紫煙のない夜、キスの星を数えて 出所してから初めてのクリスマスは、幸志朗が子どもの背丈ほどのツリーを買ってきて言った。
「兄ちゃん、てっぺんのお星さま、つけていいよ」
にこにこと純真な笑顔でのたまう弟サマに堅志朗ショックを受けたのは、もはや自分たちが40も過ぎた年齢であるのに子どものように"お星さまを飾る権利"を喜ぶと信じていると思われた(実際、弟は譲られたら喜んで付けるのだろう。「いいの!?」と目を輝かせて……)こともあるし、クリスマスという、堅志朗がムショにぶちこまれる羽目になった日を楽しいイベントの日として割り切らなくてはいけない面倒くささと切なさもあったし、何より子どもの頃から兄の言葉と決まっていた「てっぺんのお星さまつけていいよ」が弟の口から出たことがいちばん、辛かった。幸志朗の中で兄という存在はもう唯一絶対じゃないんだと、思い知らされた。
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