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    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx・dcst・ユニオバ

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    ド兄 大t屋に行くゆちゃ

    #ドブ兄

    いつかこの味も懐かしい味になる、たぶんね ソファ席にどかりと座って、だらしなく足を開く。大門は肘をついて店員の運んできたお茶と水を受け取りながら、行儀が悪いなと思っている。と言っても大門だってそこまでお上品な人間ではない。むしろここ数年、ドブと共に出かけることが増えたせいか、店員に腹が立ったら怒鳴り散らしたり、無言で釣りを受け取ったり、そういうことを自然とできてしまうようにもなった。世間的に見れば大門も十分に行儀の悪い客だろう。
    「お前、何にする?俺ァ今日肉かな、生姜焼き」
    「俺ここ初めてなんだよな。定食屋ってことしか知らねえ」
    「あー?そうなん?カツにしとけば?これこれ。チキンかあさん煮定食。定番だし」
    「親子丼的な意味合いで?」
    「名前が?いや、単に家庭料理イメージなんだろ。おふくろの味っていうか」
     慣れた手つきでタッチパネルを操作するドブを、大門はぼうっと見ている。「米選べるぞ、米」とドブが聞いてくるので「ん?ああ、大盛り」と答えたら「ちげえよ、白米?雑穀米?」と鼻で笑われた。なんじゃそりゃ。
    「確かに白米と味噌汁と漬物とってきたら否が応でも家庭料理って雰囲気でるよな。うちはなんでかずっと家の味噌汁、白だったな。大門くんとこは?」
    「覚えてねえ」
     湯のみの中の温かなお茶を飲む。車内の冷房で冷えた身体にじんわり染みる。こんなこと、子どもの頃には思わなかった。
    「で、どうする?」
    「ああ、それでいい。なんだっけ」
    「チキンかあさん煮定食」
    「お前が言うと、なんか面白いな」
    「性格悪いなあ、お前」
     おしぼりで手を拭う。ドブも同じように手を拭いながら、おしぼりで顔を拭く行為について話している。曰くおじさん臭くて絶対嫌だ……。
    「それ、父親に言ったな。子どもの頃、弟とふたりで」
    「ふうん、その頃親父さん若いんじゃねえの」
    「どうだろ、三十前後だったろうなあ……」
     店員が頼んだ定食を運んでくる、湯気のたったお盆をふたつ。たっぷりのキャベツと生姜焼き、煮込まれたチキンカツのいい香りが鼻をくすぐる。大門は箸をとり、チキンカツをすくって掴み食べる。熱くて、柔らかくて、ふわふわで、おいしい。
    「お前のさ」
    「んー?」
    「お前の子どもじゃなくて良かったよ」
    「は?」
    「おしぼりで顔拭く親父で良かったの、俺は!」
     笑ったら、ドブもへらりと返した。なんだそれと目を細め、箸をふる。行儀が悪い、と大門は思う。父親だったらそんなことしなかった。
    「でも俺と飯来るの、好きだろお前」
     もう一切れ、カツを食べる。味噌汁を飲む。母さんの味噌汁は何味噌だったのか、今は分からないけれど少なくともこの味噌汁よりずっとずっと美味しかった、たぶん。
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    ナンデ

    DOODLEギャメセレ
    この道も天に続いてる  縁、というものを手繰り寄せてギャメルは報われてきた。妹の病気というこの世の終わりにも等しい絶望に打たれ、人の道を外れた自分のそばに居てくれた親友に支えられ、他人の悲鳴と怨嗟の泥に塗れて形を無くしていく最中に太陽のような王の行軍に救われて、セレストに出会った日、ギャメルは自分が今度こそ裁かれるのだと思った。グリフォンの羽ばたきの音は強く、迷いなく、空を駆けてギャメルに届き、その背に乗る女の子は天使のような風貌をしていた。だからギャメルは可愛らしい天使の口から自分の故郷の状況を聞いた時、王は許しても天はギャメルを許さなかったのだと……そう思った。
    「急いで!まだ間に合う!」
     だけれど、セレストはギャメルの手をひいて、ギャメルの人生の来た道を戻っていく。辿り着いた故郷で斧を奮って昔のギャメルによく似た「奪う者」をなぎ倒していく。病で痩せ細った妹の手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑む。巻き戻して、やり直しているみたいだ、とギャメルは思った。自分が歩いた泥の道をセレストが歩き直すと花が咲く。ああ、そうだ。ギャメルはこう生きたかったのだ。妹の前で泣くのではなく笑って、彼女を救い、親友の弓を人でも神にでもなく、正しく獲物に向けて自分たちの明日の糧にするために使わせて、奇跡のように現れた清らかな王子様に罪ではなくおとぎ話を見せたかった。何より、何よりも、ギャメルはセレストにとって素敵な男の人として出会いたかった。朗らかで明るくて、優しくて、真っ直ぐで、心根の美しい青年として、セレストに出会いたかった……。
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    ずるい奴に惚れたバツ 双子の警察官として、それなりに有名だった。と言っても何も全国区のテレビや雑誌にでた訳では無い。警察署の出している会報に小さな写真付きで載ったり、交通事故防止の講演にふたりで呼ばれ昔話をしたり、そういった人目につく仕事が普通の警察官よりもほんの少しばかり多かった。双子だから覚えられやすく、また双子が警察官を目指すきっかけになった両親の死と今日までの日々がドラマや小説のようだった。新人の時から目をかけてくれた上司などはふたりのことを「えらい」「今のヤツらには珍しく信念ってやつを持ってる」と飲む度に話した。
    「それがお前の弁解ってわけ?」
     大門が晴れてシャバに舞い戻ってから五年、遅れてドブもやっと刑務所の臭い飯から逃れられた。もう来るなよと看守たちから笑って見送られたその足で向かったのは今や引退し安穏と隠居生活を送っている黒田の元でも、未だ刑務所で規則正しい生活を強いられているヤノを今か今かと待っている忠犬たる部下である関口の元などでも、今はもう昔の女である白川の元でもなく、共犯者としてシノギを幾度も共にした大門堅志朗の元だった。
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