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    桜木さん(@na2me84)リクエスト「けけの一人称視点が好きなので、あきとくんにちょっと不審な動きがあって浮気を疑って(結局は杞憂)尾行調査とかするけけの報告書?」報告書にはなりきらなかったのですがいかがでしょうか…?

    ##K暁

    最近暁人の様子がおかしい。
    オレは恋人を束縛するタイプではない。正直、金も貰えないのに相手の同行を逐一把握したり探るのは面倒だ。それに同棲している恋人とはいえ、ふた回り近く年の違う相手である。音楽を聞く手段や呑みのシメまでジェネレーションギャップがつきまとうので「今時はそんなもんか」で流すのがお互いにとってベターな方法だ。経験則として。
    しかしながら最近の暁人は目に余る。
    オレに冷たくなったわけではない。相変わらず生意気に言い返してくることはあるがじゃれあいの一環でしかなく、四十過ぎの元妻子持ちの謎の職業のおっさんに毎日洗濯した服と栄養とコスパと好みを気にした飯と不快感のない住処を用意してくれる。金しか出せないオレに十分返してもらってるよと身の護り方や戦い方を教えていることや日々の感謝や褒める等のスキンシップ、それから夜の営みについて喜びを伝えてくる。そうだ、今度こそ全力で愛情を伝えると決めたのだ。
    それなのに最近の暁人は黙ってどこかに出かけることが増えた。
    今までなら「友達と遊んでくる」「麻里に呼ばれた」「期間限定買ってくる」などざっくりとした用件は伝えてきたのに「ちょっと出てくる」と言うようになった。実際に数時間で帰ってきて、どこに行ってたんだとさりげなく聞いてもちょっとねで終わる。何かに憑かれた気配はない。酒やクスリに溺れた風でもない。時計やアクセサリーなど身なりが変わった様子もない。機嫌は良さそうだ。
    どうしても思い浮かぶのが浮気の二文字だ。元刑事だけにそういった修羅場を経験したこともある。
    そう考えれば帰宅後に手を出そうとしたら「汚れてるから」と風呂に逃げられたのも怪しく思える。その後に事は成したが、何らかの形跡を消した可能性もある。
    暁人がそんな人間ではないというのはオレが一番理解している。つもりである。
    問題があるとすれば暁人ではなくオレのほうだ。何せ一度妻子に愛想をつかされている。
    それを踏まえてオレなりに暁人に見捨てられないように気を遣っているつもりだが、それでもオレ以上の相手などいつでも現れてそちらに徐々に心を奪われても不思議ではない。
    己の想像に段々と沈んでいく心持がする。実際にはマンションのリビングに地盤沈下の要素などないのだが。
    しかし考えればここ数日の暁人の言動すべてが気になってくる。そういえば通販サイトで何か買っていた。軽くて小さい箱で「日用品だよ」と言っていたので充電器とかそんなモンだと思っていたが……。
    「KK?」
    汁椀を出しながら怪訝そうな顔でこちらを覗いてくる。まだ寝巻きで顔も洗わず髭も剃っていないオレと違ってすっかり身支度を整えた暁人はエプロンを脱いでキッチン専用のハンガーにかけ、リュックサックを背負った。
    「出かけるのか」
    「うん、ちょっとね」
    ちょっとねって何だちょっとねって。
    こっちは問い詰めたいのに矛先を逸らすように昼飯は冷蔵庫にあるだの今日の凛子からの連絡はどうだの休みだからって寝てばかりいたら駄目だのと母親のように並びたてて
    「夕ご飯はKKの好きな鶏肉の照り焼きにするからね」
    と機嫌よく出て行った。夕飯に釣られてイイコで留守番するガキじゃねえんだぞオレは。
    最早誰もいないので不機嫌を隠さずに朝飯を食い、食洗器にぶち込み、顔を洗って髭を剃り歯を磨き着替える。
    今日は一日休みだ。緊急の呼び出しがあるとしても日が沈んでからだ。
    「元刑事ナメんなよ……!」
    そう、今度こそ暁人に与えられた万全の状態をミッションに活かす時が来たのだ。



    暁人を尾行するにおいて一番の難点はアイツがオレを見慣れているということだ。いつものオレのままでいれば一瞬視界に入っただけで気づかれかねない。そのためオレが普段しない格好かつその辺をブラついても怪しまれない格好をする。
    そう、闇バイトでもお馴染みのスーツ姿だ。
    しかもこういう時のための用意しておいたストライプ柄のスーツにパナマハットを併用すれば顔をよく見なければオレだと思うまい。もちろんスニーカーとリュックサックなどというヘマはしない。革靴にブリーフケース、偏光レンズの入れた黒縁の眼鏡をすれば熟年の外回りの営業マンの完成だ。
    既に暁人が出発してからそれなりの時間が経っているが追いかけるのは難しくない。オレが抜けてエーテル能力が落ちた(というか元に戻った)暁人と違い、むしろ絶好調なオレは糸のように細くなったものの未だ残る暁人との魂の繋がりを辿ることができる。
    天狗を使わずとも最短距離で追いかければあっさり暁人は見つかった。渋谷駅前、人ごみに隠れるには最適だ。スマホを弄るフリをして暁人の様子を伺う。
    出た時と違う格好だ。リュックサックがないので中に着替えがあってロッカーに預けたのだろう。特に派手な服ではない。Tシャツにパーカーにジーパン。帽子やサングラスで変装しているわけでもない。
    しかし一人の女性が暁人に近寄っていった。
    二十代後半くらいの社会人だろうが私服だ。デートにしては洒落ていない、そこら辺を歩く格好と変わらない。ナンパでもなさそうで二、三言会話すると示し合わせたように二人で歩き出した。
    一体何者だ?
    仕事柄、気に留めた人間の顔は覚えている。女は化粧をすると文字通り化けるから断言はできないが、少なくとも暁人周りであの顔は覚えがない。浮気のセンは消えたわけではないが、見る限り二人の仲はそこまで親密ではない。一定の距離を取り、表情も笑顔だが緊張が残っている。初対面に近いはずだ。
    さすがに人が多く話し声までは聞こえない。
    不審がられない程度に近づいたり離れたりしながら情報を集める。あくまで彼らと行き先が同じ風を装う。
    暁人を尾行するにおいて一番の利点はオレがアイツの癖を理解しているということだ。幸か不幸か暁人はオレが不審がって後をつけているとは微塵も思っていない。
    信号が変わる瞬間、ガキの泣き声、困ってそうな人間。
    愛おしいほどわかりやすい男だ、オレの暁人は。
    なのに周囲に気を配りつつも意識は隣の女にある。しかも表通りではなく一本奥の道に入っていった。この先は飯屋が何店かあり、そこで昼飯を食うのだろう。昼時だ、並んでいるに違いない。そして並んでいるところを見張るのはリスクがデカい。
    「……仕方ねえな」
    今深追いするのは得策とは言い難い。少なくとも暁人がオレの知らない女と会っていることは確定した。
    苛立ちを隠せず立ち食いそばで腹を満たし、家に帰ってソファーに寝ころび煙草を吸い、辛うじて火を消してそのまま寝る。日が暮れる前に暁人は帰ってきた。出た時と同じ服装だ。食材を買ったらしく冷蔵庫を開ける。
    「あれ、昼ご飯、外で食べた?」
    「ああ、オマエを見かけた気がするんだが、服装が違ったな」
    早速カマをかけてみるが暁人はエコバッグから出した卵を落とすことなく冷蔵庫のドアポケットにしまった。
    「制服みたいなものだよ」
    あんな何の変哲もない服のどこが制服なんだ。しかもオレが女のことを言わなかったからか暁人からも触れてこない。嘘はついていないが情報を絞っているといったところか。
    非常に気に喰わないが、浮気の決定打になっていないのも事実だ。というか何かしらの厄介ごとに巻き込まれている可能性の方が高い。怪異関係ではなさそうだが、悪霊や妖怪だけでなく暁人は生きている人間もたらしこむ才能がある。
    何にせよ放っておくつもりはないが、まだ泳がせておくか。
    オレは適当に相槌を打ってテレビを点け、新しい煙草を出した。



    信じられない現実にオレは自分の目を疑った。暁人が違う男と歩いている。また昼前に行き先を言わずに出かけるというので尾行し、今度はあの女と歩いている証拠を撮影して問い詰めようと考えていたのだがまさか仙石ビル前で合流したのはオレと同年代ほどのスーツでデブの男だった。
    連絡通路から見下ろすオレに気づかず着替えている暁人とデブはやはり会話しながら歩き出した。
    どういうことだ?
    前回の女と今回の男の共通点が見いだせない。憑かれているわけではない。暁人に好意がある様子もない。太ってはいるが不快感が特別あるわけでもない、普通の男だ。しかも左手薬指が時折光を反射している。既婚者だ。しかし二人とも後ろめたそうな様子には見えない。親子のようにあるいは上司と部下のように見える。そしてまた飯屋のある通りに入っていった。どこに行ったかまでは確認できなかったが、食事が終わった程度の時間でまた待ち合わせ場所に戻ると名残惜しさも全くなく解散した。金銭のやりとりをすることなく、スマホを突き合わせて連絡先を交換することもなく、営業のような笑顔で別れる。そして真っ直ぐ帰るか、いつものスーパーで買い物するか、本屋に寄るか、その程度の寄り道で夕食の準備前に帰ってくる。
    それが何度も続き、オレは結論を出す他なかった。
    暁人は度々ほぼ初対面の老若男女と飯を食っている。それ以上でもそれ以下でもない。
    浮気の疑いは晴れたが(勝手にオレが疑っていただけなのだが)結局謎は解けていない。そして自力では解けそうにないことにも気づいていた。オレは刑事であって探偵ではない。ある程度調べたら推理するのではく自白させるのが性分なのだ。
    そうしてオレはゆっくりできる晩に酒を飲みながら暁人に尋ねた。
    「最近色んなヤツと何食ってるんだ?」
    暁人はようやく驚き、しかし青くなったり赤くなったりすることなく、むしろ妖怪を見るような顔でオレを見た。
    「女郎だよ、言っただろ」
    それは数か月前の出来事だ。
    「ゼミの女の子なんだけど、女郎に行ってみたいけどルールとか量とかトッピングとかわからないし不安だから一緒に行ってほしいって言われたんだけどいいかな?」
    この子、とスマホの集合写真を指差されてオレは好きにしろよと応じた。
    「オマエな、女郎なんかに誘うヤツがオマエ目的だなんて心配するワケねえだろ」
    と正直に伝えると暁人はだよねと笑って後日宣言通りに女郎デビューをサポートしたらしく再びスマホで見せてきたがオレはニンニクと肉と野菜と背脂の増量されたスタミナラーメンに興味はなく良かったなと頭を撫でて終わらせた。
    それで終わりだとオレは思っていたのだが、その女がSNSにその話を載せると「自分も女郎についてきてほしい」と頼まれるようになったらしい。単純に興味がある人間や、いつもは一人だが語れる人が欲しい人間や、一人では不安な人間やそれこそ老若男女が名乗りをあげて暁人も驚いた。それに暁人にも仕事やらオレとの生活もあるので『いつでもどこでも』というわけにはいかない。それでも暁人自身も女郎に行くこと自体は吝かではなかったので条件さえ合えば『自分が行く時に一緒に来てもいいですよ』というスタンスを取ることにした。交通費も食事代も自腹だ。基本的にこれっきりで貸し借りを作らないドライな関係性にする約束らしい。それが功を奏し今のところ上手くいっているらしい。
    そして女郎に行くと当然のごとくニンニクラーメン臭くなるので、匂いだけで胸焼けがしそうだぜと言ったオレを慮って女郎Tシャツとウエストに余裕のあるボトムスに着替えることにした。言われてみればロゴが褪せないように裏返して干しているTシャツをよく見かける。入念に消臭していた。ロゴなんて気にも留めていなかったがそんな服があったのか。世の中には未知がまだまだある。
    「KKは僕が女郎サポに行ってるの知ってると思ってたんだけど」
    「知らねえよ!」
    結局オレの認識不足だったらしい。クソ、普段から面倒くさがらずちゃんと話を聞けと言われてきたのがここで伏線回収されるとは。
    頭を抱えるオレにおおよその状況を理解したらしい暁人は笑って
    「今度は二人で女郎に行こうか、デートとして」
    などと言い出したのでオレは考えておくとだけ返事をしておいた。
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    しかしながら最近の暁人は目に余る。
    オレに冷たくなったわけではない。相変わらず生意気に言い返してくることはあるがじゃれあいの一環でしかなく、四十過ぎの元妻子持ちの謎の職業のおっさんに毎日洗濯した服と栄養とコスパと好みを気にした飯と不快感のない住処を用意してくれる。金しか出せないオレに十分返してもらってるよと身の護り方や戦い方を教えていることや日々の感謝や褒める等のスキンシップ、それから夜の営みについて喜びを伝えてくる。そうだ、今度こそ全力で愛情を伝えると決めたのだ。
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    リキュール

    DONE日本ゲーム大賞優秀賞おめでとうございます!(遅刻)
    おめでたいと祝われるK暁です。本編後KK生存if、『黒猫』より少し前。
    愛したくて仕方がないが我慢していたKK×子供扱いされたくない暁人のお話。
    吉事あれば腹の内を晒せ「(おや、ちょうどいいところに)」

    ふわりと浮かぶ猫又が調査帰りの僕たちの元にやってきて尻尾を揺らした。暗い路地裏、夜も遅いこともあって人通りはないため、周囲を気にせずに堂々と触れる。耳元を撫でると、顔を擦り寄せうっとりとした表情でにゃぁんと鳴いた。これを人がいるところでやると虚無を撫でるヤバい人になってしまうので注意しなくてはならない。あれは結構恥ずかしい。

    あの夜が明け、消えていた人たちが帰ってきた。街の活気が戻り再び多くの人が行き交う渋谷になってからというもの、気がついた時には既に猫又たちはコンビニや屋台から姿を消していた。まあ人間がいなくなりこれ幸いと店を乗っ取っていただけなので、人が帰ってきてしまえば返さざるを得ず仕方がないと言えばそれまでで。だからもう会うことは無いのかと寂しく思っていたら、人気のない夜道や路地裏でひょこっと顔を出すようになったのだ。驚いたが、またあの可愛らしい鼻歌が聞けると思うと自然と顔が緩んでしまう。彼らはいつも見つけられるわけではない。気紛れに現れて、たまに撫でさせてくれて、掘り出し物を売買する。この気分屋な感じ、猫はいつだって可愛いのだ。
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