「ワイン」フルボディ”私の側に置いておくためには、お前の寿命は余りにも短すぎる。”
腕から滴り落ちる鬼の血液が、赤い液体の中へと染み込んでいく。
―――私と同じ存在になれば、ずっと側にいれる理由ができるだろう?
シュウはヴォックスに誘われて、彼が用意したワインの試飲に来ている。
ルビーのような美しい透明感をもった、真っ赤に輝く芳醇な液体。
グラスを近づけると強く香る果実やアルコールの香りとともに、年月を経て熟成された独特な時の香りがする。
舌先に触れた瞬間に、香りとともに広がる重みのある風合いが、圧縮から解き放たれたように口内に広がった。
唾液が溢れ出し、強いアルコールが息に混じって肺を刺激する。
「んん…」
飲み込むと、それはまるで景色を飲み込んでしまったかのような、重圧感のある重みが喉を通っていく。
胃に落ちたのを感じると、燃えるような熱と同時に痛いほどに心臓が脈打ち始めた。
「あれ…?」
アルコールの刺激で酔いが回ってしまったのかと思いきや、体中の血管を通って、染み渡るような熱を伴う活力が行き渡る。
少し霞んだグラスの先で、ヴォックスの口角が上がるのが見えた。
「どうした?強すぎたか?」
焦点を合わせると優しく微笑んだ、いつものヴォックスだった。
ワインの入ったグラス越しに見ると、なぜか400年の歳月を経た彼がワインに溶け込んでいるように思えた。
光に照らされて透き通る赤と、陰になって赤黒く闇のような色。
その中に、自分も溶けて、交じれたら…。
強い渇望が、無意識にワインを飲み込ませた。
気づけば空になったグラスをテーブルに置き、夢うつつの中、体に走る熱をひたすらに冷ます他ならなかった。
「これ…美味しいと思う。中毒性があるね…」
「シュウ…」
気がつくと水の入ったコップが差し出されていた。
「どうやら酔ってしまったようだな。また来週、飲むとしよう。
おまえが元気でいるためには水を飲んで、休むと良い」
冷たい水が喉を通って熱を冷ましていく。
夢うつつに染み込む冷たさは、霧のようなもやを消していき、少しずつはっきりとした意識が戻ってくる。
側で見つめるヴォックスが、ゆっくりと囁く。
『また来週、必ず飲もう。』