『父と母が愛したこの国を、父と母が命を懸けて守ったこの国を、俺は守ると決めたんだ!!』
(ああ、これが"騎士"か)
少年の周囲には歴史に名を残すだろう多くの騎士達がいた。
なんといっても母はかつて雷迅卿と呼ばれた救国の騎士アルベールなのだ。その部下でありレヴィオン三姉妹と誉れ高い女騎士マイムミイムメイムには赤ん坊の頃から面倒を見てもらった(未だにおしめを代えたときの話などされて困ってしまう)。父ユリウスは少年の中では公爵であり研究者であるイメージが強いが、若い頃は彼もまた騎士位を持っていた。
何をもって"騎士"たり得るのか。
血筋でなく親の七光りでなく、人を騎士たらしめるものは何なのか。
そんな聡明すぎる少年の疑問に対する答えが、両親の次に尊敬する団長ジータの昔話からもたらされたとは、本人は元より両親その他だれも考えもしなかっただろう。
それも直接関わりのないダルモア公国の英雄、騎士ガウェインの話とは。
国民がどうとか、国王がどうとか、そんなことは些事なのだと。
両親が愛した国を守る、その覚悟を持てるかどうか。それこそが"騎士"に必要なものなのだ。
少年は雷撃に打たれたかのような衝撃と感銘をうけ、そして己が歩む人生の先を見いだした。
「……それで、その話の帰結がどうして傭兵なんだ」
「まぁまぁスツルム殿、もちょっと話聞いてみようよ。ユリウス君」
「傭兵は特定の組織、国、宗教に与しない究極の個人独立の職業だから。僕がレヴィオンを出てかつ周囲に迷惑かけずに自活していくのに一番合ってると思うんだ。勿論、その分自己責任が重くなるのは理解してるつもり。」
「僕がレヴィオンで静かに暮らしたければ、騎士団に入団して平身低頭しながら中隊長くらいに収まってでしゃばらず文句を言わず静かに言われた通りに国に奉仕するしかないって断言されてるから。けど、そんな風に生きるのはまっぴらだ。僕は自分の生き方は自分で決める」
「………」
「いやー、ははは。ユリウス君は出来た子だなぁ!お兄さん感激~。ところで、そのくだらなーい人生観を君に言ったのだれかなー?」
「正面切って言ったのはガリア卿。あと、マウロ卿も噛んでる。僕のフェードラッヘの白竜騎士団への留学握りつぶしたのマウロ卿らしくて、母さんが激昂してたから」
「あー、なるほど(裏で倍くらいユリウスも激昂してるよねこれ)」
「お前がそこまで言うならドナを紹介してやってもいい。だが、傭兵は年齢履歴階級関係無しの実力主義だ。使えない奴は放り出されて終いだ。それでもやるか?」
「やる。本当になりたいものになれない以上、せめて僕は僕らしく僕の選択で生きるって決めたんだ」
「……いいだろう」
「で、ドナのところにやって雑用とかやらせてみた」
「ドナ曰く『いやぁ、良くできた子だね。雑用からちょっとした魔物退治までよく働く!それに才能もあるし。スツルムがつれないし、このままうちの子にしてゆくゆくはあたしの跡取りにしたいくらいだ!けど、…親御さんはいいのかねぇ。あの子、傭兵に収まる器じゃないよ。もっともっと上に行ける。ま、それでも傭兵になるならあたしの子にしたげるよ!』だって。いやー、ものすごーーく気に入られちゃってるよユリウス君」
「いや、本当に…ご迷惑をお掛けして申し訳ない…!」
「これで無事に揃ったな。じゃあ、帰還の方法を考えよう」
「賛成だ。どこから手をつける?」
「エルはジュエルリゾートで待機がいいだろう。目印代わりだ。ついでに資金調達を頼みたいものだね。現状、何にいくらかかるか想像もつかない。この中で一番稼げるのは君だから。私は叡知の殿堂に行ってみる。温故知新、過去に似たような例がないかあたりだけでもね」
「……お前がいいなら良いが。叡知の殿堂に行くなら幾らか包むから持っていけ」
「自分の食い扶持くらい自分で何とかするさ。それを受け取ったら普段から君の稼ぎを当てにしているみたいじゃないか」
「当てにしろ、と言ってるんだが?むしろたかれ。本来ならどこかの王室に保護される立場なのをわかってるか?」
「この非常時に椅子の上にふんぞり返っていろとでも?」
「そこまで言ってない。が、それを許される立場だろうが、"陛下(ユア マジェスティ)"?」
「エルが意地悪するんだが、助けてくれないか"皇太子殿下(プリンス・オブ・エスペランサ)"」
「ええ?そこで俺に振るのか?いや、普通にユリウスは安全なところにいた方が正しいんだろうし。俺は父王が健在で下に弟と妹いるけどユリウスは現国王で一人息子だろ?万が一が洒落にならないんだよなぁ」
「私がいなくても政治は皇太后様と皇太后配殿下がいればなんとでもなるさ。というか、現状私はお飾りだよ」
「「お飾りじゃなくて象徴」」
「なぜそこだけ息ぴったりなんだい?」
「いやはや…別世界のこととはいえわからないものだねぇ。あちらの"私"が上手く立ち回ったのかそれとも厄介払いにされたのか…まさかレヴィオンを出て他の国の王室に入って政治をするなど、今の私には想像もつかないよ」
「「「は?」」」
「……なにかおかしなことを言ったかな?」
「本気でおっしゃってる…?」
「若い頃酷くご苦労されたときいているがそれか?」
「私に聞かないでくれ…まぁ、色々とあったのは事実だが」
「レヴィオン王国国王、ユリウス二世陛下にあらせられるんだが」
「ご紹介に預かった通り、レヴィオン国王ユリウス二世であらせられるよ」
「ユリウス、自分のことをあらせられるって表現はおかしいぞ。そりゃレヴィオン国王なのは間違いないけどさ」
ふらぁ、とユリウスの頭が傾き、そのまま真後ろにひっくり返った。
「ユリウスーーー!!!」
追って響いた親友アルベールの声に、周囲は慌てればいいのか同情すればいいのかわからず、一先ず医者を呼びに走るのだった。
「天雷剣よ。今こそ我らが研鑽、先代雷迅卿にお見せする時!」
「「は?」」
ユーステスと同じ顔と声で「テンションアゲて行くぞ!」と叫びながらアオイドス並みにギターかきならすエルダリオンや、炎を纏った剣で敵を一刀両断して「悪運尽きたな!…これ言ってみたかったんだ」となぜか満足げなギャラハッドという突っ込みどころ満載な光景も勿論あったので、それを含めて即時撤退をジータは叫んだのだった。
「俺たちにとっては、ユリウス二世といえば二代目雷迅卿だもんなぁ」
「任命式の話はオペラかなにかかと思うほど出来すぎだからな」
「ちょっと誇張されすぎてるんだよあれは。国外追放されかけたときに天雷剣が振ってきて見事掴んだとかありえるわけがないだろう?」
「掴んだのは本当だろう?」
「それは結果であって、その前後の話が抜けてるんだよ。天井突き破って目の前に降ってきた剣に腰を抜かしかけたんだが?『何これ怖い怖いこっちくるな!!』って叫んで逃げ惑ったんだが?」
「その逃げ惑ったお前を天雷剣がふよふよ浮かびながら追いかけたんだっけ?あとからこうやって聞けばギャグだけど、その時は周囲は完全に絶句だったって」
「大破して国宝庫に安置されていたはずの伝説の剣が復活して子供追いかけてる図だからねぇ…しばらく逃げてたらそのうち『オイコラさっさと掴めや』くらいのトーンの剣の意志が伝わってきたから恐る恐る掴んだらビリビリ痛いし、泣きたくなったよあのときは」
「泣きたいのはお前を国外追放しようと画策した連中だと思うがな。まあ、そのビリビリになれて天雷剣片手に『フェードラッヘの騎士団試験受けに行くからグランサイファーに乗せて。あ、是非とも紹介状を一筆』って頼まれた団長と隣にいたランスロット様も気の毒だ」
「あはは、聞いたことある。団長と揃って『出来るか!!』って叫んだってな。レヴィオン王室の血を引きかつ天雷剣に選ばれた二代目雷迅卿をフェードラッヘに引っこ抜いたとか、ガチな外交問題になるやつだよなぁ」
「それこそ今思えば、だ。騎士の任命式の最中に剣で横顔ぶん殴られて、事実上の国外追放を国王陛下に宣言された後だよその一連の流れは」
「あー…流石にそれは同情する。もし俺がやられたら空の底に身を投げそう…」
「パーシヴァル陛下がそんなことするわけ無いだろう。」