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    ナンデ

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    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    ドブ兄 出所後に兄を訪ねてくるドブ 甘め

    #ドブ兄

    ずるい奴に惚れたバツ 双子の警察官として、それなりに有名だった。と言っても何も全国区のテレビや雑誌にでた訳では無い。警察署の出している会報に小さな写真付きで載ったり、交通事故防止の講演にふたりで呼ばれ昔話をしたり、そういった人目につく仕事が普通の警察官よりもほんの少しばかり多かった。双子だから覚えられやすく、また双子が警察官を目指すきっかけになった両親の死と今日までの日々がドラマや小説のようだった。新人の時から目をかけてくれた上司などはふたりのことを「えらい」「今のヤツらには珍しく信念ってやつを持ってる」と飲む度に話した。
    「それがお前の弁解ってわけ?」
     大門が晴れてシャバに舞い戻ってから五年、遅れてドブもやっと刑務所の臭い飯から逃れられた。もう来るなよと看守たちから笑って見送られたその足で向かったのは今や引退し安穏と隠居生活を送っている黒田の元でも、未だ刑務所で規則正しい生活を強いられているヤノを今か今かと待っている忠犬たる部下である関口の元などでも、今はもう昔の女である白川の元でもなく、共犯者としてシノギを幾度も共にした大門堅志朗の元だった。
    「弁解っていうかさ、まあ〜だからしょうがないじゃん。立場もあるし。弟には警察官続けてほしいだろ」
    「俺は別に馬鹿な弟クンのことはどーでもいンだよ。ていうかどの口で言ってんだ癒着お兄ちゃん」
    「癒着じゃなかったろ」
    「ああ、癒着じゃなかったなァ、お前のせいでな!」
     ドブはあの朝、大門と会った時よりもずいぶん細くやつれていた。それもそのはずで、刑務所の中じゃ適度な運動はさせてもらえても筋トレなんてする時間も器具もないし、喧嘩はご法度。食べ物だって粗食といえば聞こえはいいが、要は必要最低限だ、焼肉だの酒だのと好きにかっ食らっていた頃のようにはいかない。
    「別に俺のせいじゃなくね?お前だって否定しなかったわけじゃん」
    「否定出来るかよ。お前だって分かってやってたんだろ。お前とボスの関係性がバレちまえば、巻き込むことになるんだから俺はお前の嘘に乗っかるしかねえよな?」
    「いや、おかげさまで弟も現役、俺もまぁそれなりに暮らせてるわけだ。ありがたいことだな」
    「俺の刑期は3年延びたんだよ!」
     ドブが上がり込んでいるのは、大門兄弟の暮らすアパートメントの一室だ。兄が刑務所から出る年に、弟がわざわざ家賃の安い警察官舎から出て自分の給料でもやっていけるくらいの慎ましい住処を用意していたのだという。仲良き事は美しきかな。
     その弟はと言うと、本日は不在である。夜勤明けから次の日の非番を利用して小戸川たちと隣県の動物園に行くのだとウキウキして出かけていった。
    「お前コーヒーがいい?麦茶がいい?」
    「酒」 
    「ねえよ。あ、あるか。梅酒。去年漬けたやつ」
    「チッ。これみよがしにシャバを謳歌しやがって」
    「ソーダ割りでいいか?」
    「梅酒なんて飲まねえよ!」
     言いながら、大門は梅酒ではなく麦茶をガラスのコップ二つ分、用意する。客に出すならお茶菓子のひとつでも必要かもしれないが、相手はドブである。遠慮も気遣いもいらないだろうとお盆もなしにそのままどかりとコップを机に置いた。
    「乱暴だな……」
    「急に人ン家に押しかけてくるやつのが乱暴だろ」
     麦茶はよく冷えていて、ドブはブツブツ言いながらも美味そうに飲んだ。大門は黙って二杯目を注いでやり、自分は一口二口ちみちみと舐めるように飲みながら、ドブを眺めている。
    「で、お前どこまで聞いたの」
    「は?」
    「俺の供述」
    「……お前が俺に協力してたのは、俺に脅されてたからってやつ」
    「それだけ?」
    「逆らったら弟を轢いて殺すだとか、俺とお前のツーショットを部下に撮らせてあるから社会的に殺すとかそういう陰湿な脅され方をしたってやつもな!なんだそれ、してねーわ!そもそもお前のほうから勝手にボスのとこに自分を売り込みにきたんじゃねえか、俺関係ねえだろ」
    「上司泣いてたわ。辛かったなって抱きしめてくれた」
    「最悪だよ、お前」
     ドブは薄ペらな上着を脱いで、足を組む。大門はそれを横目で見ながら、老けたなと思う。会わなかった八年の月日の中で大門の思うドブと、今目の前に居て大門に悪態をつくドブとでは、もはや別人だ。大門のそばに居たドブはもっと男として完成されていた。程よく筋肉のついた身体に、煙草の香り、無香料のワックスで撫で付けた髪、目尻の皺から流れ出るようにえくぼから滲み出るように彼の人生が溢れ出ていた。それは力だった。彼の魅力だった。
    「だから……否定すれば良かったのに」
    「だから出来ねえって分かってたんだろ?お前はそういうやつだよ。腹ん中真っ黒だ。俺よりヤノより」
    「不名誉だなぁ」
    「事実だよ」
     大門も腕を組み、そのままソファの背にもたれかかった。ドブは隣で、どんどんずり落ちていく大門を見下ろしている。
    「お前さあ」
    「ンだよ」
    「何しにきたわけ」
     大門はドブを見る。ドブは大門から目を逸らさない。でも、何も言わない。
    「文句言いにきたわけ?わざわざ」
    「あー……」
    「それとも復讐しにきた?」
    「別に!……そんなんじゃねえよ」
     大門は分かって聞いている。ドブは大門が分かっているのを分かっている。これは二人の駆け引きだ。あの頃もした。数え切れないほどした。スマートフォンのメッセージで、通話で、飲み屋で、ラーメンを啜りながら、情報の横流しをしながら、ベッドの上で愛し合いながら。
    「俺に会いにきてくれた?」
     そう言ったら、ドブは頬をかきながら「お前のそういうところだよ」だなんて返した。風貌も、匂いも、まとう雰囲気も、何もかもが変わったのに仕草だけはそのまんま、あの頃のまま。大門もあの頃と同じように片方の口角をあげるやり方で笑う。嬉しい。ドブが「そうじゃない」と言わなかったから。「そんなわけないだろ」と否定をしなかったから。
    「な、ドブ」
    「なんだよ」
    「次はビール、用意しといてやるよ」
     ドブは口をポカンと開けた。数秒経ってようやく理解ができると今度は視線をあちこちさせる。慌てて麦茶を飲もうとしてコップの中身が空なのに気が付いて、大門の飲みかけのコップを奪う。「ア」と大門が呟いて間もなく、飲みかけの麦茶はドブに飲み干され、空のコップがふたつ、机に並んだ。
    「最悪だよ、お前。そういうとこ」
    「最高の間違いだろ?」
     ドブは大門を睨みつけた。ちっとも怖くなかった。でもそれは、別に八年、会わなかったからではなくて、ましてやドブが刑務所の中で変わってしまったからでもなくて、単にずっとずうっとあの頃から大門はドブが怖くなかったというだけなのだ。単純な話。
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