ゆじくん開発日記②「開発って、どういうこと……?」
五条の不穏な発言に虎杖は考えながら言葉を発する。どう考えても、自分にとってあまり良い意味ではないとしか思えない。思えないが、何も知らないままというのもそれはそれで恐ろしい気がする。どちらがよりマシかと考えたら、知っている方だろう。
「ん?」
想定外の好意を返されたが、想定外の展開になりつつあるという恐れを顔に張り付けた虎杖の疑問に五条は首を傾げた。
「どういうことって?」
五条としては、とても簡単に、これ以上ないくらい分かりやすく答えたつもりだ。
「開発って、え、俺、何されんの……?」
簡潔だからこそ、虎杖には良く分からない。声は不安げな色が含まれているが、その琥珀の瞳はほんのりと期待を孕んでいた。最後まではしない、という発言はどう考えてもそっちの意味合いだろう。そういう意味での開発ということは、どう考えてもそういうことだ。健全な男子高生である虎杖がほんのりと期待してしまうのも致し方ないだろう。だって、相手は百戦錬磨の大人の男である。期待するなという方が無理だ。
「……悠仁、右手、ちょっと貸してくれる?」
ほんのりと頬を染めて見上げる虎杖に、五条はふふっと笑って告げる。なんだか、ものすごい期待をしているようで可愛いなぁと素直に思う。
「え? 右手?」
しかし、言われた虎杖は意味を捉えきれずにきょとんと聞き返した。
「そ! 悠仁の右手」
五条は促すように自身の左手の手のひらを上にして虎杖に差し出す。催促するように軽く上下に振れば、虎杖がおずおずと右手を差し出して五条の左手に重ねた。
「ん、とりあえず、今は指と手のひらだけね」
むふふと笑ってから五条は楽しそうに歌うように告げる。そして、重ねられた虎杖の右手の指にするりと指を滑らせた。
まずは、一番長い中指から。すりすりと指の付け根を擽るように親指と人差し指で撫でる。優しく優しく、指の腹で。ぴくんと小さな反応を返す虎杖の手が逃げないように、他の指を中指に絡ませた。そして、絡ませた指もゆるゆると虎杖の指を撫でる。
親指と人差し指は、中指の根元を。その他の指は、中指の先までを。くすぐったそうな虎杖の様子を確認してから五条の人指し指がゆるりと擽る場所を移動する。
中指の根元から、するりと虎杖の手のひらへ移り、円を描くように優しく擽った。くすぐったいのが嫌なのか、虎杖の右手が逃げようと引かれる。だが、五条は逃がさないとでもいうように虎杖の手のひらを刺激する指を増やした。
触れるか触れないかというタッチで手のひらを全体的に撫でたり、円を描くように撫でたり、そうかと思えばまた中指や人差し指などの指の付け根に戻ってすりすりと優しく撫でられる。
普段、こんなところをこんな風にじっくりと触られることなんてない虎杖はひどく戸惑った。くすぐったい、でも、それだけではないような、なんだか変な感覚だ。
「せ、せんせ……っ!」
思わず、困ったように虎杖が五条を呼ぶ。その顔は、ほんのりと赤く染まりかけている。ちょっとだけ、体温が上がっているような感じに見えた。
「んー、なぁに? 悠仁」
虎杖の手を刺激する指を止めずに、五条が楽し気に答える。
「くすぐったい……っ!」
困ったような、泣きそうな、そんな情けない表情と声色で叫ぶように言われて、五条は思わずふはっと破顔する。可愛すぎる、そう思った。
「くすぐったいって感じる部分ってね、セックス中は性感帯になるんだよ」
にこにことひどくご機嫌に五条は言う。虎杖は言われた言葉の意味が分からずに、きょとんと五条を見上げる。
「だからね、悠仁」
見上げた虎杖の視線の先で、五条の微笑みが質を変えた。太陽の下で生徒に見せている笑顔から、がらりとその雰囲気を一変させる。どろりとした欲を孕んだそれに。
「僕が悠仁の全身を触って、くすぐったいって感じるようにしてあげるね」
真昼間の太陽の光に照らされているのに、ここだけ夜の帳が下りたような空気を纏った五条がアイマスクを外して告げる。いつもは美しい晴れた青空のような瞳なのに、今はどろりとした欲望のマグマに焼かれる夕焼けのような錯覚を抱く。
「僕が、悠仁の全身を性感帯に開発してあげるね」
大人の男の欲望を隠すことなく前面に押し出して、五条がそう言った。虎杖は、はくりと息を飲み込んで思う。とんでもない男を好きになってしまったのではないか、と。