二合徳利が置いてあった。月島は土間に立ったまま煮付けと白米を平らげ、漬物と徳利を持って縁側に出た。
     既に日は落ちかけて、涼しい風が草木を揺らしていた。塀の上をトテトテと歩いてきた猫が月島の姿を認めてヒラリと降り立ってきた。ピンと立った尻尾を揺らしながら月島の元へと歩いてくると太ももに前足をちょんと置いて覗き込んでくる。耳の後ろを軽く掻いてやると満足げに目を細めて、薄皮饅頭のような小さい頭をグリグリと月島の掌に押し付けた。そうして、何気ない素振りで室内へと入っていこうとしたので、月島は手早く障子を閉めた。すると今度は漬物の小皿に鼻先を向けるので、持ち上げて反対側へと移動させる。おやおや、人間のクセになかなか頭が回るようだと言わんばかりに、猫は首を傾げてからゆったりと伸びをした。そして、マ、いいだろうと月島の傍らでとぐろを巻いて休み始めた。
     何を眺めるでもなく、月島は漬物を齧りながら酒を飲み、時折猫を撫でて過ごした。徳利の半分ほどを呑んだ頃、眠っていた猫が突然耳を立てて起き上がった。その視線の先を追うと、鶴見が庭をサクサクと歩いてくる。勝手口から回り込んできたのだろう。猫は、驚かされたことが気に食わなかったのか、鶴見の差し出した手をぬるりと抜けて、また塀の向こうへ去っていった。
    「お早いお帰りで」
     立ち上がろうとする月島を鶴見は手で制した。先刻まで猫がいた場所に腰を下ろしながら「ああ、思ったよりもすぐに片付いた」と微笑む。
    「飯、いただいてしまいました」
    「構わない、私も食べてきたから」
     鶴見が上着を脱ぎ、額当ても取ってしまってから肩を鳴らして伸びをした。そして、視線で徳利を指して言う。
    「一口くれ」
    「盃は……」
    「いい、お前のを寄越しなさい」
     月島が差し出した盃を鶴見は受け取らずに、その手を掴んで自分の口元へ引き寄せた。そこから上澄みだけを啜ると、美味そうに時間をかけてそれを舌に絡めてから飲み下した。そして深くひと呼吸をする。鼻から吸った夜の風に酒気が混じってからまた鼻を抜ける香りを愉しんでいるようだった。
     月島は黙ったまま静かに盃を手前に戻すと、煽って残りを飲んだ。そして、徳利から中身を注ぎ足す。また飲みたいときは勝手に月島の手を引くだろうと、何も尋ねずにちみちみと自身で酒を愉しんだ。
     しかし鶴見は本当に一口で満足したようだった。鎖骨のあたりを赤くして、ぼんやりと砂利の敷かれた庭や、月島を眺めていた。時折二人の視線はぶつかったが、互いに何を言うわけでもなくただゆっくりと夜の時間が流れていく。
    「月島」
    「はい」
    「背中を貸してくれ」
     不意に鶴見はそう言ってズルズルと月島に近寄っていった。月島はじっと大人しくしながら静かに訊く。
    「もう休まれますか?」
    「うん……ここで少し眠ってから。お前は温かいな、月島……」
    「しかし、夜が更けると冷えますから。しばらくしたら、布団へ参りましょう」
     やがてスゥと静かな寝息が聞こえてきた。辺りが本当に冷えてきたので、鶴見が風邪を引いてしまわないか心配になってきたが、立ち上がる気にはなれなかった。気持ち良さそうにスヤスヤと眠っている顔は穏やかで、体は脱力しきっていたが、隙間なく身を寄せる鶴見から“側を離れてはならない”という圧力を感じるのだ。月島は少し悩んでから、慎重に自分の体の向きを後ろへ返して、背中にいた鶴見を膝に乗せた。自分は障子を眺めて座る格好になってしまったが、風除けにはなるだろうと思っていると、微睡みながらも鶴見が横へ寝返り月島に腕を回したので益々二人はピッタリとくっついた。冷えからこの人を完全にまもれるほど、自分の肉体が大きくないことを月島は申し訳なく思う。
     しばらくそうして、鶴見の重みと温かみを感じながらまた酒を飲んでいた。月の光がその背中を撫でる頃、腹の方で何かがモゾモゾと動き始めたので月島は溜め息をついた。
    「ちょっと……」
     鶴見が月島の着物をはだけさせ、まさにその中へ手を入れようとしているところであった。鶴見は悪びれる様子もなくツツと指先で傷跡をなぞり目を細める。
    「よし、一眠りして夜風にあたったら酒が抜けた。布団に行くぞ、月島」
     露わになった胸をつままれ月島は湿った息を吐いたが、プイとそっぽを向いた。
    「酒を纏った私の舌で、貴方が最中眠りに落ちてしまったら……私はとても惨めなことになる」
    「いいだろう、お前は酒の香り漂う甘い声を漏らす他、口を閉じていろ。お前が口を吸ってくれと私に懇願してくる時まで、お前の可愛い舌は休ませてあげようじゃないか」
     月島の腹の傷に幾つもの口付けを落としながら鶴見が囁いた。月島は少しムスリとした表情でキュッと酒を飲み干し、唇の端の滴をペロと舐めとる。盃を脇へ置くと鶴見が起き上がり、そして月島の手を引いて障子の向こうへと消えていった。
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